二度目の死 1
月宮クモラに関することをすべて思い出し、自覚をしたタイヨウ。
事情を知ったシノハは黒髪の彼の怪我が完治してからも声をかけられずにいた。
何者でもなかった何者かが消滅し、激闘の痕跡は消えたはずなのに。
「タイヨウくんさ、しーちゃんを襲ったの? 最近ぜんぜん話してないよね」
怪我が完治してから、一週間前後。
給食を食べ終え……スクールチェアにもたれつつタイヨウがうとうとしかけていると。
とつぜん現れたヒオリがデリカシーのない一言を口にした。
「空気を読むことを忘れたんですか」
「ミカゲくんの病室に置き忘れたかもしれない」
タイヨウくん的には、今みたいに話しかけられるほうが楽なんじゃない?
しゃがみこみ、黒髪の彼の机に両腕をくっつけてそのうえに顔をのせたような体勢のヒオリが笑う。
「ありがとうございます」
「感謝してくれるなら、あとは言わなくてもわかるでしょう?」
「学校ですし、また今度ということで」
「左腕の骨もくっついたし。リハビリついでに軽くでいいからやろうよ」
立ちあがったヒオリがタイヨウに触れようとしてのばしかけた右手をひっこめる。
黒髪の彼が首をかしげた。
「どうかしましたか?」
「しーちゃんはめんどうくさいなと思っただけ」
「リハビリなら、わたしが付き合ってあげる」
シノハの声のした方向にタイヨウが顔を動かすもだれもいないからか不思議そうにしている。
「イタズラ? タイヨウくんが見えない位置に移動するなんて」
黒髪の彼の背後に立つ火色の髪の彼女に、ヒオリが言う。
「しゃべらないの。友達歴がながいおふたりさん」
セミロングの黒髪の彼女がタイヨウとシノハの顔を交互に見る。
「リハビリしたいんじゃなかったの」
黒髪の彼が顔を動かさないか注意をしつつ火色の髪の彼女がヒオリにきく。
「しーちゃんとタイヨウくんのぎくしゃくをいじるほうが面白そうだと思っちゃって」
セミロングの黒髪の彼女がぺろんと舌を見せた。
「ぎくしゃくしてないつもりですけど、シノハが」
「ほかの人がいるときは委員長」
「委員長が怒っているみたいなので、原因がわかるまでは距離をとろうと思っているだけです」
ぎくしゃくしているから距離をとるんじゃない。
ヒオリが淡淡とつっこむ。
「ぎくしゃくの原因は?」
「日永くんに関係あるけど、わがままだから教えても意味がないと思う」
「だってさ、押し倒してあげなよ」
「殺されたいの?」
シノハの殺意のこもった視線と青みがかった黒い熱を真正面から受けとめ、ヒオリがにやつく。
「リハビリに付き合ってもらうんだし。どうせなら殺意全開のしーちゃんと再戦したいと思って」
「火葬してやるから、今すぐ」
思わず出たであろう悪態をタイヨウもきいていることを認識してか、シノハが青ざめる。
「今のは」
「委員長も人間なんだし、口が悪くなるときぐらいあるだろう。おれのことも頭がお花畑とか」
「タイヨウくん、サディストにもほどが」
青みがかった黒い炎をまとったシノハの拳を受けとめつつヒオリが首をかしげた。
すばやく距離をとったセミロングの黒髪の彼女が手をひやすようにぶらつかせる。
「お前のせいだ」
「さすがに今回は濡れ衣のような」
台詞とは裏腹にヒオリが声をはずませた。
さらに殴りかかってくるシノハをいなし……セミロングの黒髪の彼女は教室を出ていく。
火色の髪の彼女も目にもとまらぬスピードで追いかけていった。
静かになり、タイヨウがスクールチェアにもたれかかろうとすると視界のはしっこにクモラの姿が。
「よお、どうかしたのか?」
黒髪の彼が左手をあげて、横にふる。
「タイヨウのモテ期を観察していただけ」
「焼いてくれているのか?」
まさか……そんなわけないじゃん。
クモラがくすくすと笑う。
「もう知っているんだよね、わたしの正体」
クモラが教室に入った瞬間……ほかの生徒たちがどこかへ消えてしまう。
「月宮クモラにちがいないだろう。おれの」
「それほどの愛情。というよりはそこまでの愛情にしなければ生きていけなかったんだね」
「おれの本心だ」
「知っている。うれしいよ」
だからさ、ちゃんとお別れしよう。
そのままじゃタイヨウは。
「泣くなよ。笑っていてくれ」
「ごめんごめん……そうだったね」
クモラに手をひっぱられ、タイヨウはゆっくりと教室を出ていった。
時間がとまったかのように……タイヨウとクモラ以外のすべてが静止をしていた。
「魔術か?」
「世界によってはそう呼ばれるね。わたしは」
クモラがなにかしらの言葉を発音したがタイヨウの耳では理解できなかった。
「とか呼んでいるんだけど、タイヨウには理解できない言語かな」
「遠回しに、頭が悪いと言われているみたいで腹が立つんだけど」
「頭よかったっけ?」
「きくなよ。それこそ失礼だろうが」
笑っているクモラを見てか……タイヨウも表情をやわらかくした。
「なにからききたい」
「このあと本当に死ぬんだろうけど、月宮クモラは幸せになれるのか?」
「ひとつめの質問にしては重すぎない」
「軽い質問がいいのなら。昔……クモラが肉まんを食べすぎて腹が痛くなったときに」
「ストップ。ストップ。女の子の過去をえぐるな」
まったくそんなんだから円堂さんに唇を奪われるんだよ。
クモラが不満そうな顔つきで言う。
「それとこれとは関係なくないか?」
「タイヨウが土守ちゃんとたのしそうにたたかっていたから円堂さんも仕返しにキスしたんじゃない」
「仕返しになっているのか?」
「タイヨウは好きでもない女の子とキスしても平気なんだ。土守ちゃんに言いつけてやる」
そういう発想は考えつかなかったな……と言いたそうな表情をするタイヨウ。
「ごほうびだったのかな? 円堂さんのキスは」
「墓場までもっていてくれるなら教えてやるけど」
「んーん、きかなくてもわかる」
そのあとのクモラの言葉をきいてか、タイヨウは動揺している様子。
「みたいなことを真剣に考えて、悩んでたりすると思うけど……ぜんぜん大丈夫だから。円堂さんだけにかぎらず、大半の女の子はそういうの気にしないから」
「委員長はブチギレていたが?」
「土守ちゃんはタイヨウが襲われて、唇を奪われたから怒ったのも要因のひとつかと」
タイヨウは被害者だからね……と念を押すようにクモラが続けた。
「襲われたって、相手は女の子なんだが」
「性別は関係ない。少なくともタイヨウは円堂さんを友達としては好きでも……異性としてはそうでもなかったんだから襲われたで間違いないよ」
納得がいかなさそうにうなり声をあげるタイヨウを横目で見ているクモラが。
「異性として好きじゃないと、女の子からキスとかしないとは思うけどね」
ぼそりとつぶやく。




