わたしの考えた最高の幸せ 1
違和感。
一番の違和感は。
なにがなんでもレン姉さんをやっつけないといけないわけでもないんだから。
この台詞。
にーくんが隠しごとをしていたとはいえ。
ううん、ちがう。そもそもにーくんが、わたしの想像よりも強かったんだから。
いつものわたしなら……よろこんでいたはずだ。
自分だけ、こっそりごちそうを食べているみたいにむかつくことはあっても。
あんな感じで拗ねることはない。
あれじゃあ、いつものしーちゃんみたいで。
「そろそろ離れておいたほうがよいかと」
おんぶしてくれているタイヨウに声をかけられ、ヒオリがまばたきをくりかえす。
暗闇の中、本物と同じであろう幽霊のようにセミロングの黒髪の彼女にしか認識できないように。
気配を消しているレン姉が黒髪の彼の隣を、によによと笑いながら歩いている。
かつての小さく生意気だった頃のタイヨウの姿と重ねているのか白のショートヘアの彼女の顔は。
「エンちゃん?」
「ぎりぎりまでにーくんにくっついてたいかな」
「べつにいいですけど……また委員長に殺されそうになっても知りませんよ。今日は調子が」
「そのときは、にーくんにたすけてもらう予定」
タイヨウがだまってしまう。
レン姉と目が合うもヒオリは反応しない。
「今日のわたしは悪いことしてないんだから、しーちゃんに殺されそうになったら」
「いっしょに謝るぐらいですね。委員長とたたかうことになれば、エンちゃんを裏切りますよ」
「ずいぶんと真面目な裏切り宣言だね」
エンちゃんのアドバイスを実行するつもりなだけですよ……タイヨウが返事をした。
「委員長? しーちゃんってだれ?」
「質問にこたえてあげるので、わたしの質問にも」
「今のヨウくんが気に入っている女の子か」
まだ質問にはこたえてないはずなのに……というような表情をヒオリがしている。
「わたしに質問って?」
「質問にこたえてないので取引には」
「そういう理屈が必要だと思うのなら、ヨウくんにアドバイスしてくれたお礼ってことで」
「今のわたしには、なにがたりないんですか?」
ヒオリはどこか不満そうな顔でそう口にした。
「どうしても年月のかかる鍛錬とかは度外視するとして、ヒオヒオに一番たりないのは……自分自身のコントロールかな」
「わたしが獣だから」
「獣のままでも、わたしより強いやつはいる。今のヒオヒオにはないアクセルの踏みかたを知っているから」
今日は調子が悪いですけど、アクセルならいつも踏んでいるつもり。
ヒオリがだれにもきこえない音量でつぶやく。
「自覚している部分もありそうだし、わざわざ言わなくていいかもしれないけど」
「だったら話はもう」
「ヒオヒオのは感情を暴走させているだけで、自覚して狂っているわけじゃない……かな」
本当に狂っているタイプもいるんだけどヒオヒオはちがったみたいだからね。あんなにかわいくて、えろい。
ヒオリににらまれてか、レン姉が口を閉じる。
「絶対にぶっ殺してやるから」
「かわいいねー。本当に狂っているならヨウくんのことも実力差もなにも考えず、本能のままに殺しにかかってきている」
ヒオヒオは本当は。
なにかを言いかけたが、レン姉がタイヨウのほうを一瞥する。
「正解だけ教えても意味がないか」
「レン姉さんが間違っている場合もあるのでは」
「たしかにね。ヒオヒオ本人が自分は狂っていると思っているのならそうなんだろうね」
本当に……そう思えているのなら。
レン姉がその部分だけを強調するように続けた。
時間帯のせいもあってか、まばらにしか通行客がいない……名前を知らない寺院の前。
シノハたちとタイヨウたちは合流をしていた。
ヒオリ以外には自分の姿が見えないように気配を消しているのであろうレン姉の両目がかがやく。
「ねえねえ、ヒオヒオ。もしも今この子のスカートをめくったらヨウくんはどんな反応するかな?」
「日永くんはわかりませんけど。少なくとも、しーちゃんはこの辺りを火の海にするかもしれません」
「ヨウくんの面白い反応を見るための火の海か……しかたない。消火活動をがんばって」
レン姉がシノハの着る黒のセーラー服のスカートをめくろうと手をのばしかけたところで。
「委員長のスカートをめくったら、まじで怒るからな……レン姉」
火色の髪の彼女の背後に立つ、白のショートヘアの彼女のほうを笑顔で見つつタイヨウがつぶやく。
「だったら無視をしないでほしいな。レン姉がさみしがり屋なのは知っているでしょう」
「用事があったのでは?」
「ヨウくんと遊ぶことが最優先」
「委員長を紹介したらいいんですか」
「なんて紹介をしてくれるつもり……友達? それとも今のヨウくんが一番気に入っている」
レン姉のそこから先の台詞をさえぎるように……ヒオリがとても静かに拳で攻撃をするも避けられてしまう。
セミロングの黒髪の彼女の行動を見てかタイヨウがどことなく不思議そうにしていた。
「意外な助っ人だね」
「隙だらけに見えたので殴ろうとしただけです」
「そういえば、ヨウくんにスカートの中のえろかわいいのを見せちゃったことをまだ謝って」
「日永くん、手伝ってくれる」
タイヨウがうなずき。
ヒオリに追いかけられ逃げまわるレン姉の行く手を邪魔するように黒髪の彼が移動していく。
息の合ったコンビネーションだとでも思っているのかレン姉が笑う。
「さっきからなにをしているの? ふたりとも」
あてもなく辺りをふらふらと移動しているようにしか見えてなかったのであろうシノハが、肩で息をするタイヨウとシノハにきいていた。
「きれいな羽の虫を見つけて……追いかけていた」
「小学生か」
などと、ひややかな言葉でつっこむもシノハの顔はどこかうれしそうな様子。
「円堂さんも? 女の子で虫が好きとか珍しいような」
「ううん、わたしは嫌い。嫌いすぎて追いかけたくなるタイプ」
なにかを考えているのか北瀬がしばらくだまり。
「ちなみにどんな男と付き合いたいタイプ?」
とヒオリに冗談っぽくきく。
「今は……わたしのために純粋な炭酸系の飲みものを買ってきてくれる男の子とかかな」
「今すぐ買ってくる!」
「なにパシらせてんのよ!」
叫びつつ、シノハがイナラのあとを追いかけようとするのをタイヨウが手を握りしめて制止する。
「えっ……なに、どうかした?」
火色の髪の彼女が戸惑ったような声を出しながら黒髪の彼のほうに身体の正面を向けた。




