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泥まみれのフィスト  作者: 色飴 遥火
異界からの案内人
17/23

この世で一番 2

 目の前にいたはずのシノハが炎のゆらめきとともに消えてしまい、タイヨウとヒオリがほとんど同時におどろいた表情をする。

「今のは卑怯じゃない?」

 声のした方向にタイヨウとヒオリが目を向ける。

 高速で移動をしたわけではないということを理解してか……黒髪の彼は困ったような顔を。

 セミロングの黒髪の彼女はうれしそうにから全体をふるわせながら、なにかを我慢しているような顔をした。


「ぜんぜん卑怯じゃないよ。相手の油断やすきや弱点をつくのはたたかいの基本。というかタイヨウくんはやさしいほうだよ、殴ったり蹴るほうがはやいのに……わざわざできるだけダメージを与えないように気絶させようとしたんだから」

「手加減したってこと?」

 ヒオリの言葉に、シノハが眉毛をぴくつかせる。

「おれの読みが甘かっただけだよ。今のシノハは、本気でたたかわないと勝てない相手なのにな」

「わたしもさっきのチョークスリーパーで決着すると思った。ごめんね、しーちゃん」

「べつにいい。ここからが」


 またシノハが炎のゆらめきとともに消える。

 さっきまでそこにいたはずの火色の髪の彼女の、みぞおちを的確に攻撃をしたタイヨウの拳の風圧の影響もあってか。

 シノハのまぼろしが消えるスピードは先程さきほどよりもはやかった。

「うん。今のが本気だったのはわたしでもわかる」

 うれしそうな、シノハの声がどこからかきこえてくる。

「大丈夫だとは思いますけど……金剛こんごうさんの加勢にいっておいてもらえますか」


 右手で折れている左腕を固定するようにつかんだ状態のままヒオリがまぶたを閉じている。

円堂えんどうさん? きこえて」

「それはできないな。このままわたしがミカゲくんのところにいったら、しーちゃんとタイヨウくんがイチャイチャしそうだし」

「なにを言っているんですか?」

 ゆっくりとまぶたを開いたヒオリがすぐにはタイヨウに返事をせず、シノハの声がきこえてきた方向に視線を一瞬だけ動かす。

「しーちゃんを殺す気でやってないよね?」

「友達ですから」

「そのままだと決着がつかないことはタイヨウくんもわかっているでしょう。いつぞやみたいに、うやむやにするつもりかもしれないけどさ」


 それじゃあ、今のしーちゃんは納得してくれないと思うな……というヒオリの言葉をきき。

「なんの話ですか」

 と今の話の要点を理解できてなさそうな顔をしたタイヨウは返事をする。

「嘘つきだねえ。まあいいや、タイヨウくんの問題だし……しーちゃんもはっきりと伝えないと駄目だめな相手なのはわかっているのに」

「それ以上しゃべるな」

 とつぜん自分の後ろに現れたシノハにおどろいた様子もなくヒオリは火色の髪の彼女のほうに顔だけを向けた。


「お手本を見せてあげようか、しーちゃん」

 たたかいを中断させられて警戒心が和らいでいるであろうタイヨウのほうへと、意地悪そうな笑みを浮かべたヒオリがスキップをするようにちかづく。

「邪魔をしないと言っていたような」

「そこまでは言ってないよ。今……やるよりも未来に先送りするほうが面白そうだから我慢をしてあげようとしただけの話」

「我慢できなくなったんですか?」

 落ち着いた口調とは裏腹に……タイヨウの殺気のこもった目つきを見つつ、ヒオリが首を横にふる。


「さらにカンフル剤をあげようと思っただけ」

「なにするつもりですか」

「話は変わるんだけど。しーちゃんとのんびりたたかっていていいの? 月宮つきみやちゃんはまだ見つかってないのにさ」

 ふっと……タイヨウがゆらいだような表情を。

 その一瞬の隙を見逃すことなく、ヒオリは黒髪の彼に左腕が折れているのも気にしてないかのように勢いよく抱きつき唇を奪った。

 目が合う。

 びっくりしているタイヨウをあざわらうようにヒオリはにやつき。


 ぼうぜんと自分たちのキスシーンを見つめているシノハにセミロングの黒髪の彼女が。

「死ね」

「あぶない!」

「やあん……もうちょっとあじわいたかったのに」

 唇がはなれ、タイヨウに抱き寄せられたヒオリが残念そうに言っている。

 さっきまで自分が立っていたところが燃えさかりながら、えぐれているのを見てかセミロングの黒髪の彼女が短く口笛を吹いた。


「その、死にたいんですか。あんなことをして……シノハが怒るのも」

「しーちゃんが怒る理由がわかるってことは、タイヨウくんも異性としてかれていたことはわかっていたわけだ。意外とプレイボーイくん?」

 反省した様子もなく会話を続けているヒオリ。

「プレイボーイかどうかはわかりませんが、シノハの勘違いだと思っていたんですよ。ほれられるようなことをした覚えもなかったので」

 自分の本心であろう言葉を並べるタイヨウを……セミロングの黒髪の彼女が信じがたいと言いたそうな顔で見上げる。


「自己肯定感が低いなー。さんぴーもできるのに」

どもえ? なんで今」

日永にちながくんに変なこと教えんな!」

 普段とは比べものにならないほどゆがみ、怒りの感情をあらわにしているシノハを中心に……熱が。

「しーちゃんとやってもいいよね?」

 完全にヒオリを標的にさだめている火色の髪の彼女の鋭い目つきをタイヨウが確認する。

「間違っても殺したりしないでくださいよ」

「なにそれ……わたしにしーちゃんを殺してほしいとかいうおねだり? アイラブユー?」


 タイヨウに見下すように、にらまれるもヒオリは平然とした様子。

「三つ巴したいならやってあげるけど」

 黒髪の彼が深呼吸をするように大きく息を吐く。

「おれは金剛こんごうさんの加勢にいきます。根本さえ叩きつぶしてしまえば……クモラの安全も保証をされるようなもののはずですし」

「しーちゃんを殺して、ブチギレモードのタイヨウくんと殺し合いデートしちゃおうとしているわたしの計画は叩きつぶさなくていいのかな?」

「大丈夫だと思いますよ。今のシノハ相手だと片腕が折れている円堂さんのほうが殺されそうなので」

「たすけてくれないの……タイヨウくんは」

「自業自得でしょう。成仏してください」


 やるねー、タイヨウくん。わたしがマゾヒストだということを見抜くなんて……とヒオリがへらへら笑っている。

 準備運動をしつつシノハを見ているセミロングの黒髪の彼女がタイヨウの視線に気づき。

「はやくいきなよ。ほとんど素人だったしーちゃんでこのレベルなんだから……あのペンギンの強さがわからないわけじゃないでしょう」

 本当に殺されちゃうよ、ミカゲくん。

 真剣そうな顔つきでヒオリが口にする。


「金剛さんに興味がなかったのでは?」

「殺し合いの相手としてはねえ。人間やらふつうの武術家としてはわりと好きだから……死なれるのはちょっと困る」

「円堂さんが加勢すればいいのでは」

「かばったりされそうだし。ミカゲくんってわたしのこと好きっぽいからね、できるだけかっこ悪いの見ないようにしてあげたいだけだよ」

「じゃあ……金剛さんが死なないように加勢をするのでシノハを殺さないでくれますか」

 爽やかそうな笑顔をつくったタイヨウからの交換条件をきいてかヒオリが嫌そうに顔をゆがめる。

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