知らない方が良い事もある
シューティングレンジでは鼓膜を破らんばかりの銃声が何度も轟いていた。
そんなシューティングレンジ内に入ると、プロパテールは人間の様に両耳を塞がずに龍兵を背後から静かに見詰めていく。
銃声が轟く度。30メートル先に設置されたマンターゲットが穿たれていく。
そんな様子を眺めていても、龍兵は気にする事無く次弾を放った。
またも銃声が轟く。
すると、龍兵はシリンダーをスイングアウトさせた。それから、シリンダー前面にあるエジェクターロッドを押して5発の熱を帯びた空薬莢を纏めて足下に棄て、1発ずつ再装填をしていく。
そんな龍兵にプロパテールは告げる。
「2人に真実を伝えた」
その一言に対し、龍兵は何も答えなかった。
だが、自分の言葉に耳を傾けている。
そう判断したプロパテールは言葉を続ける。
「ザミィは私と共に立つ事を選んでくれた。でも、アティは……」
プロパテールの言葉に龍兵が驚く事は無かった。
「そりゃそうだろうな」
当然の様に感じる龍兵が漏らすと、プロパテールは龍兵に問う。
「貴方は相手の心を読むのが上手いんでしょ?なら、ヨルが裏切った理由も言い当てられるんじゃないの?」
本心と共に正直に弟であるヨルダバオトが裏切った理由を未だに解らぬ。
そう告げる様にプロパテールは問う。
すると、龍兵は目の前にマグナムリボルバーを置いて耳栓を外し、振り返った。
そして、答えた。
「人が裏切る理由は幾つかある。だが、俺の経験則から言うと、大体の場合はカネか愛だ」
自分の経験則として龍兵が告げ、プロパテールは「カネか愛」と、反芻しながらも首を傾げてしまう。
そんなプロパテールに対し、龍兵は講義する様に続ける。
「で、裏切りの実行と言うか意思を固める場合に関しても、今までの積み重ねからか?衝動的か?って具合に2パターンある」
その言葉をプロパテールが反芻する。
「今までの積み重ねと衝動……」
反芻しながら心当たりを記憶から探そうとする。
しかし、心当たりが思い出せなかった。
そんなプロパテールに対し、龍兵は指摘する様に事実と意見を述べた。
「標的であるお前の弟はお前を封じた後、地上の世界を600年も滅茶苦茶にし続けている。ただ、権力を奪いたいだけなら、そんな事をする必要は無い……違うか?」
「えぇ、その通り。それに私を殺すべき所でもあるわ」
プロパテールが龍兵の意見に同意すると、龍兵の中にある仮説が確信へと近付いていく。
「そう。権力を簒奪して好き放題したいだけなら君を生かす理由は無い。無論、地上を600年もずっと滅茶苦茶にし続ける必要も無い」
簡単ながらも事実を並べた龍兵に対し、プロパテールは確信を抱きながら改めて問う。
「貴方はヨルが裏切った理由を既に知ってるの?」
プロパテールから見た龍兵はヨルダバオトが裏切りを選び、叛逆した理由を知っている様に思えた。
そんな問いを投げられると、龍兵は正直に答える。
「いや、知らん。だが、愛が簡単に憎しみや怒りへと容易く変わる事や、感情が爆発した人間が恐ろしくバカな事を考えなしにヤラかす……この2点は嫌ってほど見てきた」
龍兵の答えから、弟……ヨルダバオトが愛を理由に自分を裏切り、叛逆に至った。
そう聞こえたプロパテールは益々分からなくなってしまった。
「どう言う事?」
本心からプロパテールが問う。
だが、龍兵が答える事はなかった。
「本人に聞け。殺す前に」
「何故、教えてくれないの?」
威圧と苛立ち混じりの声と共に突き刺す様な鋭い視線が向けられると、龍兵は答え、説明を述べていく。
「仮説は所詮、仮説でしかない。本当の答えを知ってるのは本人だけで、断じて赤の他人で部外者の俺じゃない……だから、本人に聞くべきだし、ソレが筋でもある」
その説明は本心からのモノであった。
しかし、プロパテールは気にせずに詰問して来た。
「仮説でも構わない。教えて」
答えなければ殺す。
そんな感情を感じ取ると、龍兵は諦め混じりに確信のある仮説を答えた。
「一言で言うなら、君を愛していた。コレに尽きる」
「え?」
訳が解らなかった。
実際、プロパテールと同じ立場となったら、龍兵の仮説に誰もが首を傾げ、プロパテールと同じ様に間抜けな声を漏らしてしまうだろう。
だが、龍兵は気にせずに続ける。
「奴は君を愛していた。恐らくだが、性的にな……」
続けられた言葉にプロパテールが沈黙すると、龍兵は更に述べていく。
「だが、君は弟……ヨルダバオトを家族として、姉として愛していた。だが、1人の男としては見てなかった」
その言葉に何を言っているんだ?
そう言うかの如く、プロパテールは返そうとした。
「弟だもの。弟として、家族として愛しは……」
其処で言葉が止まってしまった。
そんなプロパテールに対し、龍兵は遠慮する事無く問う。確認の為に……
「標的が君を裏切る前日。または何日か前……」
「えぇ、そうよ」
言葉を遮る様にプロパテールが肯定すると、龍兵は淡々と告げる。
「ソレこそが俺の辿り着いた仮説と確信だ」
淡々と告げられた内容にプロパテールはその場に崩れ落ち、呆然としてしまう。
そんな放心するプロパテールに龍兵が同情する事は無かった。
だが、答えようとしなかった理由は答えた。
「君が酷いショックを受けるのは目に見えていた。だから、俺は言いたくなかったんだ」
龍兵は機械ではない。人間だ。
キチンと感情を持った人間なのだ。
だからこそ、龍兵はヨルダバオトの裏切りの真相とも言える理由が、プロパテールに対して強烈なショックと精神的なダメージを与えてしまう事を予期していた。
それ故に龍兵は答えたく無かった。
だが、それでもプロパテールは欲した。欲してしまった。
そんなプロパテールはポツリと漏らす様にして龍兵に尋ねる。
「私のせいなの?私がエノアを愛さなければ、こんな事にならなかったの?」
放心した様子でプロパテールが尋ねると、龍兵はどう答えるべきか?迷いながらも慎重に言葉を選び、ハッキリと答える。
「半分は君のせいだ」
その答えにプロパテールは何も返せなかった。
だが、それでも言葉を絞り出す様にプロパテールは知る為に問う。
「残りの半分は?」
「当然、君の弟だ」
ハッキリ答えると、龍兵は真面目な面持ちと共に説明する。
「君は自制出来なかった。君の弟も自制出来なかった。だから、どっちも悪い……そう言わざる得ない」
その言葉にプロパテールはその場に蹲り、グスグスと啜り泣き始めた。
そんなプロパテールに龍兵が声を掛ける事は無い。
ただ、黙したままマグナムリボルバーを回収し、シューティングレンジを後にした。
そして、自分かプロパテールを捜していたであろう、アティルーナとザミルを見つけるなり誘う。
「お前等、ちょっと付き合え」
その誘いに2人は顔を見合わせてしまう。
だが、龍兵は気にする事無く2人の手を掴むと、無理矢理引き摺る様にしてシューティングレンジから遠ざかっていくのであった。




