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泥まみれのフィスト  作者: 色飴 遥火
異界からの案内人
18/23

この世で一番 3

「それとこれとは話が」

円堂えんどうさんはマゾヒストなんでしょう。これくらいの意地悪は軽く受け入れてくれないと」

「いじめられるのは好きだけど、意地悪は嫌いなんだよねえ。あと」

 とつぜん現れたシノハの拳による攻撃を、右手でヒオリが受けとめる。

「怒っていてもしーちゃんはやっぱり真面目だね。わざわざ会話中に殴りかかってくれるなんて」

 受けとめたシノハの拳を握りつぶすと同時に……火色の髪の彼女が炎のゆるめきとともに消える。


「しーちゃんも我慢できなくなってきているみたいだし。タイヨウくんに首輪をつけられたと考えれば悪くないか。確認なんだけど半殺しは」

「絶対に駄目だめです。できれば骨を折ったり、怪我けがもさせないでください」

「条件が多いな」

 不満そうにヒオリがうなり声をあげながら、しゃがみこむ。セミロングの黒髪の彼女の頭部を狙っていたシノハの蹴りがからぶっている。


「タイヨウくんからのプレゼント的なものはないのかな? 条件が多いんだし」

「専用のムチで叩いたり」

「ちがうちがう。真面目なプレゼントちょうだい」

 と言いつつ地面を燃やし……えぐるほどのシノハの垂直にふりおろしたパンチをヒオリが避ける。

「円堂さんはなにがほしいんですか?」

「んー、そうだねー。なんで月宮つきみやちゃんにそんなに執着をしているのか教えてよ」

 ぴくりとシノハが反応をしている。


「プレゼントとかではないような」

「かたちのあるものとはかぎらないでしょう。プレゼントってやつは、相手がよろこぶのが前提だし」

「そんなことでよろこんでくれるんですか?」

「本当にわたしをよろこばせてくれるつもりだったのか」

 調子が狂うな……ヒオリがつぶやく。

「今から教えましょうか」

「あとでいいよ。そろそろこっちも我慢をできなくなってきたからさ」

「シノハを殺したら本当に殺しますよ」

「もう愛の告白じゃん」


 にゃひひひ……奇妙な笑い声をあげて、ヒオリが本物のシノハに抱きつき。

「あっちでやろうか、プンスコしーちゃん」

 タイヨウに邪魔をされないようにか、セミロングの黒髪の彼女が火色の髪の彼女をつかまえたままでその場からはなれていく。

 取り残されたタイヨウが辺りを見回す。

「燃えていたビルは」




「なんだ、その気持ち悪いしゃべりかたは」

 ミカゲに蹴りとばされたペンギンの男が、意識を取り戻したようでまばたきをくり返す。

 今のは……ずいぶんと昔のことを思い出させられましたね。意識をとばされるなんて、いつぶりの。

 自分を追いかけてきている、ミカゲの気配を感じ取ってかどうだにせずペンギンの男が目を向けた。

「やりあうつもりはないと言ったはずですがね……そういえば金剛こんごうミカゲさんには伝えそこねていたんでしたっけ」

 

 伝えていたところで月宮クモラさんの安全が確認できない以上は、こうなっていたのかもしれませんね……ペンギンの男がつぶやく。

 それはさておき、ここは。

 ほとんど即席にちかいビジネスパートナーのわりに仕事がていねいでたすかりますね。

 もう……あなたはこの世界のどこにもおられないんですね、スズツキ。

 ペンギンの男が悲しそうな顔をつくった。

 もう……声もきくことはできませんか。


 仮にわたしに声をきかせられるとしても、あなたは話しかけてはこないでしょうね。仕事が終わったあとのたのしみであるばんしゃくは。

 だれにも邪魔をされないところで静かにだまってやるのがあなたの流儀りゅうぎでしたし。

 お互いさまでしたが一度ぐらいはいっしょにカリカリに焼いた食べものとうまい飲みものを。

「いいやつのふりをするなよ、下手くその嘘つき」

「本当に……あなたはおやさしい」

 それでは遠慮なく残りの時間を自分のためだけにたのしませてもらいましょうか。


 スズツキ。あなたが死ぬまえに見たかったかつてのわたし、かつてのぼくとまったく同じだとは言えませんが。

 それでも満足をしていただけることでしょう。

 酒のさかなとして充分なぐらいには。

「ぼくも……やっとこさ本気でたたかえるおもちゃを見つけられたかもしれませんし」

 地面をえぐりながら強引に着地をしたギペンテを見てか追いかけてきていたミカゲが動きをとめる。

ふん囲気いきが変わったか?」

「こちらが本来です。めんどうくさいものはなにもかもなくなってくれたので……やっと身軽に本気でたたかえるようになりました」

「よくわからないが。ずいぶんと」


 とっさに完璧かんぺきにガードをしたはずのミカゲを強引に蹴りとばした。

 屈強な彼がなんとか地面に着地し、しびれているのであろう……ふるえている自分の両腕をちらりと確認する。

「今ので半分ぐらいです。手加減しましょうか?」

「さっさと本気でやれ。わざわざしゅがえししているヒマがあるんだったらな」

「たしかに、時間もありませんし。まだ少なくともおもちゃがふたつも残っていますからね」

 右足を軸にから全体を回転させて、ミカゲが竜巻たつまきりをはなつための準備を。


「それが必殺の竜巻蹴りですね。なんとも心地よいそよ風を提供してくれてありがたい」

 ほとんど仁王立ち状態のギペンテのある種のあおり文句にはまったく反応をせず。

 ミカゲが無数のレーザービームのごとき竜巻蹴りの風圧をすべて一直線いっちょくせんびせかける。

 その場から一歩も動くことなくギペンテは、ふりそそぐレーザービームの雨を避けていく。

「威力も確かめておきましょうか」

 そうつぶやき手のひらでギペンテが受けとめる。派手な音が響くも……右手がしびれているていど。


「スズツキやトサカ頭が歯が立たなかったのも納得の威力ですね」

「わかりやすい皮肉だな」

 着地をしたミカゲが落ち着いた口調で言う。

「間違っていたら失礼ですが……金剛ミカゲさん。あなた、手加減をしていますよね?」

 おそらくは右足の蹴りのほうが威力が高いはず、なのに左足で竜巻蹴りを放っていましたし。なにかポリシーのようなものでも。

 ギペンテがミカゲにきいている。


「ただのトラウマだ」

「手短であれば……当時の話をきいてあげてもいいですが」

「すでに克服済みだ。面白くもないし、対戦相手を病院送りにして未だに治る見込みがないというだけの単純な話だからな」

「死にたいほど、つらいんでしょうか?」

「おれが死んで解決するものでもないだろう。対戦相手も武術家のはしくれである以上は、少なからずそうなる可能性は覚悟していたはず」

「覚悟ですか。便利な言葉ですよね、それ」

 ギペンテが鼻で笑うように言う。

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