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異世界ブラックオプス   作者: 幽霊@ファベーラ


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31/42

焦り


 龍兵の事を良く知り、その腕や技術。それに思考能力を信頼し、信用してるからこそ依頼したミンである。

 だが、龍兵が予定よりも早く宝珠を5つも確保。更にはヨルダバオトの処理という最終目標まで短期間で一気に近付くのは予想外であった。

 だからこそ、煙草を燻らせながら琥珀色が満たされたグラスを傾け、資料と睨み合ってる龍兵の前に座って問うた。


 「君は私の予想以上に働きを見せてる。流石に急ぎ過ぎではないか?」


 ミンの知る龍兵は臆病と言える程に慎重だ。

 そんな慎重派の龍兵が日を空けて次の作戦を仕掛けているとは言え、そのスパンは恐ろしく短い。

 更に言うならば、時には作戦実行を取り止めて実行を延期する事も辞さない。

 それなのに今の龍兵は、焦りを露わにしながら取り憑かれた様に作戦を進めている。

 ソレを疑問に思いながらシガレットケースからシガリロを出すミンに問われると、龍兵はグラスを傾けて酒を一口飲んで認めた。


 「ふぅ……そりゃ急いでるに決まってる」


 「何故だね?」


 「決まってる。こんなクソ仕事をさっさと終わらせたいからだ」


 身も蓋も無い理由であった。

 だが、龍兵にとって自らを危険に晒してでも直ぐに終わらせる方が大事だった。

 そんな理由を聞くと、ミンは尋ねる。


 「何故、そんなに急ぐ?」


 「あのなぁ、お前は忘れてるかも知れねぇけど、俺は学生。高校生だ。で、高校生だからこそ、出席日数を最低限護らないとならない」


 その答えにミンが「そんな理由なのか?」そう問うと、龍兵は「そうだよ」と、肯定して煙草を燻らせる。

 だが、龍兵が急ぐ理由には懸念もあった。


 「他にも理由はあるぞ。標的は性格の悪いバッドエンド嗜好な脚本家だ」


 「その通りだ」


 「つまりだ。お前に前金として俺が依頼したクラスの皆を再召喚して、チートガン載せした上で洗脳して、俺に差し向けて殺し合わせるとかヤりかねねぇって言う最悪の可能性だってある訳だ」


 ソレを言われると、ミンは否定出来なかった。

 そんなミンに龍兵は続ける。


 「何なら、クラスの皆じゃなくても良い。他の無関係な連中を沢山召喚して、チートガン載せした上で洗脳し、俺に差し向ける可能性だってあり得る」


 その言葉にミンが沈黙を以て話を促すと、龍兵はグラスに残った酒を飲み干してから語る。


 「確かに俺は傭兵だ。ロクデナシ極まりない人種だし、平気な顔して人を殺すのが仕事だ。それでもな、俺にだって感情はあるし、ガキを殺して喜ぶ趣味も持ち合わせて無い」


 傭兵として任務や作戦に当たる龍兵は感情を切り離し、冷徹かつ合理的に成功させる為に邁進する。

 だが、感情が無い訳じゃない。

 ただ、切り離して後回しにして合理的かつ冷徹に成功の為に動く。機械や歯車の様に。

 そんな龍兵にミンは確認する様に問う。


 「つまり、その最悪な展開や可能性をさせない為にも君は焦り、急いでる訳か?」


 「そうだ。じゃなきゃ、リスク度外視して短いスパンで作戦を続けたりしたくねぇ……まぁ、敵つうか標的に考える間を与えず、焦りを誘うってのも含まれてるがな」


 肯定と共に補足する様にもう1つの理由を告げれば、ミンは意見する。


 「君の懸念する最悪な展開は喜ばしい事に未だ起きてないし、君が生きてる限りはソレをしない筈だ」


 「その根拠は?」


 「君の手元にパティと呼ぶ彼女が居るからだ」


 そう返すと、ミンはシガリロを燻らせて龍兵のグラスに酒を注ぎながら根拠の続きを語る。


 「ヨルダバオトにとってパティ……プロパテールは最大の問題で、更に君という存在は頭の痛い厄介な存在。ヨルダバオトはソレを片付けない限り、自分の描かんとする悲劇を描けないし、考える隙すら無い」


 まるで全てを知ってるかの様にミンが語ると、龍兵は訝しんでしまう。


 「ホントかよ?神も考えるアホなら、とんでもねぇバカをヤラかしてくる。そのバカのヤラかしが勇者召喚からの俺を殺させるとかだったら、目も当てられねぇんだが?」


 「確かに君の言う可能性は捨て切れない。何なら、現実のモノとなる事だってあるかもしれないだろう……だが、彼は600年守り通して来た秘密が露見する瀬戸際にあり、ソレを護る為に君とパティの口を永遠に塞ぐ必要に駆られてる。それ故に余計な遊びは挟めないのさ」


 ヨルダバオトを見透かす様に語ると、ミンはグラスの酒を一気に飲み干し、更に言う様に問う。


 「さて、そんな君の仕事は7割近く終わってるのが私の見立てだ。残りの3割をどう解決するか?聞いても良いかな?」


 紫煙と共に問われると、龍兵は短くなった煙草を灰皿に押し付けて棄てながら答える。


 「やる事は簡単だ。前から決めてた様にアティルーナとザミルを脱獄させる。脱獄させ、セーフハウスに脱出させた後に関してはパティの出番となる」


 「ほう」


 「パティに二人の説得を頼む。確実性は薄いが、それなりの効果は望める」


 「と言うと?」


 「超が付くレベルの御都合主義よろしくアティルーナとザミルって言う最も厄介な存在が味方にする事が出来れば、政治的に正しい大義名分と強大な味方を伴った状態となる。そうなれば、ヨルダバオトは自然と孤立する」


 其処まで語ると、龍兵は2本目の煙草を咥えて火を点して紫煙を吐き出す。

 そんな龍兵に雇い主としてミンはシガリロを燻らせながらグラスに酒を注いで問う。


 「上手く行かなかったら?」


 「笑って誤魔化す。と、言いたい所だが真相を知り、目の前に本来の忠義先が居るのを踏まえるなら其処まで酷い事にはならない」


 「意外だな。君が其処まで成功する見込みがあると判断するのは……」


 本心から言うと共に酒を注いだグラスを龍兵の前に差し出すミンに対し、龍兵は話を続ける。


 「アティルーナとザミルが真相をパティ本人の口から聞いて知る。まぁ、アティルーナの事だから収監された時点で俺とザミルの言葉に信憑性は持ってると見ても良さそうだから、味方にならなくても敵に廻る心配は其処までしなくても大丈夫そう……ってのが、俺の見立てだ」


 「成る程。彼女等の性格を読んだ上での判断と言う訳か……それにしても、僅かな次官で其処まで彼女等の性格を読めるとは相変わらず君は人の心を読むのが上手いな」


 ミンが感心した様に言うと、龍兵はグラスを傾けながらさも当然の如く返す。


 「そりゃあ、汚い世界やら綺麗な世界をロクデナシとして見続けて来たからな……人の考えや心、感情が読めなかったら生命が幾つあっても足らんからね」


 「流石は特殊部隊時代に諜報機関へ出向させられてただけの事はある。君、傭兵よりスパイの方が合ってたんじゃないか?」


 ミンが感心した様に言うと、龍兵はゲンナリとしながら返す。


 「諜報の世界はマジで碌でもないし、俺の肌に合わんかった。だから、傭兵を選んだ。まぁ、スパイさせられてた時の技術や考え方はメッチャ勉強になったし、応用するのも楽しかったけどな」


 心の底からウンザリした様子でスパイとして暗部を担ってた頃を思い出しながら言うと、ミンは呆れ混じりに返す。


 「その割には大活躍だったじゃないか……この私を殺す一歩手前まで追い込んだんだし、それ以前には大物テロリストやテロ組織のスポンサーを見付け出して処理もしたろう?」


 「そりゃあ、仕事だから真面目に頑張るさ。仕事を真面目にするのは大人として当然の義務だろ?」


 「其処は異論挟みたいが、まぁ良い……それで?アティルーナとザミルが君を殺そうとしたら?パティによる説得前に」


 その問いに龍兵はサラッと答える。


 「その時は最悪殺すさ……死にたくねぇから」


 「君らしい。と、言いたい所だが直ぐに殺さないのは利用する為かな?」


 「それが大半の理由に決まってるだろ?まぁ、殺すよりも前に言葉で何とか切り抜けられる様に祈っとく……神は大嫌いだけど」


 デタラメとも言える。いい加減な答えにミンは益々呆れてしまう。


 「絶賛現在進行系で神を相手にゲリラ戦を仕掛けてる君が言うと盛大な皮肉に聞こえるな」


 「そうか?つーか、俺みたいなんでも嫌いな神に祷るぐらいはするさ……俺、日本人だし、正月に初詣とかしたりするし」


 日本人らしく言うと、ミンは「現金な性格をしてるな」と、ボヤいてしまう。

 そんなミンを他所にグラスの酒を飲むと、何時の間にか傍らに立っていたプロパテールは告げる。


 「アティとザミィは私があらゆる手を使って何とか説き伏せるから心配しなくて良い」


 そんなプロパテールに龍兵は「頼りにしてるぜ」そう返すと、更に続けて言う。


 「説き伏せるにしても、君の復讐に付き合うか?否か?は2人の意思を尊重しろ」


 「何故?」


 今まで見てきた冷徹で合理的な判断ばかりを下す龍兵が、らしくない事を言ってる様に感じたプロパテールは首を傾げてしまう。

 そんなプロパテールに龍兵は語る。


 「2人もある意味で被害者だ。君の問題のな……だからこそ、どうするか?それを決めるのは2人の意思であって、君の意思じゃない」


 その答えを聞くと、プロパテールは本心から思った事をそのまま口にしてしまう。


 「貴方の事が解らないわ」


 「奇遇だな。俺にも解らん」


 そう返した龍兵にプロパテールは提案する為に問う。


 「ねぇ、龍兵……貴方は監獄にアティとザミィを解放しに行く。その際、私の断片を得るように見せ掛ける為に何かしらの陽動をする……合ってるかしら?」


 「否定はしない。だが、その陽動行為は今までの手口から読まれてると見て良い。だから、正直に言うと迷ってる」


 今までの作戦で龍兵は必ず陽動を用いて来た。

 敵の指揮官がソレを学んでるならば、最初に起こる攻撃は陽動と判断される。

 そして、其処から狙いが読まれる。

 龍兵はそう考えていた。

 そんな龍兵にプロパテールは提案する様に問う。


 「なら、私が陽動するなら?」


 「その場合、ヨルダバオトは大慌て。君を全力を以て必ず殺せって命じるか、確保させるかの何れか……で、君に全意識が向くな」


 龍兵の考察を聞くと、プロパテールは都合が良い。そう言わんばかりに告げる。


 「なら、私が陽動として暴れる。で、貴方風に言うなら、ヨルに喧嘩を売ってくる……そうすれば、貴方は悠々と2人を助け出せるでしょ?」


 告げられた言葉に龍兵は驚きを見せると、真面目な面持ちと共に問う。


 「正気か?」


 「勿論、正気。それにヨルには一言怒鳴ってやらないと気が済まないの……だから、お願い。私に陽動をさせて」


 プロパテールが頭を下げて頼み込むと、龍兵は「頭を下げんで良いから」そう返して呑んだ。


 「良いだろう。だが、俺は援護出来ないからヤバいと判断したら何も考えずにさっさと逃げろ……それが最低条件。嫌なら、君の陽動行為を認めない」


 条件と言う名目で無理はするな。

 そう告げれば、プロパテールは呑んだ。


 「約束する」


 「なら、決まりだ。ミン……異論はあるか?」


 他人事の様にシガリロを燻らせるミンに確認を取れば、直ぐに許可が降りた。


 「君達のやり方に文句は言わない。勿論、パティの脱出も私の方で支援する」


 「なら、決まりだな……」


 そう言う事になった。




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