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泥まみれのフィスト  作者: 色飴 遥火
異界からの案内人
20/23

この世で一番 5

「どうして、あなたはそこまで」

「友人のためだから……ミカゲくんならそう言うと思うよ」

 声のきこえたほうへとギペンテが顔を向ける。

 ところどころ、着ている黒のセーラー服や灰色のパーカーが焼けげているヒオリが立っていた。

「友人というか男同士の友情ってやつかな? ペンギンちゃんのほうがよくわかるんじゃない」

「ぼくの名前はギペンテです」

「わたしは円堂えんどうヒオリ……知っていたっけ? あのニセモノ変身できる、ニセの委員長から」

「おや、気づいていましたか」


 足をふらつかせながら、ヒオリのいる方向にギペンテがからの正面を。

ふん囲気いきとかがちがったからね。なにがあったのか知らないけど……ギペンテちゃんもアップデートをされたようで」

「お話し、しましょうか?」

「興味ないし。お互いに体力ぎりぎりだし、さっさと終わらせようよ」

 ヒオリがちかづいてくるのをギペンテはしばらくだまって見ていた。お互いの間合まあい……一撃で相手をしとめることができる距離までちかづいたところで。


土守つちもりシノハさんにずいぶんと手こずっていたようですね」

「そんなことまでわかるんだ……その目。わたしが勝ったら記念にもらってあげるよ」

「勝敗は?」

「しーちゃんの勝ち逃げってところかな。わたしが勝つつもりがなくて」

「嘘が下手ですね。ミカゲが殺されるかもしれないとこちらを優先させたわけですか」

 大きく息を吐き、ヒオリは右手だけで自分の黒髪をポニーテールにしている。


「なんのことやら、さっぱりわからないな」

「女性をいじめる趣味はありませんので、話はこれくらいにしておきましょうか……それとも日永にちながタイヨウさんがここにおられないことが気になっているのなら」

「さっさとやろうよ」

 とヒオリが話を強引に打ち切った。

「もうひとつだけ質問をさせてください。どうしてポニーテールに? 気合を入れるためにとか、ルーティーンというやつでしょうか?」

「かなりいい目玉をもっているのに……わからないんだね。人間の女の子はきまぐれでポニーテールにしたくなるのさ」


 左腕を垂らした状態のヒオリが立ったままで気絶をしているミカゲを横目で確認した。

「髪の短い女性はどうしているんですか」

「ギペンテちゃんは女の子にモテなさそうだね……軽い冗談にまともな質問しちゃうなんて」

「性分なものでして。まともな質問ついでに、少しだけ場所を移動してあげましょうか。ぼくは全力の円堂ヒオリさんとやり合いたいので」

「べつにいいよ。すぐに終わるしさ……なんか合図はほしいけどね。小銭とかもってない?」

「残念ながら。ですがマジックは得意なので花束であればいつでも用意をできます」


 ぽぽん……という音とともに白い煙の中から人間のいる世界では見たことのない種類の花束をひとつギペンテが出現させる。

「ブーケトスやってよ。もらってあげる」

「円堂ヒオリさんも嫌味がお上手なようで」

 ギペンテが花束を高く……頭上に投げた。

 のと同時にヒオリが骨の折れている左腕で、拳をねじこもうとするがギペンテに避けられる。

「あなたたち人間、武術家たちの勝利への執念などと呼ばれるものは嫌というほど」

 ヒオリが強引に動きをとめて、拳をねじこもうとしていたのとは反対方向に身体をむりやりにねじるように右足の蹴りを。


「やはり、そうきますか」

 骨がくだけているのかヒオリの身体から気味の悪い音が響いていく。

 ポニーテールにした彼女の右足の蹴りをギペンテが完璧にガードできる体勢をとった。

 ミカゲの蹴りの威力には程遠ほどとおい、そう感じたからか思わず唇を三日月のかたちに。

「ミカゲくんに言われなかった? 命をけた真剣勝負の最中に笑うなって」

 フェイント。

 右足の蹴りを自らの意思でからぶらせて、ヒオリが全身を右回転させる。


回転かいてんきゃくと呼ばれる技でしたね。たしか、ミカゲがもっとも得意としていたそれは」

 頭上に振りおろされるようなヒオリの回転脚を、ギペンテが両腕をクロスさせるようなかたちで細い右足の蹴りを防御した。

 地面にひびが大きくひろがっていく。

「見事な蹴りですが。ミカゲには」

 ギペンテの両腕から鈍い音が。さらに地面のひびわれが大きく。

「ミカゲくんにトラウマをねじこまれているところ悪いんだけど……ギペンテちゃんがやり合っているのはわたしだってことと」


 防御をしていた両腕もろとも強引に蹴りぬき……ギペンテの顔面を地面にめりこまさんばかりに叩きこむ。

 ふらつき、なんとか着地をしたヒオリが落下してきた花束を右手でキャッチする。

「イカれた女だってことを忘れないでほしいかな。どれだけ目がよくても、ガードが完璧でも……強引に突破しちゃえば問題ないんだし」

 折れ曲がっている自分の右足をひややかな目つきでヒオリは見下ろす。

 意識を失ったギペンテがびくびくと身体を小刻みにふるわせていた。




「目玉をえぐるはずでは……たしか殺し合いも好きだったかと」

 意識を取り戻したギペンテを一瞥いちべつするも、興味はないようでヒオリはまだ気絶をしたままのミカゲの腹をパーカーで右手と口をつかいしばっている。

「もうすぐ死んじゃうんだから、わざわざわたしが殺さなくてもいいと思っただけ。なんにも見えない目だけもらってもしかたないしさ」

「すべてお見通しですか」

「どういう原理かはわかんないけど……魔術とかで見ているんでしょう」

 ギペンテが笑い声をあげた。


「目の見えないものを相手にしても動揺しないとは容赦ようしゃないですね」

「片腕が折れている女の子を殺そうとしなかったんだから当然のむくいじゃない」

 それに目が見えない代わりにそんなに丈夫な肉体をもらったんだから……ヒオリが尻餅しりもちをつく。

「さすがに限界か。しーちゃん、再戦してくれればいいんだけど」

「ぼくが殺そうとしなかったことに不満などはないんですか?」

 座りこんでいるポニーテールにしたままの彼女があおけ状態のギペンテを見る。


「自分のことしかしゃべらないんだね。ミカゲくんに負けたのに、負けた気がしないから……すっきり負けたかったとかじゃないの?」

「すみません」

「べつにいいよ。本気で防御していたっぽいから。おかげでわたしも新しい必殺技を」

 ヒオリが首をかたむける。

「つぎはあの世でやろうね。ギペンテちゃん」

 どこかすっきりとした顔つきで、動かなくなってしまったギペンテにヒオリはそう言う。

 どこかから飛んできた大量の鳥たちがギペンテの冷たくなっていく身体を。

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