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どろまみれな純恋衣とフィスト  作者: 色飴 遥火
異界からの案内人
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この世で一番 8(一時閉幕)

 ばかな! なぜだ……こんなはんにん相手に。

 ふらふらで、血塗れ。精神もボロボロのはず……なのにどうして?

 タイヨウのカウンターパンチを食らい、ひきずるように後ろにさがりながらギペンテの姿をした何者かが足をふるわせる。


「どうして、ここまでの差が」

「あなたが教えてくれたんじゃないですか。おれが全力のフルパワーを発揮できる精神状態について」

「今のあなたは死にたいとは」

「擬似的に同じような状態にしているんですよ」

 おれにも変身できるはずなのに天才だってことを知らなかったのか?


 あおるようなタイヨウの言葉をきいてかギペンテの姿をした何者かの頭の中は。

「もういいや……お前、死ねよ」

 怒りや殺意、ギペンテの姿をした何者かが本来はもちあわせていないマイナスの感情があふれる。

 にちながタイヨウを殺す。

 シンプルでゆがんだ感情を表現するように辺りにあるビル、フィールドをかたちづくっていたすべてが全盛期のギペンテへと変化した。


 タイヨウが短く口笛を吹く。

 自分を取り囲む、無数の全盛期のギペンテの姿をした何者かたち。

「これからおこなわれるのはリンチと呼ばれるざんさつにちかい行為。これだけの数、到底あなたに勝ち目があるわけありません」


 死にたくないんでしたっけ?

 死ぬほど後悔させてあげますよ。

 まずはあなたをむごたらしく半殺しにしてから、つきみやクモラさんを。

 ギペンテの姿をした何者かがふきとばされる。


 ひとり。

 ふたり。

 タイヨウがこれまでにきたえあげてきた、一撃必殺の武術の技のかずかずがギペンテの姿をした何者かたちをらしていく。

「これで終わりか?」

 残りひとりとなったギペンテの姿をした何者かをにらみつけ、タイヨウがつぶやいている。


 ギペンテの姿をした何者かが拍手をした。

「見事ですね。全盛期のギペンテでも、これだけの数がいても今の日永タイヨウさんには勝てないと」

 今の日永タイヨウさん、あなたをコピーをするのはどうでしょうか?

 まんしんそうの状態ではなく体力も気力もフルパワー状態の今のあなたにね。


 それでも勝てなければ、しかたありません。

 ぼくが死ぬことは決してない。

 日永タイヨウさん……あなたが死ぬまで何度も。

 目の前にいるタイヨウに変身をしようとしているのであろうギペンテの姿をした何者かが。

「こぉ、こここ……これはなん。なんなんだ」

 なぜだ、なぜこんな精神状態で。そもそもうそを。


「どうして、こんな精神状態であなたは生きて」

 悲しみ。孤独。絶望。

 そんなていどのなまやさしいものでは。

 これほどのつめたさ、どす黒さをかかえていて。

「この、嘘つきが! こんなどす黒いものを擬似的に同じようにできるわけが」

「だろうな。今すぐに楽にしてあげますよ」


 タイヨウのせいけんきが……日永タイヨウへと変身しかけていた、ギペンテの姿をした何者かのからをつらぬく。

 ギペンテのもつ神の目が、黒髪の彼をさらに深く観察する。


 からっぽだ。

 なにもない。

 支えてくれているはずの月宮クモラさえも、日永タイヨウの中には。

 どうして? なぜ……生きていられ。


「クモラの泣き顔を見たくないだけです。もう死んだんでしょう、だったら残りの人生はすべて笑っていてほしい」

 大好きな女の子に対する精一杯の男の子の気持ちというやつですよ。

 自分の本音をしているのであろうタイヨウの表情は。


「勝てるわけがなかった。こんなにおやさしい」

 何者でもなかった何者かは消えていく。

 りんせんたいせいかいじょするとタイヨウが大きく深く息を吐いた。

「そっちこそ嘘つきじゃないですか。死ねないとか言っていたくせに……うらやましい」

 そうつぶやいているタイヨウを。




 何者でもなかった何者かが消え……風景がもとにもどっていく。いくつもの人工的につくられた建物に囲まれるようにぽつんとタイヨウは立っていた。

 クモラをさがそうとしてか、ゆっくりと歩く。

 太陽が沈みかけているようで……黒髪の彼の目に見えるもののすべてにオレンジ色がまじり。


「タイヨウじゃん。なにしてんのよ、こんなところでさ」

 あっけなく月宮クモラが見つかってかタイヨウがまばたきをくりかえす。

「平気なのか?」

 私服姿の茶髪のセミロングの彼女に異変がないかタイヨウは確認している。


「こっちのせり! 武術の技の特訓とかでむちゃをしたんでしょう。ボロボロじゃん」

 すぐに病院にいこう。こんごうさんに教えてもらった腕のいいお医者さんを紹介してあげるから。

 クモラがタイヨウの手を握り……ひっぱる。

 黒髪の彼の鼻がひくつく。

 かすかに茶髪のセミロングの彼女のからから火のにおいがしてか。


「なに笑ってんのよ、ばかタイヨウ」

「シノハはいいやつだと思ってさ」

「シノハ? なんでつちもりちゃんのことを呼び捨てにしているのよ。恋人でもないのに」

「友達だけど、当の本人から名前で呼び捨てにしてほしいって言われたんだ。やくなよ」

「だれがヤキモチなんか」


 これまでと同じようにはしゃぐタイヨウとクモラの姿を、建物の後ろから見ている女の子がひとり。

「しーちゃんはいいやつだね。その気になれば火の魔術でタイヨウくんを自分のものにできるのに」

 声をかけてきたヒオリのほうにシノハがゆっくりとふりむく。


 にたにたと笑うセミロングの黒髪の彼女を、火色の髪の彼女がにらみつけた。

「わたしは悪いやつだから。日永くんの過去を絶対に消してあげたりなんかしない」

「自分でいやしてあげたいからかな?」

「殺されたくなかったら消えてくれる」

「なぐさめようと思ったんだけど、今のしーちゃんには必要なさそうだね。ますますほれちゃいそう」

ねがげ」


 べぇえー、とふだんと変わらない表情のシノハが舌を見せる。

「ひとつだけわからないことがあって。なんで月宮ちゃんを殺さなかったの? しーちゃんにとっては邪魔でしかないのに」

 殺せたでしょう?

 ひややかな目つきでヒオリが質問する。


「負けたくないから」

 セミロングの黒髪の彼女が首をかしげた。

「がんばった日永くんへのプレゼント。月宮さんが一番よかった、それだけよ」

「女心は複雑だね。わたしも女の子だけどさ」


 右足をひきずり放置したままのミカゲのところへ移動していく。

 辺りからヒオリの気配が完全に。

「ふざけんな! なにが友達だ。あんなに苦しんでいたこともわからなかったくせに……なにが」

 ぽろぽろと大粒の涙を流すシノハの全身から……いつまでも青みがかった黒い炎がはげしく放出され続けていた。

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