精鋭の矜持
「ヴァエトール様!意見を具申してもよろしいでしょうか?」
その戦天使は永い年月をアティルーナに仕える事に捧げ、アティルーナが戦の神に成り立ての頃からの古株と言える歴戦の猛者であった。
彼が許しを乞いながらも黙って聞け。
そう言わんばかりにの彼にヴァエトールは苛立ちと忌々しさを見せながらも、許しを与える。
「何だ?」
「今すぐに残る全ての宝珠へ部隊を急行させるべきです」
「何だと?」
自分の判断に不服なのか?そう言わんばかりにヴァエトールが問うと、歴戦の猛者たる彼は臆する事無く続ける。
「前回、奴は同じ方法でアティルーナ様と我々を出し抜きました。恐らくでありますが、今回も同じ様に我々を出し抜いて残る宝珠の何れかへと歩を進めている可能性が高いと思われます」
歴戦の猛者たる彼の言葉は丁寧であったが、ヴァエトールの無能な采配に対する苛立ちや怒りが込められていた。
そんな歴戦の猛者に対し、更に強く苛立ちと忌々しさを感じながらもヴァエトールは命じる。
「続けろ」
「ですので、我等も前回と同様に残る全ての宝珠の在り処へ直ぐに急行し、アオキリュウヘイの発見を急ぐべきと思われます」
彼に限らず、ソレはアティルーナの部下として永い年月を戦い抜いて来た歴戦の猛者たる精鋭達の総意でもあった。
だが、それが気に入らないが故にヴァエトールは否定的に返す。
「それで居なかったらどうする?」
「それを確認する為にも必要と愚考致します。そして、居なかった場合は宝珠の無事を確認し、必要ならば我等の手で回収すれば主神の怒りを買う事にならないと思います」
丁寧ながらも言葉の中に「その程度の事も解らないのか?無能」そんな怒りがあった。
それが解るからこそ、ヴァエトールは怒りに震えてしまう。
だが、言われてる事は全て正論。
特に此処で失敗すれば、自分を取り立ててくれた主神の怒りを買ってしまう。
ソレが理解出来てしまうが故に、怒り任せに怒鳴りたいのを堪えながら渋々と命じた。
「全ての隊を各宝珠の元へ急行させろ。見付けたら直ぐに報告……私が奴を仕留める」
「了解。直ぐに取り掛かります」
その言葉と共に背を向け、歩み出した彼に他の同僚が歩み寄って小声で尋ねる。
「何で意見具申したのよ?あのクソバカ無能が失脚してくれたら、アティルーナ様が戻ってくるかもしれないのに……」
その同僚たる彼女も彼と同様に歴戦の猛者であった。
だからこそ、クソバカ無能……ヴァエトールが失脚して、アティルーナが戻って来る事を願っている。
そんな永い付き合いのある彼女に対し、彼は小声ながらも不愉快そうに返す。
「俺達は仮にも主神に仕える兵だ。ならば、主神の求めに応じる為に成功させる必要がある。それに……」
「それに?」
「俺達は永い年月を戦い抜いたアティルーナ様に認められた精鋭だぞ?あんなクソバカ無能が居ても、俺達は精鋭だってアティルーナ様にも示したい」
その言葉が建前であるのを、永い付き合いから察した彼女は悪戯っぽい笑みと共に問う。
「本音は?」
「アティルーナ様が監獄へ送られた原因である厄介なクソ野郎……アオキリュウヘイをとっ捕まえ、アティルーナ様達の冤罪を晴らしたい」
彼が正直に本心と言える本音を答えると、彼女は乗った。
「そういう事なら私や他の皆も全力を尽くすし、生命を投げ出す事も辞さないわ」
「それで良い。一先ずだが、全箇所に兵を差し向ける事に関しては、各箇所に10名を先遣隊と斥候として派遣しろ。前回と同じ様に奴が動くなら、奴は俺達が来るのを警戒して罠を仕掛けてる筈だ」
「了解。送る連中に徹底させる」
「で、罠を見付けたら直ぐに報告。其処に居るものとして考え、本格的に追い込んで狩るぞ」
古参たる彼の言葉を彼女が反対する事は無かった。
彼女自身も彼と同様に尊敬し、敬愛するアティルーナと言う自分と仲間達が認めた主の冤罪を晴らし、更には前回の敗北で喪った仲間達の仇を討ちたいと思っていた。
だからこそ、アティルーナが収監された後ずっと前回の戦闘を徹底的に洗い直し、改善点や龍兵の手口を学んで来た。
そんな彼女が兵を派遣する為に駆け出すと、彼は空を見上げて誓う。
アティルーナ様。
我等は貴女様に仕える兵。
だからこそ、貴女が不在であっても任務を成功させてみせます。
そんな彼は監獄に収監されたアティルーナを救い、名誉を回復させる。
その一念の為に彼は無能なる後任……ヴァエトールを他所に動き出すのであった。
ヴァエトールを説き伏せ、自分達の遅れを取り戻さんとするアティルーナの部下達がリカバリーを図り始めた頃。
龍兵はプロパテールと共に目の前に広がる光景に固まっていた。
「マジか……でも、ファンタジーだもんな居てもおかしくないか」
固まりながらも、目の前に広がる彼、彼女等と言える亡霊達に納得する龍兵を他所にプロパテールは悲痛な面持ちを浮かべていた。
そんな龍兵とプロパテールに亡霊達は黙して語らず、只々見詰めて来るだけ。
すると、沈痛な面持ちを浮かべていたプロパテールはその場に跪いて赦しを乞うかの様に頭を垂れ、語り掛ける。
「私は私の過ち。その過ちで起きた事をこの目で確かめる為に此処へ来ました。どうか、私と彼の通過を認めて戴きたい」
懇願にも似た乞いに人と魔族。男と女。
それに子供や老人達で構成された亡霊達は何も言わない。
だが、亡霊達は黙したまま脇に下がり、道を開けてくれた。
そんな様子に「モーゼの十戒みたいだな」と、暢気に漏らす龍兵を他所にプロパテールは立ち上がり、歩き出す。
龍兵がその後を追おうとした時。スマートフォンの振動が静寂を破った。
「こんな時に何だ?」そう漏らしながらスマートフォンを手に取り、画面を確認すると、ミンからのメッセージがあった。
「アティルーナの部下達がリカバリーに働いた。か……パティ、此処から先は君独りで良いか?」
「何があったんですか?」
「敵が俺達の動きに気付いて此処に来る。だから、俺は迎え撃つ」
状況とコレからする事を答えると、プロパテールは覚悟を決めた様子で応じる。
「解りました。私は独りで向き合います」
その言葉と共にプロパテールが亡霊達の作った道を歩み出す。
龍兵はソレを見送ると、プロパテールに背を向けて駆け出した。
来た道を駆け抜けて戻り、階段を登った龍兵はフラッシュライトを消すと、暗視ゴーグルを嵌める。
この階段を即席の塹壕にする。
一応、このフロアにも警報は仕掛けてたから来たら直ぐに解る。
「なら、やる事は2つだな」
龍兵はシュッとフレアを焚いて部屋の中を照らすと、迎撃と封鎖の支度を始める。
今居る階段の両脇にある壁と階段の壁量側面をドリルで穿孔していく。
そうして時間を掛けながらも確実に早く穿孔すると、今度はTNT爆薬と導爆線のリール。それに導火線のリールと信管が10本詰まった木箱を召喚し、爆破の為の作業を進める。
両手を地面に押し当てると、穿孔した全ての穴に導爆線をセットしたTNT爆薬を詰め込み、粘土でTNT爆薬を埋め込んだ孔を塞いだ。
粘土から飛び出す導爆線をリールから伸ばした導爆線で縛着と言う形で繋ぎ合わせ終えると、専用のベンチを用いて信管を導火線にセット。
導火線と繋がる信管を導火線に繋げ、固定する為にダクトテープで完全に縛着。
そして、最後に点火器と導火線を繋ぎ合わせて階段の途中に置けば、作業は完了だ。
「ふぅ……コレで時間は稼げる。後は、迎撃準備か……」
自分に言い聞かせる様に独り言ちた龍兵は考える。
アティルーナみたいなのが来たら直ぐに逃げる。勝ち目無いから……
なので、前回と同じ様に榴弾で飽和攻撃して抑え込む。
天井ブチ抜きブリーチングからのダイナミックエントリーされても、直ぐに逃げて階段を爆破して封鎖。
「ソレが無難だな」
結論に対する評価を漏らすと、龍兵は即席の塹壕とした階段の目の前に迎え撃つ為に使う兵器を召喚する。
目の前に現れたのは、M3三脚にセットされたMk19グレネードランチャーであった。
そんなMk19にベルトリンクで連なるM430と呼ばれる多目的榴弾をセットして大きなチャージングハンドルを両手で引いてガシャンと鳴らし、発射準備は完了。
予備の弾が詰まった弾薬箱を足元に複数置いて迎撃準備を完了させると、龍兵は静かに闇の中で息を潜めて待つ。
そんな龍兵を捜索する先遣隊たる斥候達は2階層目に来た所であった。
彼等は用心深く慎重に歩みを進め、龍兵の仕掛けた警報たるクレイモア地雷を見付けると、直ぐに声を挙げて報告と共有する。
「奴の仕掛けた罠です!天井にあります!」
「直ぐに報告!アオキリュウヘイはファルサルに居る!と」
先遣隊の長が命じれば、後方に居た天使が伝令として来た道を急いで駆け出していく。
そんな天使を見送ると、長たる天使は罠を見付けた部下に尋ねる。
「その罠を解除出来るか?」
「初めて見る物なので何とも言えません。ですが……」
「何だ?」
「この細い釣り糸の様な線を切らなければ罠は発動しないと思います」
「ならば、線に引っ掛からない様に踏み越えて進め。1人は残って後続に報告すると共に注意喚起せよ」
「了解!」
部下達が返事すれば、先遣隊は龍兵を追う為に前進。
先遣隊は龍兵の仕掛けた罠を見付け、回避しながら進み続ける。
そうして2階層目を欠員出す事無く踏破し、3階層目に到達した後も龍兵が足元に仕掛けたクレイモアを看破し、一人残して先へ進む。
そして、4階層目も今まで同様に仕掛けられたクレイモアを回避して、また一人残して先へ先へと進んでいく。
そんな彼等が次の階層へ進む階段のある部屋へ向かおうと進んだ矢先、3発の40ミリ多目的榴弾が飛んで来た。
彼等は直ぐに自分達の持つ力を最大限に発揮して障壁を作り、盾を構える。
そうやって3発の40ミリ多目的榴弾の猛威を防げば、彼等は直ぐにその通路から下がった。
「アオキリュウヘイを確認!!直ぐにヴァエトールのクソに報告しろ!!俺達は此処に待機し、奴の居場所を確認し続けると共に釘付けにするぞ!!」
「わかりました!直ぐに報告へ行きます!!」
アティルーナ達の部下であった戦天使達はアティルーナと言う主が居なくても、精鋭として手腕を発揮していく。
そんな動きに対し、龍兵は前回と同様に3点射を断続的に続けながらも賞賛する。
アンタ等、マジでスゲェな……
俺から見ても、アンタ等は最高の精鋭。トップレベルと言っても良い。
アティルーナって言う指揮官も優秀なら、部下達も精鋭って……前回、勝てたのがガチ目に奇跡だな。
本心から今来てるアティルーナの部下達を賞賛し、同時に恐れを覚えた龍兵であったが、退く事は無かった。
ただ、静かに淡々と40ミリ多目的榴弾を断続的に撃ち込み、飽和火力で以て通路を封鎖する事に集中する。
自分が此処で食い止め続ける事で、プロパテールの成功する確率が増すことを理解してるが故に……




