エピローグ 上
ポータルを超えたら、其処は教室だった。
「は?」
龍兵が困惑に満ちた間抜けな声を挙げると、優と勇輝が驚きと共に詰め寄って来た。
「龍兵!?」
「お前無事だったのか!?」
その驚きの声に周りは困惑しながらも、龍兵と2人の幼馴染の遣り取りを興味深そうに見詰める。
そんな周囲を然りげ無く見廻した龍兵は大まかながらに状況を掌握すると、再び傭兵とスパイの技術を用いて状況に合わせんとした。
「あぁ、何とかな……連中しつこくて面倒臭かったわ」
困った面持ちと言うポーカーフェイスを保ちながら返す龍兵であったが、内心では驚きに満ちていた。
まさか、あのクソプラン成功後の日本に戻れたとは思わなかった。
ミンも味な真似しやがる。
ありがとよ。
ミンに感謝を覚えながらも龍兵はプレートキャリア等の装具を身に纏っていた事を今更気付くと、ソレを脱いでいく。
プレートキャリアとFASTヘルメットをその場に脱ぎ捨て、身軽になってスッキリとした様子の龍兵はトイレへ向かった。
廊下を通った先にある男子トイレに行くと、龍兵は小便器に向け、小便を始める。
そんな龍兵の隣に優は立つと、同じ様に小便をする。
程なくして小便が済むと、優は自分のモノをしまいながや尋ねた。
「なぁ、りゅーちゃん」
「何だ?」
自分のモノをしまい終えた龍兵が手洗いの為に洗面所へ赴こうとして足を止めると、優は切り出す。
「お前、どうやって俺達を帰還させる方法を用意したんだ?」
核心とも言える問いがぶつけられると、龍兵は少し困ってしまった。
そんな様子の龍兵に優はもう1つの疑問をぶつける。
「お前、殿として残ってただけじゃないだろ?戻って来た時のお前、滅茶苦茶驚いてたし……」
腐れ縁の幼馴染として龍兵の根本を知るからこそ、優は龍兵が皆の前に現れるようにして戻った際に本心から驚いた事に気付いてしまった。
恐らく、今この場には居らぬもう1人の幼馴染である勇輝も気付いているだろう。
そんな優に対し、龍兵はどう答えるべきか?悩みながらも、当然の様にはぐらかした。
「そりゃ驚いたさ。あのクソプランが成功してるわ、俺は生きて帰れたわなんだから……」
だが、そんなスパイ仕込みの嘘を優は古くからの友として看破する
「お前さ、息をする様に嘘吐くなよ」
責める様に見詰める優に龍兵は降参を選ぶ様に答えた。
「仕事をした。その仕事を受ける条件としてお前や勇輝。クラスの皆全員を帰して貰った」
その答えが信じられなかった。
だが、龍兵が嘘を吐いてないのを理解出来るからこそ、優は信じざる得なかった。
そんな優に龍兵は釘を刺す様にして告げる。
「仕事の内容と依頼人の事は流石に教えねぇぞ。守秘義務って奴があるんでな」
優はそれでも問いたかった。
だが、龍兵は一度決めたら梃子でも動かない頑固さを持ってるからこそ、この場で聞かなかった。
しかし、だからといって知るのを諦めた訳じゃない。
「なら、何時か教えろよ。滅茶苦茶気になるから」
「諦めろ。俺は話す気無い」
そう返すと、優と共に男子トイレを出た龍兵は外が暗い事に今更気付いた。
「夜だったのか……電車は未だ動いて」
龍兵がスマートフォンの画面を見て時間と日付を確認すると、何かを思い出した優は慌てた様に大声を上げてしまう。
「あ!!財布とスマホ忘れた!!」
ソレを聞くと、龍兵は直ぐに嫌な予感を覚えながら教室へ戻った。
そして、優と同じ様にスマートフォンや財布等の大事な品々を異世界に残置してしまった事にどうしよう?と、頭を抱えて深く悩むクラスメイトを目の当たりにしてしまう。
そんなクラスメイト達の為、龍兵はある場所へ電話する。
電話した先が出ると、龍兵は完結明瞭に告げる。
「あ、すいません……1ヶ月前に高校で起きた神隠し事件の被害者で蒼木龍兵と申します。私を含めた33名の生徒全員の保護を早急に求めます」
その内容に担当オペレーターが驚くと、龍兵は気にする事無く自分達の居場所を伝える。
「今居るのは現場となった高校の教室です。はい、そうです。その高校です……はい、お願いします」
その言葉と共に電話を切って通報を完了させると、龍兵は周りに聞こえる様に告げる。
「今、警察に通報したから帰れる筈だぞ」
龍兵の言葉に教室内は歓喜に包まれた。
そんな中で龍兵はやりきった顔をすると、独りごちる。
「俺みたいなロクデナシからしたら、最高の結果だな……文句の付けようが無い」
自画自賛した様に漏らすと、龍兵は煙草を吸いたくなった。
だが、直ぐに思い立って煙草を吸いたい気分を無理矢理抑え込み始める。
今から禁煙する。
傭兵する事も無いし、煙草代もバカになんねぇし、健康にも悪い。
ソレは傭兵を辞めるよりと厳しい挑戦といえた。
だが、龍兵は気楽な様子で漏らす。
「一年出来たんだ。なら、また同じ事をすれば良いだけだ」
自分にそう言い聞かせる様に独り言ちた龍兵は教室の自分の席に座ると、スマートフォンを取り出した。
そんな龍兵にクラスメイトの1人が頼みこんで来た。
「蒼木頼む!家に電話したいんだ!」
その頼みを龍兵は断りたかった。
だが、心配する家族に自分の声を聞かせたい。
そんな気持ちを理解出来るからこそ、龍兵はスマートフォンを差し出しながら告げる。
「短めにな」
「ありがとう!!」
普段ならば絶対にしない事であった。
だが、軍人時代に戦地で戦友たちが家族に電話し、心を癒やされているのを何度も見てきた。
それも相まって、龍兵は少しだけ自分らしくない事をするのを選んでしまった。
他のクラスメイト達も龍兵のスマートフォンで家族に電話した。
そして、自分の番になると、龍兵は自宅の電話番号をタップして電話をした。
「はい、蒼木です」
女性の恐る恐ると言える声が返ってくると、龍兵は語りかける。
「母さん。俺、龍兵」
「龍兵!?龍兵なの!?貴方!龍兵よ!!」
興奮する母親に申し訳無さを感じながらも、龍兵は漸く戻れた。
そう判断した龍兵が両親と電話越しに語り合ってる頃。
龍兵にミンと名乗る彼女……悪神たる女神は目の前にある頑丈な樹脂製ケースを見詰めていた。
それは龍兵が指定した墓にあった、部下達に回収させた龍兵の置土産であった。
置土産が収まっているであろう樹脂製のケースを開けると、彼女は心の底から驚くと共に言葉を失ってしまう。
ケースに収められていたのは一体の女神像であった。
その女神像はよく見ると、顔立ちが彼女と似ている。
そんな女神像を手に取ると、彼女は絞り出す様に漏らす。
「二度と見付からない。そう思ってた」
その女神像は、彼女が永年探し求めながらも心の何処かで諦めていた大事な想い出の品であった。
だが、自分が愛した男が自分に送ってくれた大事な想い出と言える女神像は紛失し、永年行方不明となっていた。
それを当時の龍兵が何故か持っていた。
彼女でさえも混乱する程の疑問を感じてしまうのは無理の無い事であろう。
だが、彼女はその疑問を解消しようとは思わなかった。
「貴方のサプライズは最高の贈り物だった。その礼をしたいけど、貴方は拒絶するんでしょうね」
悪神とは言え、女神の好意や祝福を拒絶するであろう龍兵に彼女は呆れながらも、龍兵らしいと感じてしまう。
「でも、その方が貴方らしいわ。運命を捻じ伏せる英雄の器を持ちながら、英雄を心底嫌う傭兵としての貴方らしい……」
女神像を愛おしそうに撫で回すと、彼女は少しだけとは言え、珍しくも申し訳無い気持となってしまう。
「こんなサプライズがあるんなら、アイツに最後の悪戯するべきじゃなかったわね……でも、その方が楽しそうだからいっか」
申し訳無い気持ちになりながらも、龍兵に仕掛けた悪戯を辞めない。
そんな酷い事を漏らせば、彼女は龍兵がどう反応するのか?ワクワクしながら待つのであった。




