こわいところにいきたい 5
どんな女の子がタイプなの? タイヨウくんは。
というヒオリの質問をきいてか、タイヨウが自分の失敗を自覚したような表情を見せた。
「今度は脈絡があったよね。どんな女の子がタイプなのか、わたしに教えてほしいなー」
「円堂さんみたいな女の子がタイプですね」
「両思いか……いいね。キスも済ませてあるし」
「なぶり殺しにするつもりですか」
「嫌いでもないでしょう? タイヨウくんは自分が損することを選びがちなんだから」
意地悪なアドバイスをどうも。
タイヨウはつぶやいていた。
とつぜん……ヒオリがさらに強く握りしめてきたからか黒髪の彼が首をかしげる。
「どうかしましたか?」
「ごめんね。日永くん」
ネコをかぶったセミロングの黒髪の彼女の言葉とともにタイヨウが臨戦態勢に。
常人をはるかにこえる視力と聴力により……木木に覆われた暗闇の中からどんな存在が襲ってきても即座に。
「おっきくなったね。ヨウくん」
対応できる、はずだったのに。
目の前にいた自分よりも年上であろう女性の姿を確認すると同時に。
スクールバッグを投げ捨て、タイヨウはヒオリと手をつないでないほうの拳を相手のみぞおちにねじこむも。
「ごめんごめん。びっくりさせちゃったか」
指一本で簡単に受けとめられてしまう。
「日永くんの知り合い?」
おだやかな表情とは裏腹に、ヒオリの手の甲には血管が浮きでていた。
「初対面のはず」
「さすがに忘れているか。ヨウくんまだ小学生でもなかったからな……将来いい男になると思っていたけど。想像以上でレン姉びっくりしたよ」
「れんねえ? レン姉!」
タイヨウのリアクションを見てか、レン姉と呼ばれた女性がによによと笑っている。
「そちらの肉食獣ちゃんはヨウくんの彼女さんか、面白い女の子を好きになったものだね」
「勘違い……です。ただの友達」
「はずかしがるなよ。ちゃんと大好きなクモちゃんだけにはないしょにしておいてあげるからさ」
ところでそのクモちゃんは? いっしょじゃないのいつもべったりくっついていたのに。
「クモラは死にましたよ」
レン姉と呼ばれた女性が目を丸くする。
「そっか。そこまで強くなっちゃったのか」
もう一度だけ会いたかったな。
暗闇にとけるようにその台詞は消えた。
「うらやましくないんですけど……なにを食べたらそんなに胸が大きくなるんですか?」
タイヨウからクモラのことをきいて、泣きながら同行しているレン姉と呼ばれた女性に。
ヒオリがまったく関係のない質問をしていた。
「お肉かな。鶏肉おいしいよね」
一般的であろう着用方法とちがい、カジュアルに桜の花弁をモチーフにした着物を身につけている。
白のショートヘアのレン姉の胸元をあまり見ないようにタイヨウが顔をそらす。
「豚肉は食べないんですか?」
「食べるよー。牛肉は高いからめったには……ヨウくんがはずかしがっているからこのへんで勘弁してあげてくれない。ごめんね」
余計なことを言わないでください。
タイヨウが唇をとがらせる。
「照れるなよ。中学生……になったんだから女の子に興味をもつのは変じゃないし」
レン姉がヒオリの顔を見て、唇を開閉させた。
「円堂ヒオリです」
「ヒオヒオと呼ばせてもらっていいかな?」
「距離のつめかた、えぐいですね」
笑顔でそう言い、セミロングの黒髪の彼女は要望を受け入れた。
「ヒオヒオはヨウくんと付き合ってどれくらい?」
「友達だって」
「友達だからって女の子の手は握れないでしょう。暗闇でこわいから手をつないでほしいとか頼まれても断っちゃうと」
レン姉が口を閉じてしまう。
あっけにとられているのであろうタイヨウの様子を見てか……白のショートヘアの彼女が声を出して笑った。
「まじかー! ヨウくんかわいいやつすぎ!」
レン姉も暗いところ苦手だから、ヨウくんに手をつないでほしいなー。
なんのリアクションもせず、黒髪の彼がそっぽを向く。
「そういうことなので、手をはなしても」
「やだやだ。日永くんとくっついていたい」
「自分がはずかしいからってヒオヒオのおねだりを断るのはちがうでしょう。女の子にやさしくするのはいいことだし」
「レン姉も円堂さんの実力に気づいているのでは」
タイヨウが反論をするように言うも。
「なんのことやら、さっぱりわからないな」
レン姉はとぼけたような表情をつくっている。
「ヨウくんはあいかわらずかわいいやつだし、このままおしゃべりしていたいんだけど。カップルじゃないなら……どうしてこんなところにいるの?」
真面目そうな口調で、白のショートヘアの彼女が質問した。
黒髪の彼がいきさつを話す。
「寺院に入る必要はないわけだ。その北瀬くんには悪いけど、今日はこのまま帰ってくれない?」
「時間も遅いし、そもそもこの先で合流したら寺院には入らないで帰る予定だったので問題は」
「ヨウくんじゃなくて……ヒオヒオに言っている」
タイヨウと目を合わせるもネコをかぶった状態のままヒオリは首をかしげていた。
「なにを言っているのかわかりませんが……もしもお姉さんが」
「水上レンカ。名乗ってなかったね、レン姉か水上お姉ちゃんと呼んでほしいかな」
「レン姉さんがここで、今すぐにわたしと殺し合いをしてくれるならあきらめます」
とってもかわいいねー、肉食獣ちゃん。
レン姉がつぶやく。
「オッケー。殺し合いにはならないと思うけど……ヒオヒオの相手をさせてもらうよ」
「じゃあ、さっそく」
肩にかけていたスクールバッグを置き、ヒオリは臨戦態勢に。
セミロングの黒髪の彼女が動けないようにかタイヨウが力強く手を握りしめた。
「タイヨウくんもまざりたいの?」
「ちがいますよ。また怪我でもしたら」
「かわいらしい嘘もつけるようになっちゃったか。ヨウくんも本当はヒオヒオと殺し合い、したいのに我慢しているんでしょう?」
きょとんとした表情でヒオリがタイヨウを見る。
「なにを」
「実力伯仲なうえに、お互いに熱くなると自分の命もあっさり捨てちゃうみたいだからね」
「にーくん、甘えかたど下手かよ」
「変なニックネームで呼ばないでくれません」
はずかしそうに、タイヨウがヒオリから顔をそらしていた。
「でも……今回はレン姉が相手だから大丈夫だよ。ふたりが命を捨てるほどの本気でたたかおうとしてもだれも怪我しないからさ」
によによと笑うレン姉がさらりと、ふたり同時に相手をしてあげると口にしたからか。
タイヨウとヒオリが同時に……にらみつける。




