こわいところにいきたい 6
「さすがのヨウくんも怒っちゃったかな?」
「鼻っ柱をへし折りたくなったぐらいです」
タイヨウもスクールバッグを地面に置いた。
「負けず嫌いなのは変わってないようだね。男の子はそうじゃないと」
ついでに、異界のペンギンに変身していたやつとたたかっていたときの精神状態になってもいいよ。もうできるでしょう?
レン姉の台詞にヒオリがおどろいたような表情を見せた。
「円堂さんも気づいてなかったのに、なんでわかるんですか?」
「一応、ヨウくんの師匠だからね」
タイヨウが手をはなし、ヒオリを横目で確認。
「円堂さん……協力してくれませんか?」
セミロングの黒髪の彼女は返事をしない。
表情こそ変わってないが、どことなく怒りのようなものが全身から。
「わがままを言ってもいいとは思うけど。この状況でわたしに甘えてくるのは虫がよすぎないかな」
なにがなんでもレン姉さんをやっつけないといけないわけでもないんだから。
拗ねたようにヒオリが唇を動かしている。
「例の精神状態になれるのはまだ短い時間なので、円堂さんを」
「本当に悪いと思っているなら、これからはわたしに武術関連の隠しごとをしないこととニックネームで呼んで」
タイヨウが困惑したような表情をした。
「隠しごとの件はわかりますけど……ニックネームですか?」
「よそよそしいから、なんか嫌だ。あの呼びかた」
「じゃあ、これからは影水心と」
小さな両手でむなぐらをつかみ、もちあげるようにしながらヒオリがタイヨウをにらみつけた。
「わざと?」
「すみません。珍しい状態だったので」
「もういい。円堂さんのまま」
「エンちゃん、とかどうですか?」
セミロングの黒髪の彼女の顔つきがやわらかく。
なりかけたが、黒髪の彼の視線に気づいてか顔を見られないようにしている。
「納得をしていただけたようで」
「ふたりがかりでも勝てないぐらい強いの……レン姉さん」
「片腕をつかわせられたら御の字ではないかと」
「相手の隠している実力さえも完璧に見抜けるようになったんだね」
自分の背後に立っていたレン姉にヒオリが拳を。
的確にみぞおちにねじこんだはずが空を切り。
白のショートヘアの彼女が、後ろからセミロングの黒髪の彼女に抱きつき。
「さっき胸が小さいの気にしてそうなことを言っていたけど……ぜんぜん」
レン姉の顎めがけてヒオリが後ろ蹴りを放つが。
「下着もかわいいの穿いているね。もしかして殺し合い? を求めているのってポーズとか」
セミロングの黒髪の彼女の目つきが変わるも……レン姉はしゃがみこんだまま、によによとした笑顔をつくって。
「素質だけでここまで強いのかよ。ヨウくんが彼女にするのも」
拳や蹴り、数えきれないほどのフェイントをおりまぜた本気でブチギレているであろうヒオリの連続攻撃をかわし続けていた。
「だから、友達だって言っているでしょう」
何者でもなかった何者かを倒したときと……同じ精神状態のタイヨウが加勢するも。
「否定するわりには息ぴったりすぎない? 選択を間違えたら左手ぐらいはつかわないと」
レン姉が足をすべらせた。
視線すら合わせることなく、タイヨウとヒオリがようやくできたレン姉のわずかな隙をつくも。
「想像以上だったけど、相手がわたしだからね」
ごめんね。ヨウくんとちがってヒオヒオのほうはブレーキぶっこわれているみたいだから、こうするしかなくて。
いつの間にか背後に移動していたレン姉に、右腕だけで首を絞められ……ヒオリは暴れていたが気を失ったのか大人しく。
「わたしに右腕をつかわせるとはやるねー」
「円堂さんの下着を見せないでくれませんか」
顔を赤くしつつセミロングの黒髪の彼女もろとも蹴るのをタイヨウは寸前でとめていた。
「ヨウくんも見たいかと思ったんだけど……すでに拝見済みだったか。かわいいよねー、えろくて」
黒髪の彼は返事をせず、ぐったりしているヒオリを不安そうな顔で見ていた。
「心配しなくても気絶させただけさ。さすがにヒオヒオレベルだと痛みを与えないで大人しくさせるのは時間が」
「腕をつかわなくても、円堂さんを大人しく」
「さっきも思ったんだけど、エンちゃんって呼んであげるんじゃなかったっけ?」
質問にこたえるつもりがないと判断してか、タイヨウが舌打ちをする。
「嘘はついてないよ。腕をつかわなくてもヒオヒオを大人しくさせられたけど……怪我をさせることになるかもしれないからね」
レン姉のなにかしらの不思議な力によって、ふわふわと空中に浮いているヒオリを見てか。
「レン姉も魔術をつかえ」
「少しちがうかな……これは武術の延長線上にある技のひとつみたいなものさ」
魔術と武術の関係については、まだきちんと知らなかったんだね。
教えてあげようか? とでも言いたそうな顔つきでレン姉はタイヨウを見下ろしている。
「今日は勉強する気になれないので、また」
豊満でやわらかな胸に顔をうずめるように、黒髪の彼が抱きしめられた。
かつてと同じようにはずかしそうに暴れている姿をレン姉はたのしんでいる様子。
しばらくするとタイヨウは抵抗するのをやめた。
「さすがにヒオヒオの前でこれをやるわけにはいかないからね。いろいろとゆるしておいて」
「どうして……いなくなったんですか?」
「クモちゃんとの関係をこわしたくなかったが一番の理由かな」
たぶん真実を伝えるのが一番正しかったんだろうけど。あの頃のヨウくん、やばかったしさ。
生意気でかわいかったのに……礼儀正しい大人になろうとがんばっていたところにクモちゃんだ。
「邪魔できないでしょう。母親役はできても」
「レン姉はレン姉だったかと」
かわいいことを言えるようになったもんだねー。
レン姉が声をはずませる。
「冗談抜きにして、あの頃のヨウくんにはわたしのおっきい胸よりもクモちゃんが必要だと」
「この距離なら……さすがに殴ることぐらいは」
「一発ぐらいは殴られたほうがいいでしょう?」
「殴れなくなるような言葉はやめてください」
ぽんっぽんっとレン姉がタイヨウの頭に触れた。
「結果論だけどさ、母親役とかわたしは必要」
「感謝……しています。ありがとうございます」
レン姉が首をかしげた。
「本当はこうやって抱きしめられるのも」
「わかった。わかった。言葉にしなくても伝わっているからネガティブなこと言っちゃったね」
だれかに甘えたいときは気をつかわないの。
小さな子供に教えるようにレン姉が言う。
「ヨウくんが女の子の胸が好きなのは、よーく」
「シリアスな空気が苦手なの……そろそろ克服してくれませんか」
「生きているかぎり修行は続くというレン姉からのメッセージだとでも思っといて」




