この世で一番 7
どこから話したものでしょうか。
あの日……月宮クモラさんが死んだことについて語る必要はないでしょう。
詳細を知ったところで今更どうにもならず。
今の状況が変わるわけでもありませんし。
なによりも日永タイヨウさん、あなたにはまるで関係のない話。
重要なのは、月宮クモラさんの死によりあなたがそうなってしまったことだけなんですからね。
ぼくといっしょに思い出していきましょうか。
当時のあなたはその感情を、愛情だとは気づいてなかったでしょうが。
月宮クモラさんをこの世界で一番好きだった。
境遇が似ていることによる親近感。
同じ痛みを知っているからこそ、月宮クモラさんもあなたと同じ思いでいた。
まだ、無垢で純粋な気持ちを言葉にはできずともそう遠くない未来。
あなたたちはかたい愛情という絆で結ばれていたのは明白。
だからこそ、今のあなたは苦しみ……真っ当とは言い難い状態になっている。
月宮クモラさんを失ったあなたは悲しんだ。
はじめからいなかった両親とはちがい、たしかにつながっていたはずのかたい絆で結ばれていた相手が消えてしまったんですからね。
時間が経ち、悲しみが少しずつ消えていくとともにあなたは。
死にたいと思うようになってしまった。
正確には……生きている理由がわからなくなってしまったですかね。
悲しみが消えたことによる冷静さ。
今の自分にはなにもない。
もしも血のつながった両親などがいれば……その名前のわからない苦しみをぶちまけることもできたのでしょうが。
あなたはとてもやさしすぎた。
というよりは自分以外の生きものに迷惑をかけてはいけないとルールを強いていた。
母親代わりをしてくれている……やさしい女性もいるようですが、やはりただの他人。
迷惑をかけられない。
あなたは考えた、自分が死ねる方法。
だれにも迷惑をかけずに自分を痛めつける方法。
そして武術と出会った。
はじめこそ、無意味に自分を痛めつけ……感じる必要のない罪悪感を消したいなどという打算もありつつ。
あなたは自分に嘘をつきはじめた。
自己防衛の一種なのでしょう。
あなたの肉体がこのままでは生きていけない、とでも考えたのか記憶を変化させていく。
いつか自分を殺してくれるほどの武術家と出会いたいという願いは。
いつしか、自分はだれよりも強くなりたいというものへと変わってしまった。
もしかすると、あなたのおさななじみの姿をしているニセモノがなにかを。
魔術のような力をつかったのかもしれませんね。
「ニセモノというのは言いすぎかもしれませんね。現在、この世界にいる月宮クモラさんは遺体でありながら動いていると表現するのがもっとも正しい」
頭上からきこえる、ギペンテの姿をした何者かの声はタイヨウの耳にはかすかにしか届いてなさそうな様子。
「円堂ヒオリさんとの死闘……殺し合いで自己防衛のために封印していた記憶がひらきかけたようですが、かえって混乱をされることに」
タイヨウは涙を流していた。
「神の目と呼ばれるほどの目をもつギペンテが月宮クモラさんに興味を示したのも」
ギペンテの姿をした何者かが口を閉じる。
タイヨウが抵抗しなくなり起きあがる気持ちさえもなくなったと判断してか、黒髪の彼の頭を押さえつけていた右手を。
「質問してもいいか?」
「なんなりと」
「今、ここにいるクモラは遺体だけど本物にちがいないんだな」
「身をもって体験してもらった、このコピー能力によるギペンテの神の目に間違いはありません」
やっと自分の願いごとを思い出し、死にたくなりましたか?
ギペンテの姿をした何者かが確認をする。
「日永タイヨウさん。あなたの全力のフルパワーをひきだす方法はたったひとつ。その願いごとに忠実に死んでもいいと思うだけです」
円堂ヒオリさんとの死闘の最中、あなたは自分が死にちかづいていると理解しつつ笑っておられた。
同じとは言えないまでも、似たような願いごとをもつ円堂ヒオリさんと。
「円堂さんはたぶん、強い相手とたたかえて単純に面白がっていただけだと思いますよ」
ギペンテの姿をした何者かの台詞をさえぎるようにタイヨウが否定的な言葉をつぶやく。
「ありがとうございます。すっきりしました」
涙をぬぐい……起きあがったタイヨウを見上げ。
しゃがみこんでいたギペンテの姿をした何者かも立ちあがる。
黒髪の彼と目を合わせる。
ギペンテの姿をした何者かが首をかしげた。
「死にたいとは思っていませんね」
「おれが死んだらクモラにも会えなくなりますし。同じような悲しい思いをさせるかもしれない」
「本物とはいえ……あの月宮クモラは遺体なんですよ? そもそも血のつながりすらもない他人で」
「月宮クモラが好きだから。生きる理由なんてそれだけで充分でしょう」
理解に苦しみますね。
ギペンテの姿をした何者かが口にする。
「いばらの道を選ぶ必要はないはずです。あなたを好いてくれている女性もおられるのに」
「何度も言わせんなよ。はずかしいだろうが」
「では、殺してさしあげましょう。そのほうが日永タイヨウさん……あなたも幸せに」
顔面をもろに殴られ、ギペンテの姿をした何者かがよろめく。
まばたきするほどの一瞬すら油断はなかったはずとでも言いたそうにおどろいた表情を。
「どうかしたか? 悪い夢でも見ているような顔をしているぞ」
「なにを……したんでしょうか」
「あなたのほうがよくわかっているでしょう、神の目と呼ばれるものをもっているんですから。単純にまっすぐに顔を殴っただけ」
血が足りてないからかタイヨウがふらつく。
「まさか見えなかったとでも?」
「満身創痍なので思わず油断してしまったようですね。もうつぎは」
ゆるやかな動きで鼻血をふきとり、ギペンテの姿をした何者かが全速力でタイヨウの顔面を殴ろうとするも。
最小限の動きで避けられてしまい……みぞおちに黒髪の彼の拳がめりこむ。
「もうつぎは、なんだ? よくきこえなかった」
「あまり調子に」
「調子にのっていたのはそっちだろう。対戦相手に塩を送って劣勢になっているマヌケは」
殺意に満ちた目つき。
ギペンテの姿をした何者かの……電光石火の蹴りをかわしたタイヨウのカウンターパンチが決まる。




