ロマンと現実の狭間で
プロパテールがアティルーナとザミルに真実を語り始めた頃。
あてがわれた自室に居た龍兵は戦闘服に着替えると、冷えた缶コーラを飲みながら思案していた。
パティが2人に真実を語っている。
その結果として、2人は敵になる事がなくなり、俺に対する脅威は一気に失せる。
さて、此処から先はどうなる?
プロパテールが真実を語る事で2人が敵対し、脅威となる事が無くなる。
そう判断した龍兵は、その先を思案していく。
標的であるヨルダバオトはパティが現れた事で求心力等が一気に激減してしまったと見ても良い。
天界全体は今の主神とパティ。どっちが本物なのか?判断が付きかねている。
其処へアティルーナとザミルだ。
真実を全て知った2人が天界全体がヨルダバオトから離反する様に仕向ければ、ヨルダバオトは孤立する筈。
だからこそ、ヨルダバオトは自ら動いて対応せざる得ない。
プロパテール本人による襲撃はヨルダバオトにとって、計算外の出来事であった。
彼女が襲撃し、自らが真のプロパテールである事を高らかに宣言し、玉座に座る主神が偽りである事も知らしめてしまった。
それ故に偽りの主神たるヨルダバオトは、自ら動いて全てを片付けざる得なくなっている。
其処まで仮定する様に思考を巡らせると、龍兵は缶コーラを一口飲んで更に思考を巡らせていく。
そんなヨルダバオトの勝利条件は1つ。
パティを自らの手で討ち、その首を以て自分が天界の主である事を知らしめる。
この一点だけだ。
自ら動いてプロパテールを自らの手で討ち取り、支配者が己である事を知らしめる。
ソレが唯一、ヨルダバオトが権力を維持出来る方法であった。
主神たる姉を自らの手で討ち取り、その姉の首を天界に知らしめれば、天界は嫌でもヨルダバオトを主として認めざる得ない。
その為には直接出向き、龍兵達を殺す必要があった。
だからこそ、陽動と脱獄の二面作戦前まで用いていたセーフハウスを放棄し、また新たなセーフハウスに居る。
そんな何度目かの陣地転換をし終えた状況であるが、龍兵は安心出来ていない。
プロパテールが力を完全に取り戻した。
更にはアティルーナとザミルが居る。
そんな強大な力が揃ってる以上、居場所が知れ渡ってしまっても致し方無い。
其処まで考えると、龍兵は手元に迎え撃つ為の武器を召喚した。
召喚されたのはゲパードM6 Lynxであった。
グリップの後ろにある大きな弾倉を外し、何時だったかと同じ様にラウフォスMk211が装填されているのを確認すると、弾倉を戻してチャージングハンドルを引いた。
すると……
「ソレは悪くない選択だが、ヨルダバオトを殺せるか?って言うと、正直難しいな」
ミンが声を掛けて来た。
そんなミンに「だったら、どうすれば良いんだよ?」そんな視線を向けると、ミンは部屋に入って龍兵の向かいに座り、目の前に手にしていた大きな木製のケースを置いた。
龍兵は手にしていたゲパードM6 Lynxを床に置くと、ケースを開ける。
そして、中身を見詰めながら尋ねた。
「アホみてぇにデケェリボルバーだな。つか、バイオのレオンが使ってたあのバカデカリボルバーか?」
ケースに収められていたのは大きなマグナムリボルバーであった。
そんなマグナムリボルバーを手に取ると、龍兵はゲンナリとしてしまう。
「アホみてぇにデケェからやっぱ重いな……コレをグリップだけで保持とかしたくねぇし、反動もヤバそう。つか、肩外れそうだな」
ボロクソに言う龍兵に対し、ミンは機嫌を悪くする事なく告げる。
「ソレならヨルダバオトにダメージを与えられる。君には都合の良い品だろ?」
ヨルダバオトを殺す為の品。
ミンから告げられると、龍兵は訝しんで「本当かよ?」そうボヤいてしまう。
そんな龍兵にミンは問う。
「おや?君だって男の子だろう?そう言うデカい銃は好きじゃないのかね?」
からかい混じりに問われると、龍兵はマグナムリボルバーを弄りながら困った様子で答える。
「俺だってロマンは好きだし、ダーティハリーやロック様。ソレにラノベやアニメみたいにデカいマグナムリボルバーを操ってみたいさ」
ソレは驚く事に龍兵の本心であった。
そんな龍兵にミンは少しだけ意外そうに感じると、龍兵はゲンナリとした様子で続ける。
「でもさ、ロマンに憧れてソレしたら死ぬのがクソッタレのリアルじゃん。まぁ、しなくても死ぬ時は死ぬんだけど……」
龍兵が身も蓋も無い事実を漏らすと、ミンは呆れてしまう。
「どっちにしろ死ぬんなら、ロマンを取る方が良くないかね?」
その意見に対し、龍兵は自身に呆れる様にシニカルに答えた。
「俺もそうしたかったけどさ、俺って仮にも元軍人じゃん?だから、セオリー通り。悪い言い方をするなら、つまらない。そんな礼儀正しい銃の扱いしか出来ねぇし、ソレ以外をしたらシックリ来なくて滅茶苦茶モニョるのよ……だから、ロマンに憧れはするし、したいけど選べないんだ」
自嘲にも似たシニカルな答えを聞くと、ミンは「君も難儀だな」そう漏らした。
すると、そんなミンに対して龍兵はふと思った事をそのままぶつける様に語り掛ける。
「ラノベとかアニメ。異世界モノの奴でさ、こう言うバカデカいリボルバーを作ったりした主人公が使ってるけど……何でオートじゃないんだろうな?」
「私に聞かれても困る」
「それもそうだな」
そう返すと、そのマグナムリボルバーの特徴と言える角張った多角形のシリンダーを展開し、装填可能な弾数を確認しながら尋ねる。
「装弾数は5発か?」
「見ての通りだよ。銃身先端部分にマズルブレーキを兼ねたガスポートを空けてあるから反動も比較的和らいでる」
ミンの言葉を確認するかの如く上部に大きなベンチレーテッドリブのある長く大きな銃身の先端を龍兵は見る。
「コレってトライガンとか攻殻機動隊のトグサのマテバみたいに銃身そのものは下部にあるのか……」
「だから、跳ね上がりは君の想定よりはマシかもしれないかな」
そんなマグナムリボルバーを眺めながら龍兵は尋ねる。
「コレ、中古品か?」
「いや、文字通りの新品だよ」
その答えに龍兵はまたもゲンナリとしてしまう。
「なら、慣らししねぇとダメじゃねぇか……」
驚くかもしれないが、銃と言うのは工場から出荷したての新品が一番良い状態ではない。
最低でも500発。それだけの数を撃ち、それを以て漸く慣らし運転は完了。
そして、ソレが銃にとっての一番良い状態なのであった。
勿論、整備もキチンとする必要がある。
そんな面倒を処理しなければならない。
そうボヤく龍兵に対してミンは「君らしいな」と、何度目かの呆れと共に漏らしてから告げる。
「だから、弾とレンジを用意しておいた」
その言葉と共にミンが誘えば、龍兵はマグナムリボルバーを手に歩き出す。
少し歩いた先にある室内シューティングレンジへ来ると、ミンは告げる。
「弾と耳栓は用意したから好きなだけ撃つと良い。私は君への報酬支払いも含めた今後の準備に動かないとならないから、後は君が仕切ってくれ」
そう告げると、ミンはシューティングレンジを後にして立ち去った。
独り残された龍兵は手近なブースに赴くと、マグナムリボルバーをシリンダーが開いた状態で置いた。
それから直ぐにブースを離れ、後ろに置いてあったズシリと重い紙箱を幾つか取って戻った。
ブースの脇に下げられたヘッドホンタイプの耳栓を嵌めた龍兵は紙箱を開け、マグナムリボルバー用の大口径マグナム弾を露わにすると、1発ずつ取ってシリンダーへと詰めていく。
そうしてシリンダーへの装填を済ませた龍兵はマグナムリボルバーを両手で構えると、30メートル先に設置されたマンターゲットへ銃口を向けた。
そして、撃鉄を起こした龍兵は静かに引金を引くのであった。




