二度目の死 2
「どうしても負い目を感じるなら円堂さんとデートしてあげたら?」
「円堂さんの場合は冗談抜きで死闘になるからな」
「負けちゃう?」
「互角じゃないか。死ぬ可能性もあるから、できることならやりたくないな」
タイヨウの返事をきいてかクモラがにやつく。
「死にたくなくなったんだ」
「クモラが泣くとこ見たくないし」
「それだけ?」
「クモラ以外にも泣きそうな女の子もいるからな」
「今日は素直だね」
「からかうなよ。ひねくれるぞ」
でも、死にたいほど辛いのは本当でしょう?
クモラの声がひやりと響く。
「水心だっけ、武術の技をつかうのに理想的な精神状態とかなんとか。タイヨウの場合は……希死願望と生の執着心」
どっちもわたしのせい。
月宮クモラが死んだから、死にたくて。
死んだはずの月宮クモラが生きているから、生きようとしなければならない。
「相反する、本来は同時にもつことのできないアンバランスな精神状態をつくりだせた結果があの異常なまでの武術の技の破壊力」
ニセモノ変身できる化けものを倒すためにはその精神状態は必要だったけど……そのまま持続できるようなものじゃない。
「ごめんね」
「クモラが謝るような」
「いっしょに死ぬ?」
クモラの言葉に対してタイヨウは首を横にふる。
「ちゃんと甘えられる?」
「正直……わからないな。ずっとひとりだったし」
「だよねー。わたしもわかんないや、タイヨウだけだったもん……同じ痛みを理解できたのは」
一番むずかしいのは年齢なんだよね。
ちがったのは男の子だったところだけ。
「似たような痛みの間違いだろう。同じじゃない」
「言うじゃん」
「中学生だからな」
「けど、まだ大人とは言えないよね。だれかに甘えてもおかしくない。甘えないとおかしいのかな?」
「クモラには甘えていたつもりだ」
「同じじゃん。わたしもタイヨウに甘えていたよ」
タイヨウの胸板にもたれかかろうとしてかクモラがちかよるも……すぐに離れてしまう。
「土守ちゃんに怒られそうだから、やめとく」
「委員長はゆるしてくれると思うけどな」
「タイヨウは女の子とくっつきたいだけでしょう」
「この世で一番好きだった女の子な」
「生きている女の子限定か」
嘘ついた……タイヨウが暴露する。
「嘘でもないんじゃない? タイヨウは土守ちゃんみたいなタイプが好みで。わたしへの気持ちはただの使命感なんだから」
「悪いか」
「ううん、やさしすぎるなーと思っただけ」
しんとする。
タイヨウとクモラは向かい合わせに立ったまま。
手をのばせば、一瞬で抱きしめられるほど。
「キスしとく?」
「おさななじみとのキスのやりかたを知らない」
「わたしも。円堂さんとは」
「墓場までもっていてくれるんじゃないのか」
「もう墓場だよ」
いつの間にか……クモラの足元には黒い真円が。
「おれが武術をはじめたきっかけさ、ニセモノ変身できる化けものは勘違いしていたんだよな」
「知っているよ」
「今よりももっと小さい頃のクモラがさ……近所に住んでいた年上の男の人の武術の技を見て」
「わたしがかっこいいって言っちゃったから、タイヨウはヤキモチ焼いたんだよね」
今にも泣きだしそうで、悔しそうな顔をしているクモラがくすくすと笑う。
「あの頃から好きだったの?」
「単純にクモラをとられると思ったんだろうな」
「大好きってことじゃん」
「泣かないでくれって」
クモラが小指をのばす。
「約束しよう」
「もう死にたいとか、自分を痛めつけたりは」
「あと三年ぐらいは彼女つくらないで」
「三年だけでいいのか?」
「タイヨウが我慢できるのそれくらいでしょう」
「そこまで我慢強くないと思うけどな……三日も」
小指同士をからめるのと同時にクモラがタイヨウの唇を奪っていった。
「三年ていどで忘れられるかな」
「性格の悪い女」
「でも、大好きだったんでしょう」
返事はせず、タイヨウは力強くクモラの身体を。
「泣かないんだ」
「クモラが泣くからな」
「泣き顔かわいいのに。見たかったなー」
「悪いが……こればっかりは」
「そろそろみたい。ごめんね、離れて」
タイヨウが名残惜しそうに肉体がゆるやかにくずれていくクモラから。
えへへ。
茶髪のセミロングの彼女が笑う。
いつもと同じように、互いにさよならのあいさつを口にせずハイタッチを交わす。
あとかたもなく月宮クモラは消えた。
自分の手のひらをじっと、タイヨウは見ていた。
「やっと見つけた」
手のひらを見つめたままで……置物のように動かなかったタイヨウが声のした方向に顔を動かす。
「なにかの魔術とか? 見たこともない場所だし、時間もとまったみたいに」
「クモラが死んだんだ」
タイヨウの返事に、シノハが表情をゆがめる。
悲しそうなものから怒ったものへ、変わったかと思えば困ったようなものになっていた。
「ようやく死ぬことができた。と言うほうが正しいのかもしれないな……おれのわがままで今日まで」
顔面を殴ろうとしたシノハの拳をタイヨウが簡単に受けとめる。
「委員長を怒らせるようなことしたっけ?」
「ふたりきりのときはシノハ……そんなことよりもわがままってなに?」
タイヨウがこの世で一番大好きな人が死んだのに泣いたらいけないの?
おかしいじゃん。おかしいよ……だれかが死ぬのは悲しいことでしょう。
「月宮さんが死んで、悲しくないの?」
「それ以上しゃべるな、本当に怒るぞ」
「怒れないんでしょう。タイヨウはやさしいから」
煽るような台詞とほとんど同時に……タイヨウがシノハのむなぐらをつかみ。
これまでに一度も他人に見せたことのない顔を、黒髪の彼があらわに。
「ほらっ、やっぱり怒れ」
ずるりと……なにかが抜け落ちたようにタイヨウがシノハの胸に顔をうずめるように抱きつく。
黒髪の彼の思わぬ行動に対してか火色の髪の彼女がおどろき、びくつく。
「どさくさまぎれに、えっちなこと」
すすり泣く声がきこえてか頬を赤くしたシノハが口を閉じた。
「タイヨウのこの姿は、月宮さんも見てないよね」
だれからの返事もなかったが、火色の髪の彼女が勝ち誇ったような表情をする。
魔術の効果が切れたのか……少しずつ本来の風景へともどっていき、時間が動きだす。
すべてがもどり、いつもとなにも変わらない時間が流れはじめるも。
タイヨウはまだシノハに抱きついたままでいる。
小さな子供のように泣きじゃくる黒髪の彼の頭を火色の髪の彼女がやさしくなでつけた。




