こわいところにいきたい 1
「いろいろとごめん」
ひとしきり泣きじゃくり、ようやく落ち着いたであろうタイヨウがシノハに土下座をした。
「むなぐらをつかんだこと? タイヨウの彼女でもないのに抱きついてきたこと?」
意地悪そうな笑みを浮かべた、火色の髪の彼女が黒髪の彼を見下ろしながらきいている。
「どちらもですね」
「セーラー服を汚されたのもあったな」
「どうやったら、それらをすべてゆるしてもらえるんでしょうか」
「タイヨウのかわいい泣き顔を見れたから、なにもしてくれなくていいよ」
土下座の体勢を維持したままタイヨウが首をかしげるような動きをする。
「ほらほら、頭をあげて……立ちあがってよ」
しゃがみこんだシノハに肩を軽く叩かれると黒髪の彼は言われたとおりに行動した。
立ちあがり、なんの不満もなさそうににこにことしている火色の髪の彼女が目を合わせようとするも顔をそらされてしまう。
「機嫌はなおったようで」
「だれかさんがようやく甘えることを覚えてくれたからね」
「まじで勘弁してくれませんか」
「もっといじってほしいっておねだり?」
返事をせず、学校にもどろうとしてかタイヨウが歩きだした。シノハも後ろを追いかけていく。
「ところで、ここはどこなの?」
「口の悪いシノハには教えてやらない」
黒髪の彼の隣を歩く火色の髪の彼女がおどろいた表情をする。
「タイヨウもそんな顔するんだ」
「一番はずかしいところを見られたんだから、今更だろう」
「一番かわいいところの間違いじゃない」
タイヨウが横目でちらりとシノハを見た。
いじるつもりもなく、嘘をついてないと判断したようで黒髪の彼がいつもの顔つきにもどっている。
「かなり前にさ、クモラが神さまを見たいとか言いだしたことがあったんだ」
とうとつに語りはじめたタイヨウを困惑した様子で見ながらもシノハは短く相槌を打つ。
「小さい頃だったし……神さまはえらいやつだから高いところにいると思って。ここにきたんだ」
「出会えたの? 神さまには」
「おれは見てないんだけど、クモラは納得していたから出会えたんじゃないか」
「もしかしたらこの風景をタイヨウが見せてくれたから……神さまのことはどうでもよくなったのかもしれないね」
眼前にひろがる風景を見下ろしシノハが言う。
背後に建つ、円柱以外は人工的につくられた建物が一切ない自然のかたまり。
澄みきった空気をむりやりあじあわせようとしてか強風がタイヨウとシノハに襲いかかってくる。
「あの円柱の建物はなんなの?」
風でなびく火色の髪を押さえつけつつ、シノハがタイヨウに質問した。
「名前は忘れたけど、星を見るための建物だとか」
「天体望遠鏡の建物バージョン?」
「そんな感じ……今は見てのとおりだけど」
人が出入りしなくなり、相当の年月が過ぎ去ったからか古びてしまっている。
「中に入ったことある?」
「一度だけあったかな。チケットを四枚もらって、近所に住んでいたお兄さんたちと」
「月宮さんとお兄さんと、きれいなお姉さんとか」
「心を読むのやめてくれません」
「タイヨウがわかりやすいリアクションするから。もっと修行しないとね」
シノハのどや顔を見てか、タイヨウが息を吐く。
黒髪の彼の表情はやわらかかった。
「隣のクラスの円堂さんに恋をしたんだ」
シノハに抱きつき、泣きじゃくってから数日。
机を合わせて給食を食べている最中、同じクラスの北瀬イナラが真剣な顔でタイヨウにそう言った。
「応援している。がんばれよ」
「ちょっと待て。それはあきらかにおれがふられるのを前提での応援だよな?」
チャラついた雰囲気、黄色のウルフカットの彼の言葉に黒髪の彼がうなずく。
「円堂さんとは……友達ではあるから、あるていど異性の好みを把握しているし」
「友達だとは思っていたが。異性の好みまで教えてもらえているほどとはな。どうやったんだ?」
「どうもこうも、なつかれているみたいだから円堂さんが教えてくれただけで」
「確認なんだが。円堂さんと恋人として付き合ってないんだな?」
給食のシチューをスプーンで口に運び、タイヨウが肯定した。
黒髪の彼を信じてか、イナラが安心をしたように大きく肩を上下させている。
「考えてみれば……とうぜんか。日永には土守さんがいるし」
「委員長とも付き合ってないが」
「ニックネームで呼んでも平気なぐらいには、仲はいいんだろう。いつぞや……土守さんを委員長呼びしたらにらまれたぞ」
その情報はもっとはやく教えておいてほしかったな……タイヨウがぼやいた。
イナラが首をかしげる。
「円堂さんの件でパイプ役になってやるから委員長のことを教えてくれないか?」
提案をきいてか、ウルフカットの彼が黒髪の彼の顔を不思議そうに見た。
「日永のほうが詳しいだろう。仲がいいんだし」
「内面的な情報じゃなくて第三者的な立場からおれと委員長がどう見えているかについて」
「距離をとる必要ないんじゃねーの?」
恋人じゃなくても仲のいい男女はいるんだし。
イナラが一般的な考えかたを教えるように言う。
「女の子恐怖症みたいなものをわずらっているから今は……付き合ったりとか考えたくないだけだ」
「土守さんが日永にぞっこんなの気づいた感じ?」
「契約終了だな。がんばってふられろよ」
空になった食器やトレーをもどそうと、スクールチェアから立ちあがったタイヨウにイナラがしがみつく。
「悪かった。おれが悪かったから……もう一度だけチャンスをくれ」
「いつから気づいていたんだ? 委員長がぞっこんなことに」
「見ていればわかるだろう。ほかの男子生徒と会話しているときとまるでちがうんだから」
それに日永さ、色恋について教えたら距離とろうとするだろう。土守さんのためにもだまっておくのが一番だと思ったんだ。
イナラが必死な形相で釈明していた。
「女の子のため……だったんだな」
「女の子を泣かせるようなことはできないからな」
パイプ役になってやるから、しがみつくな。
言われたとおりに、ウルフカットの彼はタイヨウから離れる。




