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どろまみれな純恋衣とフィスト  作者: 色飴 遥火
異界からの案内人
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19/41

この世で一番 4

「おそらく、お前の言いぶんのほうがてきかくなのだろうが。相手の精一杯の覚悟を軽んじていいことには」

「では、ぼくとこんごうミカゲさんはどうでしょう」

 覚悟というよりは、相手を完全に殺せるかどうかというものに話はそれてしまいますが。


 ミカゲが全身をふるわせる。

 死。

 えんどうヒオリが常に求める殺し合いと呼ぶものとは比べものにならない。

 これまでに何度も命をドブに捨てるようなとうそうをくりかえしてきた、ギペンテの底知れない。

「そこまでのしんそうのぞけるレベルで全身がふるえるていどとは……さすがですね」


 大量の冷や汗をかいていたことに、ミカゲはようやく気づいた様子。

「話をもどしましょうか。今のを感じ取ったうえでまだ入院された方と」

「同じだ。時間がもったいない」

「意外と強情なようで」

「完全に否定したいわけじゃない。単純に覚悟の差だけで勝敗は決まらないと言いたいだけだ」


 気合を入れるためかミカゲが声を張りあげる。

「勝ったほうが強いんだからな」

「まったくそのとおり……あなたもおもちゃとして合格レベルです」

「そのおもちゃに負け」

 ミカゲが全身全霊で警戒し、ほんの少しの油断もなかったことはギペンテが一番理解をしていた。


 それでも屈強な彼の腹を、自分の腕がつらぬいたのは必然と言っているかのようにギペンテが笑みを浮かべる。

「心臓を狙ったんですがね。とっさに」

「悔しくなさそうだな……殺せなかったのに」

「相手が金剛ミカゲである以上、このていどの攻撃で殺せると考えるほうが」

 ギペンテの表情が変化した。


「イカれたあいつも同じことを言っていたな。相手を殺せないから勝てないとかどうとか」

 ミカゲの腹をつらぬいた右腕をひきぬこうとするもびくともしない。

「対戦相手を殺せないのは事実だが。こちらが殺すつもりでやっても死なない相手ならば話はべつだ」

 この技をつかえる日がくるとはな……感謝する。


 ギペンテの目でさえも、かろうじて見えるほどのスピードのミカゲの蹴りをなんとか左腕でガードをした。

 ギペンテがうれしそうに笑みを浮かべる。

さきほどたつまきりとは比べものにならない威力……全身がしびれて」


 自分の血塗れの右腕が見えてか。

 ミカゲが腹の力を抜き、拘束していたはずの右腕を自由にしたことを不思議に思っていてか。

「今の蹴りは相手を動けなくするのが目的。はるかに格上の相手につうじるか不安だったが問題なかったようだな」

 リクエストではなかったが……こたえてやろう。


 腹から大量の血をらしミカゲがから全体を右回転させる。

 あまりのスピードにミカゲの姿が消えたように。

 ふたたび姿が見えたと同時に、屈強な彼の右足の無数のかいてんきゃくが……ギペンテの肉体に鈍いメロディを叩きこむ。


かぜ

 飛び道具としてのそくめんが強い、竜巻蹴りとそうへきをなすきんきょの回転脚。

 もうひとつの必殺の技の名をミカゲが口にする。

 ギペンテがふらつき、視線をあちこちに動かす。

 ようやく見つけたかのように屈強な彼の姿を。


 右足の竜巻蹴りによる、無数のレーザービームのような風圧がギペンテに向かう。

 ガードをしてダメージを最小限になるように受けとめつつミカゲの動きを確認。

 背後をとろうとした屈強な彼のほうへギペンテが身体の正面をすばやく向けて、迎え撃つように左の蹴りをくりだす。


 かんぺきにガードをしたが、ミカゲの右腕から音が。

 にやりとギペンテが。

「なにを笑っている……命のやりとりをしているんだぞ!」

 野太く気迫のこもったミカゲの大声にギペンテが身体をびくつかせ、動きがとまる。


 すきを見逃すことなく、ギペンテの横腹にミカゲの右のまわしげりが入った。

 骨のくだける音。

 口を大きく開けて、ギペンテにダメージがあった様子を目にしても屈強な彼は笑わない。

 ほんの一瞬、ミカゲは悲しそうな表情をしたが、すぐに目つきを鋭くする。


 屈強な彼の左足がギペンテの顔を蹴りあげ、かんはつを入れず右の拳をみぞおちに。

 体勢をくずしたままのギペンテがとっさに右足をあげてミカゲの右の拳をガード。

 視線がぶつかる。

 示し合わせたように屈強な彼とギペンテ……それぞれの左の蹴りがぶつかり交差した。


「真剣な命のやりとりでしたね。ミカゲ!」

 ギペンテにパワー負けをした、ミカゲが体勢を。

 右回転。

 今の左足の蹴りは……動けな。

 身体全体を右回転させるミカゲの姿が消え。

 鈍いメロディ。屈強な彼の必殺の技である太刀風をギペンテはまともに食らったが。


 腹から大量の血を噴出させているミカゲを見てか顔をゆがめながらもギペンテは唇を。

「なぜ笑う? もう太刀風をつかえないと油断しているのか」

 弱々しいはずの屈強な彼の声にギペンテが全身をふるわせる。


 屈強な彼が身体全体を右回転させていく。

 血を撒き散らす。

 鈍いメロディ……ギペンテがふらつき、ひざをつきかける。

 まさか、まだ。

「命のやりとりなんだ。自分の命さえなくなる覚悟もなく勝てるわけないだろう!」


 三度目の太刀風。

 辺りに飛び散り、付着していくミカゲのおびただしい量の血液。

 もう動けるわけが。

 ギペンテが目を見開く。

 ミカゲの異常性……勝利に対するであろう執念に恐怖してか思わずギペンテは声を。


 四度目。

 回転の勢い、肉体の限界もあってかミカゲは倒れこみそうになるも即座に立ちあがり。

 かろうじて立っているギペンテをにらむ。

 五度目はなかった。

 呼吸をととのえ、ギペンテは気絶したままで自分をにらみつけているミカゲの堂々とした姿を。


「ぼくはやはり間違ってませんでしたね。ミカゲ、あなたほどの覚悟をもった人間がそうそういるわけないでしょう」

 勝利したはずのギペンテはまったく笑わない。

 未だに、にらみつけてきているミカゲが今にも。


「もしも……ミカゲ、あなたがトラウマもなくそれほどにおやさしい生きものでなければ」

「ないものねだりをしてもしかたない。それに武術の頂点はそこまで甘くなく」

 ミカゲの唇は動いていない。

 だが、たしかにギペンテの耳には屈強な彼の声がきこえた。

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