罪深き我を赦し給え
龍兵が塩対応で時間稼ぎをし、敢えて敵に釘付けとされてる頃。
先に進んでいたプロパテールは亡霊達に導かれ、ファルサルの中枢に辿り着いていた。
目の前に広がるファルサルと言う街は静寂に満ち、更には廃墟と化した建物や家屋が多数残る死の街であった。
そんな死の街を目の当たりにして呆然と立ち尽くしながらも、プロパテールは鉛の様に重くなった足を静かに踏み出す。
死の街を歩むプロパテールは否定したい現実に押し潰されそうになる。
だが、プロパテールは堪えて歩みを進めた。
歩みを進めて行くプロパテールの中で、あの時の平和で活気に満ち溢れた素晴らしき日々が思い出される。
私が知ってたファルサルは栄えていた。
私が加護を与えたからじゃない。
人々は自分たちの意志で繁栄を築き、人魔の垣根を越えて手を取り合ってた。
「何で?どうして!?どうしてなの!?」
プロパテールはその場に崩れ落ち、泣き叫んでしまう。
この死の街は自分の罪なのか?
そうも感じてしまう。
だからこそ、プロパテールは感情を爆発させて泣き叫び、その場に蹲って啜り泣いてしまった。
すると、そんなプロパテールの元へ1人の亡霊がやって来る。
その亡霊はプロパテールの前に立つと、語り掛ける。
「パティ」
「え?」
涙の浮かぶ泣きじゃくった顔を上げ、その亡霊を見る。
目の前に立つ亡霊は若いながらも芯のある美女であった。
そんな彼女をプロパテールは知っていた。
「ハナ?」
ハナ。
そう呼ばれた亡霊が手を差し伸べると、プロパテールはその手を取って立ち上がる。
そして、ハナと呼ばれた亡霊たる彼女は告げる。
「貴女の捜してる物はあの人……エノアが護ってる。来て」
その言葉。
否、エノアという名前が出ると、プロパテールは何と答えるべきか?悩み、口を閉ざしてしまう。
だが、ハナは気にする事無くくすりと笑って告げる。
「貴女がエノアと一夜を共にした件。私は赦してるわよ?あの人は私の事を一番愛してくれてるのを知ってるから」
そう。ハナはエノアと呼ぶ彼の妻。
そして、エノアという男こそ龍兵の言葉を借りるならば、プロパテールが一発ヤッた相手であった。
そんな言葉にプロパテールが当時の事を思い出して恥ずかしさに赤面すると、ハナはクスクス笑って言う。
「貴女、神様なのに人間味あるのね。来て……あの人が待ってる」
その言葉と共にハナがプロパテールを誘う。
すると、プロパテールは覚悟を決めてハナに尋ねた。
「此処で何が起きたの?」
「そうね。一言で言うなら、神に滅ぼされた」
ハナからアッケラカンに言われると、プロパテールは言葉を失ってしまう。
だが、ハナは気にしない。
「でも、貴女の仕業じゃないのは私もあの人も気付いてた。で、ファルサルは地に埋もれ、今に至る」
サバサバとした様子で話すハナにプロパテールは問う。
「私を怨んでないの?」
「そりゃあ、アンタのせいかもしれない事に関しては当然怨んでる。でも、貴女が直接滅ぼした訳じゃないんでしょ?」
その言葉にプロパテールは何と答えるべきか?解らなかった。
だからなのか、ハナは助け舟を出す様に告げる。
「貴女は気負い過ぎなのよ。それにこうして、また会えたんだから再会を喜んだらどう?」
「え?」
プロパテールはハナが寛大な心を魅せる事に困惑してしまう。
しかし、ハナは気にする事無く話を続ける。
「この街が滅びて暫くした後。貴方の姿を模してる誰かを見た。ソイツは貴女を祀る神殿に何かを置き、あの人はソレを貴女に纏わる品と判断して護る事を選んだ」
「何故?」
「決まってるじゃない。貴女の口から真相を知る為よ」
そう告げられると、プロパテールは押し黙ってしまう。
しかし、ハナが此処で追及する事は無かった。
その後。二人の間に沈黙が訪れる。
聞こえるのは地を食むプロパテールの小さな足音だけ。
そんな沈黙が暫く続く。
沈黙の歩みの間、プロパテールは周りを見廻し続け、自分の知るファルサルはもうこの世には存在しない事を改めて思い知らされてしまう。
そんな中。ハナは立ち止まり、プロパテールに告げる。
「着いたわよ」
「此処は?」
「忘れたの?貴女を祀る神殿を……酷い神様ね」
茶化す様に責められてしまう。
神殿だけは原型を留めて残っている。そんな皮肉にプロパテールは何と言うべきか?解らなかった。
そんなプロパテールにハナは案内人として、プロパテールを連れて神殿へ足を踏み入れる。
神殿内では王に仕える兵達の亡霊が一糸乱れぬ整列をし、最敬礼と共にプロパテールを迎え入れた。
そんな様子にプロパテールは申し訳無さを感じながら恐る恐る歩みを進め、神殿奥に鎮座する自分を模した女神像の前まで進んだ。
そして、女神像の足下に佇む威厳のある男に気付くと、プロパテールは胸を締め付けられる想いとなってしまう。
だが、そんなプロパテールを気にする事無く、佇む威厳のある男。
ファルサルを統治する王にして、ハナの善き夫たるエノアこと、エンノイアは優しく語り掛けてきた。
「久しぶりだね、パティ」
そんな優しさを魅せたからこそ、プロパテールはまたも泣きそうになってしまう。
「私のせいでファルサルが、貴方が……」
泣くのを堪えながら言うと、エンノイアは気にする事無く返す。
「生あるものは何れ死ぬ。それに物事は永久不変じゃない。どんな形であれ、水が川を流れる様に物事は流転し続ける」
エンノイアが当然の様に言えば、プロパテールは感情を爆発させてしまう。
「何で?何で貴方は私を責めないの!?私のせいでファルサルは、ハナは、貴方やファルサルの人々は滅びたのよ!?ねぇ!?何で!!?」
「確かに責めるべきなんだろう。でも、君が直接滅ぼした訳じゃない事は君の姿をした何者かを見て気付いた。それに私は罪の無い者へ怨みを抱え続けられる程、執念深くない」
その言葉にまたもプロパテールは困惑してしまう。
「私を赦してるの?」
「半分はね。残り半分は君のせいだと言うなら、怨んでる」
その言葉に妻であるハナは呆れてしまう。
「ホント、こんな変人が王をしてるなんて信じられないわよね」
「俺だって王になっちゃった事は信じられてないさ……さて、時間が無いんだろう?それに君はコレを得る為に来た。違うかい?」
自身も自分が王である事に呆れるエンノイアであったが、本題を忘れていない。
「君にコレを渡す前に王として、友として問いたい。あの時、何があったんだ?」
エンノイアが王として、友として問えば、プロパテールは正直に答える。
「正直、私にも詳しい事は解らない。もしかしたら、思い出したくなくて解らないのかもしれない」
「ならば、我等をファルサルを滅ぼした元凶と君の姿を模した何者かは同じものか?」
「恐らく。そして、ソレは私の弟ヨル……ヨルダバオトよ」
自分を。自分が収める国を臣民を滅ぼした首謀者の名を聞くと、エンノイアとハナは驚かなかった。
だが、プロパテールに彼がした事は告げる。
「あの日、人々は熱病に浮かされた様に殺し合いを始めた。その顔には憎悪と憤怒が満ちていた」
「皆が狂った様に殺し合ってたわ。で、この人はソレを鎮圧する為に兵を差し向けた」
その言葉にプロパテールは黙したまま耳を傾けると、エンノイアは語る。
「鎮圧を命じた後。空から炎の雨が振り注ぎ、人々と建物は焼かれ、その炎が止んだ後には大雨が振り注いだ。無数の雷と共に」
エンノイアが語ると、ソレを締め括る様にハナが続きを語った。
「そして、皆が死に絶えた後。大地が大きく揺れたと共にファルサルは地面の奥深くへと飲み込まれ、今になるわ」
ファルサルがどう滅びたのか?被害者の口から語られると、プロパテールは何も言えなかった。
そんなプロパテールにエンノイアは鎮座する宝珠を取ると、静かに差し出す。
「コレは君の物なんだろう?ならば、君に返すのが通りだ」
「何故、其処までしてくれるの?私のせいだと解ってるのに?」
「憎しむのは簡単さ。でも、赦すのは難しい」
エンノイアの言葉にプロパテールは龍兵が言った事を思い出す。
「コレが人の持つ善性?」
「そんな大した事じゃない。私がそうしたいから、そうしてる。それだけの事さ」
さも当然の様に答えたエンノイアにプロパテールは龍兵の語った人の持つ善良性はこういう事なのか?そう感じると、同時に覚悟も決まった。
「私は決めた。ヨルを、ヨルダバオトを討つ。そして、この大地に溢れる憎悪と憤怒、怨嗟の連鎖を断ち切る」
決意を込めて言うと、エンノイアとハナは蜃気楼の様に消えていく。
そんなエンノイアに手を伸ばそうとすると、エンノイアは手を取る事無く別れの言葉を告げる。
「君の道行きに幸がある事を友として祷るよ」
その言葉と共にエンノイアとハナは消えた。
何時の間にか宝珠を手にしていたプロパテールは泣きそうになるのを堪えると、自分の為に戦い続ける龍兵の元へと駆け出す。
そんな龍兵はプロパテールがキッチリ役目を果たした事を未だ知らない。
だが、それでも気にする事無くMk19による制圧射撃を続けて封鎖を継続させていく。
「そりゃ、そうだよな……俺が攻撃を続けてるイコール、俺の位置が釘付けになる様にするよなぁ……」
3点射を断続的に繰り返し、砲声を延々と響かせる龍兵は独りごちると、思考を纏める為に敢えて考えを口に出していく。
「この場合の敵の取る戦法は被害出す覚悟を決めて波状攻撃。または、俺を出し抜いて奇襲を掛ける……コレに尽きる」
そう漏らすと、Mk19が砲口から硝煙を立ち昇らせて沈黙した。弾切れだ。
足下にある大きく重い弾薬箱を持ち上げ、目の前に置いた龍兵はMk19のフィードカバーを開け、リロード作業を進めていく。
だが、そんな大きな隙があるにも関わらず敵は何故か攻撃して来ないばかりか、姿を一向に見せようともしない。
そんな敵の様子を窺いながらリロードを済ませると、龍兵は断続的な3点射を再開しながら考える。
「敵は恐らく、殺傷範囲から離れた安全な所に居る。多分、否、リロード最中に俺が未だ残ってる事も確認済みと見て良い。そうなると、敵が撃つ手は奇襲……遣り方はアティルーナと同じか?」
そう考えると、龍兵は先手を打つ為に射撃を辞めた。
それから直ぐに急いで階段を駆け下りて放置していた点火器を拾うと、点火器のピンに繋がるリングを引いて導火線に点火。
そして、全力で階段を駆け下りると、またも全力で駆け抜けて急いで出来るだけ離れようとする。
そんな龍兵の攻撃が止んだ事に先遣隊として来ていた天使達は直ぐに気付く。龍兵が逃げ出した事も含めて。
すると、やってきたばかりのヴァエトールが声を荒げて彼等を責めた。
「何をしてる!!さっさと行かんか!!」
その責める怒鳴り声に対し、ヴァエトールの補佐として傍らに控えていた歴戦の猛者たる古株の彼は言い放つ。
「ならば、ヴァエトール殿が我等の手本として、我等を率いる将として先陣をお切り下され。アティルーナ様はそうします」
アティルーナを引き合いに出されると、ヴァエトールは不快に感じながらも応じた。
「良かろう。ならば、俺に続け!!」
その言葉と共にヴァエトールが駆け出すと、戦天使達も突撃の為に駆け出す。
先行するヴァエトール達の後に続く戦天使達の先頭は古株の彼であった。
彼は部下達を連れてヴァエトールより僅かに遅れて続いて行く。
そうして、ヴァエトールが階段へ足を踏み入れて進んだ瞬間。
壁が崩れ落ち、階段内から耳を劈く騒音が響いた。
「ヴァエトール殿!!?」
古株の彼が心配そうな様子で階段を見に行くと、階段は瓦礫に埋もれていた。
そんな瓦礫からヴァエトールの左手だけが飛び出ていたが、ヴァエトールはピクリとも動かない。
古株の彼がその左手を掴む。
だが、左手から先は無かった。
そんな左手を掴むと、古株の彼は当然の様に部下達へ告げる。
「不幸にもヴァエトール殿は討ち死になされた!以後の指揮は私が代行する!!異論があるものは申し出でよ!!」
その宣言に異論を挟む者は無い。寧ろ、良くやったとすら思う者達も居る。
そんな部下達に対し、古株の彼は指揮官として命じる。
「下の階層と繋がる床を探せ!!床と下の天井をブチ抜き、下の階層へ突入する!急げ!!グズグズするな!!」
歴戦の猛者として、アティルーナの代役として彼が命じれば士気の戻った彼、彼女等はキビキビと動き出す。
そんな彼に同僚の彼女は良くやったと言うように親指を上げてサムズアップすると、彼はソレを見なかった事にしながら心中でボヤくのであった。
上官殺しを褒められるってのは気分良いもんじゃねぇな……
例え、無能極まりないクソであってもな。




