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こわいところにいきたい 7

「気がつきましたか?」

 おんぶしているヒオリが動いたのを感じ取ってかタイヨウがそう声をかけた。

 セミロングの黒髪の彼女が森におおわれた常人には明かりなしではなにも見えない暗闇の中を。


「あれ……なに?」

 目当ての人物がいなかったからか、ヒオリがよわよわしい声で質問をしている。

「レン姉のことですか。自称ですが、すべての生きものから外れている存在だとか言ってますね」


「あんなのが師匠で、にちながくんはこわくないの?」

「付き合いがあるのも関係していると思いますが、こわいと思ったことはないですね」

「女の子の胸が好きだからか」

「気絶したふりをしていたんですか」


 タイヨウのつっこむような返事をきくもヒオリはくすりとも笑わず、かすかに震えていた。

「レン姉は別格というか」

「わたしも一応……女の子なんだけど胸が当たってたり、ふとももを触っていて平気なの?」

「意識させないでくれません。やわらかいおもちを運んでいると思いこんでいるので」


 おもちはしゃべらないでしょう。

 ヒオリがタイヨウの左耳に息をふきかけるようにささやく。

「あれは、もうどこかにいってくれたの」

「寺院に用事があるとかで。それとえんどうさんが」

 セミロングの黒髪の彼女が……黒髪の彼の両肩を力いっぱいひねるように握る。


「エンちゃんって呼んでくれるんじゃないの」

「エンちゃんがレン姉と殺し合いをしたがる可能性があるかもしれないとおれが」

「ミカゲくんと同じ……でもないな。レベルの差がありすぎて、殺し合いにならないから」

 小さな背中を丸めて、さらにタイヨウと密着するようにしつつその左肩にヒオリがあごをのせた。


「歩けそうなら」

「しゃべる元気はあるけど、足が痛くて歩けない」

きたがいることを忘れて」

「にーくんこそ、こんな真っ暗なところで同年代の女の子とふたりきりなのに意識しないの?」

「気持ちはわかりますけど。からかって、ストレス発散するのやめてくれません」

「わりと本心なのに」


 不満そうにヒオリがつぶやく。

「確認なんですけど、レン姉に勝ちたいですか?」

「だれでも負けるのは嫌じゃない」

「話がぶれるので今回は否定しませんが……サシでレン姉に勝つために。これから特訓みたいなことをしませんか?」


 どれくらいの時間がかかるかわかりませんけど。

 タイヨウが続ける。

「デートのお誘いってことかな」

「殺し合いにならないていどで、レン姉に勝つための試合ならいくらでも」

「にーくんも負けず嫌いなだけじゃない」

「その言葉も全否定はしませんが」


 言葉につまっているのであろうタイヨウの横顔をヒオリがじっと見つめた。

「認めたくはありませんが……たぶん。レン姉なりにおれに生きるための目的をつくってくれたんだと思います」

「わたしとしーちゃんとにーくんでさんぴーしたいみたいな生きる目的なかったっけ?」

しりもちつかせますよ」


 さんぴーって……ひとりの男がふたりの女の子をそれぞれに腕枕しながらいっしょに寝ること。

 なんだとシノハに教えてもらったことをタイヨウはヒオリに伝えている。

「上手いこと伝えたもんだね」

「なにか言いましたか」

「しーちゃんはあいかわらず優等生だなーって」


 顔が見えづらいがセミロングの黒髪の彼女が笑みを浮かべているのがわかったからか……黒髪の彼はほっとした表情を。

「にしても、にーくんは欲がないね。気絶している女の子になにもしてあげないなんて」

 タイヨウがだまってしまい、顔をそらす姿を見てかヒオリが不思議そうにする。


「言いわけみたいにきこえると思いますが」

「わたしになにをしてくれたの?」

「なにかをしたわけではなく、エンちゃんがレン姉に首を絞められて気絶したあと」

 そのあとの黒髪の彼のせりをきき。


「小学生か。キスした仲なんだから、はずかしがる必要なんてないように思うけど」

「本当にそう思っているのなら、首をへし折ろうとするのやめてください」

 赤面しているセミロングの黒髪の彼女が言われたとおりに首にひっかけた両腕の力をゆるめる。


「今日……スパッツ穿き忘れた」

「だから本調子じゃなさそうだったんですね」

「どういう意味?」

「気づいてないんですか。いつもはもっと野性的というか、すべてを力でねじふせてやる……みたいな勢いがあるのに今日は感じられなかったので」


 忘れものの件で、見られるかもしれないと無意識に考えていたからいつもみたいなパフォーマンスができなかったんだと。

 タイヨウがヒオリをなぐさめるように言うも。

 セミロングの黒髪の彼女からの反応がないからか黒髪の彼がさらに心配そうに声をかけた。


「んーん、なんでもない。ちょっと考えごと」

 しばらくしてから。

「あれ……レン姉さんからこの森について、なにか情報をきかされなかった?」

 ヒオリがタイヨウにそんな質問をした。


「とくには。理由はわかりませんけど寺院に入ってもいいと言われたので、北瀬や委員長が肝試しとかをしたいのであれば」

「わたしの意見は?」

「やっぱり暗いところとか、こわいのが」

「苦手なのにいきたいタイプ……がっかりした?」

「だれにでも苦手なものはありますし、常識的な」


 首にまわされた細い両腕による圧迫感があるからかタイヨウが表情をかたく。

「あと、お医者さんと注射も苦手。多いかな?」

「そこまで気にする必要もないかと……少なくともおれは弱点の多いエンちゃんのほうが好きですよ」

 ヒオリが大きく息を吐きだす。


「そんな言葉がすらすら出てくるのに、なんで自己肯定感が」

 セミロングの黒髪の彼女が口を開けたまま、気配を消して……ずっと隣を歩いていたのであろうレン姉の姿が見えてか。

「どうかしましたか?」


 これまでに一度もきいたことのない声で叫び……取り乱すヒオリに、タイヨウがおどろいていた。

「見えてないの?」

ゆうれいでも見たんですか。たぶんエンちゃんの目の錯覚とかですよ。安心してください」

「幽霊のほうがどれだけよかったか」


 ヒオリのつぶやきはきこえなかったようで、にこやかな顔をつくったままのタイヨウ。

「ヨウくんは自己肯定感が低いというよりは、自分の言葉で女の子がどれだけときめくか……わかってないんじゃないかな」

 レン姉の解釈をきかされるもセミロングの黒髪の彼女は返事をしない。


「やっぱりヒオヒオも女の子なんだね。さっきまでのヨウくんとのやりとり」

「ぜったいに倒してやるから」

「残念。殺してやるじゃないんだ」

 とつぜん、力強く抱きついてきたヒオリの行動の理由をきこうとでもしてか……タイヨウが口を開きかけるも。

 また幽霊でも見えたのだろうとでも思ったのか、黒髪の彼はなにも言わなかった。

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