エピローグ 下
帰還した後は夜という事もあって警察が俺を含めたクラス全員を自宅へ送ってくれた。
だが、翌日は当然ながら事情聴取が行われた。
その際、異世界帰還者の社会復帰等を担当する行政機関がある事を初めて知った。
クラスの皆は、その職員達から事情聴取された。
で、当然の結果として優と勇輝を始めとしたクラスの皆の証言で俺が帰還方法を用意した事が露見した。
そして、俺はその職員達からその件に関して問われている。
「蒼木龍兵くん。他の生徒達から君が日本へ帰還する方法を何処からか?用意したのを聞きました」
そう切り出して来た職員に対し、俺は正直に話す事にした。
具体的な事は伏せた上で。
「その事に関してなんですが、守秘義務契約を交わしているので具体的な事は言えません」
俺の前置きに職員が怪訝な顔をする。
だが、生憎と哀しい事に俺はそう言うのに慣れてる。
だから、気にせずに続ける。
「しかし、その中でも話せる事を話すなら、依頼人の好意無き打算を利用してクラスの皆を帰還させました。その後、私は依頼人の依頼を受けて仕事をし、ソレを終わらせて帰還しました」
俺の証言に職員は驚きながらも呑み込むと、前置きを伝えた上で問うて来る。
「蒼木龍兵くん。我々は貴方が異世界で行って来た事を理由に貴方を逮捕し、処罰する気はありません。しかし、異世界への神隠しの対策を講じる為にも貴方の知る事が欲しいのです」
当然の事を言って来る。
だが、それでも俺は守るべき仁義がある。なので、具体的な事は言えない。
「私も守秘義務が無いならば、正直申しまして全部教えたいのが本音です。しかし、依頼人と守秘義務契約を交わしてしまった以上は話せないのです」
驚く事に申し訳無い気持ちが、俺の中に本当にあった。
だが、あの邪悪な厄介極まりないクソッタレのミンを敵に回す真似はしたくない。
そんな俺に職員は別の方向からアプローチを掛けて来た。
「では、その依頼人と貴方の関係は?その依頼人と貴方の間に何らかの形が無ければ、生徒達を全員帰還させると言う要求を満たそうとは思わない筈です」
根拠を交えて問われてしまった。
コレも当然としか言えない。
なので、俺は少しだけ打ち明ける事にした。
「正直に言いますと、私は異世界が二度目なんです」
その言葉に職員は心底驚いていた。
でも、俺は気にせずに続ける。
「で、一度目の異世界で依頼人と知り合い、何度か仕事を請け負った事があるんです。その関係で依頼人は私を信用し、前金としてクラスの皆を帰還させる手引きをしてくれた」
「では、一度目の異世界に関して教えてくれますか?」
「一度目の異世界は魔法はありませんでした。で、其処で生きていく為にその国の外人部隊に入隊したんですよ……ほら、その世界の人間からしたら私は異世界人ですし、学歴もコネも戸籍も無いので」
世知辛い理由に職員は納得してくれた。
しかし、当然の様に様に聞いてくる。
「その一度目の異世界で貴方は何をしていたのですか?」
「軍人と傭兵です。あ、携わった任務や依頼に関しても守秘義務契約があるので詳しい事は答えられません」
守秘義務契約を盾に喋ろうとしない俺に職員は若干の苛立ちを覚えている。
ソレに対しても申し訳無い気持ちは驚く事にある。
だけど、俺の関わった事はどれも墓場まで守り通さないと不味い事ばかりなので言えない。
そんな俺に職員は苛立ちを込めながらも改めて告げる。
「蒼木龍兵くん。同じ事を繰り返す様で申し訳無く思いますが、貴方が1度目と2度目の異世界でした事を理由に逮捕、処分する事はしません。それでも言えないのですか?」
「申し訳ありませんが言えません。なので、依頼人に直接確認して戴けると助かります」
俺の正論に職員はカウンターを仕掛けて来た。
「では、貴方の言う依頼人に直接確認したいので連絡先と名前を教えて戴けますか?出来れば、2度目の異世界でクラスメイト全員を帰還させた依頼人を……」
俺は少しだけ譲歩する。と、言うよりは打ち明ける事を選んだ。
「残念ながら地球から繋がる連絡先は知りません。しかし、その依頼人の名前だけは教えます」
「それで構いません」
「依頼人の名はミン。本名なのか?偽名なのか?其処までは知りません」
その答えに一応は満足してくれた様子であった。
だが、それでも何者なのか?知ろうとして来た。
「そのミンと言う人物の職業は?」
「コンサルタントと言うべきか?コンシェルジュと言うべきか?兎に角、手広くビジネスをしてる大物なクソ野郎ですね」
俺が依頼人に関して打ち明けた事を職員はまたも驚いている。
そんな職員に俺は少しだけ補足する事にした。
「ソイツを見付けるのは多分無理ですよ。俺が居た一度目の異世界に於いて、世界中の司法機関と諜報機関が何十年も探し続けても見つけられない。それこそ、海外ドラマのブラックリストのレイモンド・"レッド"・レディントンみたいな存在ですから……」
俺が正直に語ると、職員は何も言えなかった。
だが、腕時計を見るなり、絞り出す様に告げて来た。
「時間ですので、今回の事情聴取はコレで終わりとします」
「詳しく話せず申し訳ありません」
「ですが、貴方が証言した内容等を鑑みますと、後日また事情聴取する事になるのは避けられません」
「その際も答えられる範囲で答えますよ」
こうして、俺に対する事情聴取は終わった。
今回話した件で異世界帰還者を担当、または対処する機関が頭を抱えているだろう。
だが、生憎と俺には知ったこっちゃない。
申し訳無い気持ちは少しだけ有るにはあるけど……
そんな気持ちと共に外に出ると、夏が近いからか、強い陽射しに晒される。
この後、俺がするべき行動は1つだけだ。
「さて、ピザ食いに行くか」
俺はピザを食べに行く。
例え、尾行や監視が着こうが知ったこっちゃない。
好きにしてくれ。寧ろ、俺にすればアリバイ証明の手間が省けて都合が良いとすら思う。
今の俺は単なる高校生でしかない。
龍兵は尾行や監視に気付きながらも平然と歩き続ける。
そうして、すぐ近くに競馬場のある大型ショッピングモールに向かえば、其処のレストランフロアにあるシェーキーズへと赴いた。
運が良い事に直ぐに席に案内されると、龍兵はバイキング形式に並ぶピザを皿に沢山載せていく。
そして、美味そうに頬張る。監視チームからの視線を気にせずに。
ピザを平らげ、サイドメニューにフライドポテトとフライドチキンを山盛り乗せて席に戻った龍兵は貪る様に喰らっていくのであった。
「ただいまー」
3時間後。
ピザを食べ終え、ショッピングモール内を適当にブラブラと散策していた龍兵は自宅へ帰っていた。
父親は仕事で家には居ないが、母親は居る。
そんなありふれた家庭に帰って来た龍兵は改めて自分は帰れたんだと、幾ばくかの感動を覚えながら自室へと歩みを進める。
そうして自室に入ると、龍兵は目に飛び込んで来た品に釘付けになってしまった。
「嘘だろ?」
視線の先。
自分が長年使っている勉強机の上にこれ見よがしに置かれたケースは、龍兵にとって見覚えのある。
何なら、二度と見たくない代物と言えた。
そんなケースの前に立つと、龍兵は最悪な予感を覚えながらも意を決して開ける。
「あんのクソが!」
怒りと苛立ちを込め、コレを置いていったミンと言うクソッタレに対して吐き捨てると、龍兵は中に収められたゲテモノ。もとい、マグナムリボルバーを見詰める。
それから直ぐに見なかった事にする様にケースを閉めると、龍兵の中でもう1つの最悪の可能性が浮上してしまう。
「まさか……」
呟きと共に右手を見詰め、恐る恐るイメージした。
その瞬間、龍兵の手の中にベルギー製の拳銃……ファイブセブンMk3が現れた。
ソレを見るや、龍兵は心の底からウンザリとした様子で怒鳴ってしまった。
「契約不履行じゃねぇか!!」
そんな龍兵の様子を何処からか眺めていた彼女は満足した様子でほくそ笑むと、独り言ちる。
「私からの記念のプレゼントは喜んでくれた様ね。ほら、記念って大事だし、平和を愛するなら戦いに備えるのも大事でしょ?」
其処で言葉を切ると、彼女はシガリロを優雅に燻らせて一息を入れた。
そして、言葉を続ける。
「それを選ぶのは貴方。精々、愉快に踊って……私はそれを楽しむ事にするわ」
そう告げると、彼女は愉快そうに嗤う。
すると、そんな彼女に向けるかの様に龍兵は中指を突き立て、語り掛ける。
「今度会ったらブッ殺してやるから覚えとけ……後、契約不履行された以上は守秘義務契約を守る理由も無くなったからな」
そんな龍兵の言葉に対し、彼女は益々愉快な気持ちとなる。
こうして、今回のブラックオプスは幕を閉じた。
不穏な空気を残しながらも、龍兵は傭兵を辞め、日常と言う舞台に降り立つのであった。




