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泥まみれのフィスト  作者: 色飴 遥火
異界からの案内人
21/23

この世で一番 6

 不治の病というやつです。

 皮肉にも神の目とも呼ばれていたあらゆるものを見抜き、見通すほどのそんな魔術をもっていたこのギペンテ本人が……だれよりも自分がたすからないことを理解できてしまった。

 狭い世界ではありながらも頂点を極めたつもりでいたギペンテが、別の世界にくる理由としてはとうなものでしょう。

 もうすぐ壊れてしまうのであれば……好きなことをしよう。


 可視化された死に直面した生きもの特有の一種のバクなようなものか、一族の復興などと現実逃避。

 ある意味で自分の遺伝子のようなものを残そうとしたからなのかはわかりませんが。

 最終的には悪くない終わりかただったかと。

 誤算があったとすれば、友人のような関係であるスズツキもギペンテと同じ不治の病にかかっていたことでしょうか。

 じっさいには不治の病ではなく、呪いの一種なのですが……日永にちながタイヨウさんにはあまり関係のない話ですかね。


 と唇を動かすギペンテの姿をした何者かがつんいのような体勢で血塗れのタイヨウを見下ろす。

 黒髪の彼はすでに限界をこえて悲鳴をあげているからでなんとか立ちあがろうとしている。

「どうして……今、そんな話を?」

「本物のギペンテさんが死んだからです。わたし、ぼくはニセモノではありますが。オリジナルが存在しなくなったのであれば本物のギペンテを名乗ってもよいかと思いまして」

「こちらの質問に……こたえてないような」

 ごきりと、ギペンテの姿をした何者か首を左右に動かし音を鳴らす。


「失礼。どうにもギペンテさんに変身しているときは調子が悪く……むしろ絶好調なのですが。オリジナルのギペンテさんのパワーが強すぎて、不具合が生じるのですよ」

「さっきのそのギペンテさんの話も、不具合によるものだと」

「おそらくは」

 立ちあがったタイヨウを観察するような目つきでギペンテの姿をした何者かが見る。

「諦めてはどうでしょう。ぼくはもうこの不治の病におかされてない状態のギペンテさんのコピーに成功したので目的は達成されました」


 なんでしたら月宮つきみやクモラさんのいるところへ案内しましょうか? そうギペンテの姿をした何者かが提案している。

「クモラがどうとか関係ありませんよ。もっと単純にどっちが強いか知りたいだけ。だからこそ、たたかいを仕掛けてきたのでは?」

「強さを知りたかったというよりは、このギペンテさんの性能を確かめたかっただけなのですが。そこまで言うのであれば」

 ギペンテの姿をした何者かが臨戦体勢りんせんたいせいをとった。


「ぼくも日永タイヨウさんが全力をだせるように、お手伝いさせてもらいましょう」

「なにを」

 かろうじて立っているタイヨウが、すぐちかくにあるビルがぐにゃりと曲がるのを横目で。

「ぼくは生命体ではありますが、おそらく死ぬことはありません。だからこそ……どこにでもいられるし数も膨大ぼうだい。どんなものにも変身できてしまう」

「妖怪とか、なんですか?」

「さあ……どうなんでしょうね」


 にたりとギペンテの姿をした何者かが笑う。

「数が膨大だからこそビルにもなれるし……島にも街にもなれる。このフィールドはすべてぼくだったので、よく観察できました」

 円堂えんどうヒオリも金剛こんごうミカゲも土守つちもりシノハもギペンテスズツキトサカ頭……月宮クモラに日永タイヨウ。

 それに……きみたちの頭の中をコピーできるのできみたちの知っているだれかにもなれる。

「金剛ミカゲだけはあとで殺さないと。ほくは死なないけど、ぼくをひゃっかいは痛めつけたんだからそれくらいは当然のむくい」

「そのまえに、おれを殺してからだろうが」


 目つきが変わり、殺気のこもった全力のタイヨウの拳を……ギペンテの姿をした何者かが片手で受けとめる。

 びくともせず、黒髪の彼が目を見開く。

「奥の手だったようですね。たしかに相手がぼくでなければ反撃の糸口いとぐちになったことでしょう」

 この全盛期のギペンテ以外でなければ勝てていたと思いますよ。

 ギペンテの姿をした何者かが。

 衝撃音とともにタイヨウは空中に浮かんでいた。


 攻撃を受けたはずの黒髪の彼もなにが起こったのかわかってないようで。

 急速に落下し……地面にめりこまんばかりにタイヨウが叩きつけられる。

 着地したギペンテの姿をした何者かが倒れたままで動かない黒髪の彼を。

「まだ生きていますか?」

 顔だけを動かし、タイヨウがギペンテの姿をした何者かをにらみつける。

「かなり本気でやったのですが頑丈なようで。アドレナリンとやらで痛みをとばしているだけかもしれませんが」


 ギペンテの姿をした何者かがしゃがみこむ。

先程さきほどの奥の手……殺意によるパワーアップ。円堂ヒオリさんとのたたかいによって会得したものだと思うのですが、そのままでは最適解にはたどりつけないかと」

「最適解? なんの話だ」

「日永タイヨウさんがその肉体のスペックをあますことなくフルパワーでつかえる方法についてです」

「敵に塩を送るのかよ」

「金剛ミカゲさん以外は敵だと思っておりません。このギペンテのスペックがどれほどのものか確かめたいのもありますが」


 ぼくはあなたに興味があります、それほどの過去をもちながら封印して忘れているんですから。

 そうギペンテの姿をした何者かが続ける。

「頭でも打ったのか」

「いいえ。ぼくは日永タイヨウさん……あなたにもなれるんですよ。知っていて当然のこと、その痛みも充分に理解してあげられます」

「女の子だったらよろこんで」

「じっとしていてください」

 ギペンテの姿をした何者かの右手がタイヨウの頭を軽く地面に押しつけた。


「辛かったでしょう」

「しゃべ……るな」

「あなたはなにも悪くない。なのに、そのやさしい性格のためにそうなってしまった」

「おい、だからしゃべるなって」

「現在のあなたが心の底から好意をいだいている土守シノハさんの姿で語ってあげたいですが。このギペンテ以外ではあなたの動きをとめられそうにありませんのでね」

「しゃべるなって! 言ってん」

「過去に月宮クモラさんが死んだのはあなたのせいではありませんよ。少なくともあなたはなにも悪くありません」

 糸の切れたあやつり人形のようにタイヨウは動かなくなった。

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