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こわいところにいきたい 4

「さっきの言葉、どういう意味だ?」

 カップルのように横並びに歩くタイヨウとヒオリを置き去りにするかのように。

 早足で移動するシノハに追いついたイナラがそう声をかけた。


「そのまんまの意味。えんどうさんのためにきたくんは自分の気持ちを殺すのはやめたら、ってこと」

つちもりさんはいいやつだな」

「悪いやつだから……今みたいに言えるのよ」


 口を閉じたまま、イナラがシノハの少しだけ後ろを歩いている。

「土守さんも同じじゃないか? にちながのために」

「タイヨウは自分が選べる立場だったとしても必ず自分が損するものを選ぶことは、北瀬くんのほうがわかっているでしょう」


 シノハの言葉をきき、しばらくしてから。

「日永の考えかたをわかっているうえで、土守さんも自分が損するものを選んでいるような?」

 そんな疑問をイナラが口にする。

「わたしの場合は少しちがう。昼休みに意地悪したから……タイヨウが困らないようにしてあげているだけ」

「結果的には同じだろう。遠慮しているんだから」


 シノハににらまれるもイナラは目をそらさない。

「どんな意地悪したのか知らないが、日永のことを手に入れたいと思っているのなら……今の円堂さんみたいな行動のほうが正常だと思うぞ」

「意外とずけずけ言うんだね」

「結果的に女の子のためになることがわかっている場合はな」


 女の子のため……という考えかたに関しての行動であれば日永はどれだけ自分が損をするとわかっていても貫き通すやつだとも知っているし。

 イナラの返事をきいてか、シノハがかんぷくしたかのような声をもらす。


「それはそれとして、北瀬くんは円堂さんのことをもうあきらめたの?」

「ぜんぜん……今日のところはおれの名字だけでも円堂さんに覚えてもらえたらいいやという感じ」

「漫才師か」

「つっこみ上手な土守さんとも仲良くなれたしな。ニックネームで呼んでもオッケー?」

「委員長以外だったら、お好きなように」


 思わぬ返事だったのかイナラが目を丸くする。

「これからは土守と呼ばせてもらうわ」

「わたしも北瀬ってこれからは呼ばせてもらうね」

「土守」

「なに、北瀬」


 声を出さず、イナラとシノハが笑みを浮かべる。

 そんなふたりの行動を見てか。

「タイヨウくんって、意外と独占欲強いよね」

 にやつくヒオリのささやきとともに、タイヨウが首を横に動かしていた。




「ある意味で、のきを貸しておもを取られるみたいな感じだよね。今のタイヨウくんは」

 一般公開をされていて定番のデートコースとしても有名な心霊スポットである。

 名前を知らない寺院へと向かうために西ルートを歩いているヒオリが同行者のタイヨウに言う。


「わがままを言ってきたのは円堂さんで、北瀬じゃないですよ」

「やさしくした相手が問題なんじゃなくて。自分が損をするような結果になっているのが問題点かと」

 そもそも、今回のダブルデートの目的は北瀬くんとわたしが仲良くなるきっかけを与えるというものだったはずだけど。

 ヒオリが続ける。


「当の円堂さんがおれといっしょに西ルートをいきたいと言ったから」

「タイヨウくんは……しーちゃんと東ルートを歩きたかったんでしょう。デートコースとしてもあっちのほうが多数派みたいだしさ」

「事前にいろいろとしらべてあったんですね」

 タイヨウがあいづちを打つ。


「目的はちがうけどね」

 太陽が完全に沈んでしまったのもあり、タイヨウとヒオリの周りはしっこくの葉となったで覆われていた。

 かすかに感じる風の流れや音により……ふたりは迷うことなくまっすぐに名前の知らない寺院のほうへと移動できている。


「バトル関連ですか?」

「大半はそうだけど……たまにはバトル以外からでしか感じられない好奇心みたいなものを満たしたい気分だったりもしたんだよね」

「こわいのが好きなんですか?」

「んーん、嫌い。というかあまり感じられないから他人と共有できないのが嫌ってだけかもね」


 ヒオリの意外な一面が見えたからか、タイヨウがだまってしまう。

「タイヨウくんは? しーちゃんを北瀬くんにとられるかもしれないとか、こわくないの」

 セミロングの黒髪の彼女がにやつく。


「とられるもなにも……委員長は恋人ではないので北瀬と付き合うことになったとしても問題は」

つきみやちゃんレベルの執着心はないわけだ」

 タイヨウが立ちどまると連動するようにヒオリも歩くのをやめた。

 隣にいる黒髪の彼の顔をのぞきこんでいる。


「比べるものではないかと」

「でも……事実でしょう。タイヨウくんにとっては十二分に幸せ環境なしーちゃんに遠慮している」

 甘えるのが苦手なのもあるんだろうけど自分たちと同じレベルに落とす。自分の歩きやすいスピードに合わせてもらっているとか……不安になっている感じかな。

 真剣な顔つきでヒオリは続けた。


 ぽんぽんとタイヨウの左肩をセミロングの黒髪の彼女が軽く叩く。

「とは言っても、かんされてきているとは思うよ。さっきのヤキモチモードはぜひとも鏡で見せてあげたかったね」

「性格の悪いアドバイスをどうも」

「感謝しているなら」

「また今度ということで」


 不満そうな顔をしているヒオリの手をつなぎなおしてひっぱり、タイヨウがふたたび暗闇の中を歩きはじめた。

「ところでタイヨウくんってだれかに武術を教えてもらったりしたの?」

「脈絡もなにもないですね。一応……師匠のような方はいますよ」

「女の師匠か」

「なんでわかるんですか?」


 タイヨウくんもわたしみたいなかわいい女の子にうまれかわったらわかるかもしれないね。

 ヒオリがおどけた口調で言う。

「師匠ではありますが、基本的な技や型しか教えてもらってませんよ。ある日ふらっとどこかに消えてしまいましたし」

「美人だった?」

「なついていた記憶はあるので美人だと思います」


 タイヨウの返事をきき、少し間をあけてから。

「しーちゃんにあれだけなつかれていても、スルーできるのはその師匠さんのせいか」

「関係ないような」

「小さい頃なのに覚えているほどの美人なんだから関係なくはないでしょう。少なくとも女の子の好みはねじ曲げられているね」

「勝手におれの女の子の好みをねじ曲げないでくれませんか」

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