煙草を燻らせて
セーフハウスに連れてかれたプロパテールとザミルは訝しむ様に辺りを見廻していく。
自分達の護送を襲撃した兵士達は点呼を取り、欠員が無い事を確認して何処かへ行くのを見ると、戦を司る女神としてアティルーナは練度が高いと内申で評する。
そんなアティルーナを他所にザミルは人間の姿に戻り、煙草を燻らせる龍兵に問う。
「私達に真実を教えるのよね?」
問われた龍兵は少し困った様子で返した。
「あぁ、その通りだ。その通りなんだが、肝心の真実を教えてくれる奴が戻って来てない」
そう返した龍兵が煙草を燻らせると、アティルーナは睨むように見詰めて来る。
勿論、ザミルも同様に鋭い視線を向けて来る。
予定外の遅延をしてるプロパテールに対し、内心で焦りながらもポーカーフェイスを保ちながら返した。
「もう少し待ってくれ。未だ当事者が戻って来てない」
正直に答えると、2柱の女神が益々訝しんでしまう。
だが、龍兵は少し諦めた様子で言う。
「本当なら安全の為に外す気は無いんだが、信頼を得る為だ。お前等の拘束を外してやる」
そう告げると、龍兵は2人にその場に座る様に言う。
「先ずは座ってくれ。おたくらの拘束具の鍵を確認する」
その言葉と共に2人が座ると、龍兵は2人の両腕を首と共に戒める板枷に取り付けられた頑丈そうな錠前を確認し始める。
一頻り見ると、龍兵は「コレならいけそうだな」そう漏らすと、ある物を召喚した。
召喚されたのは泥棒等が鍵をこじ開ける為に用いるピッキングツールであった。
そんなピッキングツールを両手に持つと、アティルーナの拘束から外し始めた。
カチャカチャと鍵をピッキングしてると、アティルーナは問う。
「貴様の目的は何だ?」
「流石は戦争の神様。キチンと情報収取してくるな……」
そう返すと、龍兵はピッキングを続けながら答える。
「俺の目的は仕事を終わらせて帰る。コレに尽きる」
「ならば、その仕事を依頼した者は何者だ?」
「ソレは答えられないな。元が付くとは言え、俺もプロだからさ依頼人の事は明かせないんだ」
申し訳無さを一切感じさせぬ様に龍兵が答えると、カチャッと言う金属音と共に錠前が外れた。
その後、アティルーナを戒める板枷を外した龍兵はソレを脇に投げると、ザミルの拘束を解除する為に作業する。
そんな作業を続ける龍兵はアティルーナから見ても、無防備であった。
それ故にアティルーナは敢えて問う。
「私が今この場で貴様を殺そうとしたらどうするつもりだ?」
「その時は俺がバカだったと諦めて死ぬだけだ」
そう返すと共にザミルの拘束を難なく解除して解放すると、龍兵は2人と相対する様に目の前に座って煙草を燻らせる。
「さてと、俺を殺すのはもう少し待て。俺はこうして目の前に居る。逃げようとしたって俺はお前等に殺されるだけに終わる」
平然と涼しい顔で自分が約束を違えたら殺せば良い。そう告げる様に龍兵が言うと、ザミルは意外そうに言う。
「狡猾な狼らしくないわね。貴方なら、私達が敵対の意思を見せる前に殺そうとすると思ったけど?」
ザミルの言葉を龍兵が否定する事は無かった。
「正直言って、そうしたいのは山々なんだ。出来る事なら、さっさと殺したい。御宅等、敵に回ったら滅茶苦茶脅威。つうか、次戦ったら俺の負けが目に見えてるし……」
龍兵が正直に自分達を最大の脅威と見てる事にザミルは益々意外そうにしてしまう。
「あら?その割には私達を的確に出し抜いた上ばかりか、見事に逃げ切ったわよね?」
ザミルの言葉は自分も同意する点であった。
だからこそ、アティルーナはザミルと同様に龍兵の真意が読めずにいた。
そんな2人を察すると、龍兵は短くなった煙草を燻らせながら答える。
「すぅ……ふぅぅ……アレは運が良かっただけに過ぎない。偶々、上手く出来たから御宅等から逃げ果せる事が出来ただけで、同じ事をお前等にまたやれって言ったら、無理と言わざる得ない」
「ほう。随分と我等を高く買ってるみたいだな?」
アティルーナが問うと、龍兵は素直に認めた。
「そりゃ、買うさ。俺の欺瞞工作に引っ掛かりながらも、上手く対応してリカバリー。俺を見付けた後、被害を出しながらも見事に俺を殺し掛けてんだから」
其処で言葉を切ると、龍兵は思い出した様に言う。
「お前とくたばったお前の後任と比べたら、お前の方がダントツ脅威さ。勿論、お前の部下達も脅威だ」
その言葉にアティルーナが後任?の言葉に首を傾げると、ザミルは直球ストレートで問う。
「アティの後任って誰だったの?」
「ヴァエトールって奴だ」
その言葉にアティルーナは信じられないモノに向ける視線を龍兵に向け、ザミルはゲンナリとした様子で言う。
「あの無能が後任だったの?私の知る主神なら絶対にあり得ないわ」
「だから、死んだ。俺の仕掛けた罠に掛かったて……間抜けな死に様だったそうだ」
「あのクソバカ無能らしい無様な死に方ね。アイツ、アティに何度も突っかかってその度にアティに倒されてたのよ……で、オマケに無能な癖に自分は有能と思い込んでたから、アティに干されてたの」
ザミルが龍兵の知らぬ内部事情をアッサリ話すと、アティルーナは龍兵に問う。
「我等を殺さぬ理由を未だ聞いてないぞ」
核心を突く様に問えば、龍兵は答える。
「1つはお前等を利用したいから。もう1つは、俺の救出対象の意思と言うべきか?まぁ、兎に角だ。俺等の都合でお前等を助け出した。礼は要らない。俺を殺さないでくれるならソレで十分だ」
最後に厚かましい要求をすると、アティルーナは忌々しそうに睨んで来た。
ザミルはそんな龍兵を愉快そうに思いながらも、ハッキリと問う。
「狡猾な狼さん。貴方の救出対象と言うのは誰の事なの?」
核心と言っても良い問いをぶつけられると、龍兵はフィルター近くまで燃えていた煙草を床に押し付けながら答える。
「600年前の当事者にして、被害者だ」
その答えに2人は驚き、思わず息を呑んでしまう。
だが、龍兵は気にする事無く2本目の煙草を咥えて火を点しながら続ける。
「すぅ……ふぅ……ソイツがお前等に真実を語ってくれる。真実を聞いた後、お前等がどうするか?俺は強制しないし、好きにすれば良いと思ってる」
一口目を吹かした龍兵が本心から言うと、2人は思わず首を傾げてしまう。
そんな2人に龍兵は気にせず続ける。
「俺の目的はどんな形であれ、仕事を完了させる事に尽きる」
「では、主神から勇者として召喚された事に対してはどうなのだ?」
アティルーナの問いに龍兵は心底憎悪する様に答えた。
「ハッキリ言ってクソ極まりない。何が勇者だ、悲劇を演じ、ソレを観たい為に生贄を連れ込んだに過ぎねぇだろうが……ふざけんじゃねぇよ」
感情を爆発させる様に龍兵が吐き捨てれば、アティルーナは気不味い面持ちとなり、ザミルは意外そうに感じてしまう。
そんな龍兵は煙草燻らせ、紫煙と共にアティルーナに問う。
「なぁ、お前って戦争の女神なんだよな?」
「そうだ」
「なら、この戦争をどう思う?600年も続け、繰り返し続ける戦争をどう思う?」
その問いにアティルーナは珍しく言い淀んでしまう。
そんな反応を見ると、龍兵は察すると共に意外そうに感じた。
「驚いた。お前は600年の憎悪と憤怒。怨嗟が籠もったヴィンテージ物の戦争に関わってないんだな……」
意外そうにする龍兵に対し、アティルーナに代わってザミルが答える。
「アティは戦って死した戦士達を黄泉へ誘う事はしてるけど、大地の戦を直接コントロールとかそう言うのにはしてないわ。何なら、その大地の戦が止まって欲しいと願ってると言っても良いわね」
その答えを聞くと、益々意外そうに感じながらも龍兵はアティルーナを見詰める。
そんな時だ。2人の後ろから神々しい気配がした。
その気配に気付いた2人は直ぐに立ち上がり、慌てた様子で振り向いてしまう。
其処には1人の女が居た。
そんな女を見ると、アティルーナは困惑しながらも彼女を見詰め続け、ザミルは直ぐに跪いた。
普段のザミルが見せないソレを見れば、アティルーナの中で確信が形となろうとする。
すると、立ち上がった龍兵は彼女……プロパテールを見ると、この場の彼女等に向かって告げる。
「待ち人来たる。後の事は彼女から詳しく聞け。俺は雇われの部外者でしかないから、消える」
無責任丸出しにそう告げると、龍兵は煙草を燻らせながら部屋を後にした。
そんな龍兵の背を見送ったプロパテールは2人に告げる。
「600年ぶりね。アティ、ザミィ」
その呼ばれ方をしたのは2人にとって、600年ぶりであった。
其処でアティルーナは漸く跪く。
だが、プロパテールは楽にして良い。そう告げると、600年前の当事者にして被害者として当時の事を語り始めるのであった。




