ドロー
「まぁ、戦争の神様だもんな……俺が一番されたくない事をしてくるのは当たり前だよなぁ……」
誰に言うでも無く、納得した様に漏らした龍兵は腰溜めにBREN2を構えたまま矛先を向けるアティルーナと、興味深そうに己を見詰めるザミルの2人を一瞥。
それから、何処か諦めを浮かべた様子で左手を静かにBREN2から離しながら尋ねる。
「あぁ、悪いけど煙草吸って良いか?多分、コレが生きてる内に最後の一服になるかもしれねぇし……」
本心から尋ねると、アティルーナは何も言わない。
だが、ザミルは「余裕なのね」そう関心する。
そんな2人を気にする事無く煙草を咥えると、火を点した龍兵は美味そうにしながら紫煙と共に切り出す。
「すぅぅ……ふぅぅ……実に見事だった」
その言葉は眼の前に立つアティルーナに向けられたもの。
だが、アティルーナは油断を見せる事無く沈黙だけを返すを
しかし、耳は龍兵の言葉をしっかりと捉えていた。
そんなアティルーナに向け、龍兵は煙草を燻らせながら言葉を続ける。
「俺は入念に手順を踏み、ファルサルに忍び込む様に見せ掛けた。だが、アンタは直ぐに気付いた。恐らく……否、其処に居る追跡者が俺の痕跡を見逃す事無く辿り、ソレを報告した段階で気付けた。違うか?」
その問いにアティルーナは答えない。
だが、ザミルは違った。
「凄いわ、彼……私達の動きを見てたかの様に読んでる」
目の前で初めて見る紙巻き煙草を燻らせ、余裕と共に語る龍兵の言葉に驚くと共に賞賛をしたくなったザミルは好奇心を露わに尋ねる。
「私も良いかしら?」
「どうぞ……」
「貴方が私。と、言うよりアティを撹乱する為にファルサルへ向けて健脚を発揮した。でも、健脚を発揮した起点……始めの一歩を踏む直前、貴方は何処に居たの?」
そう、ザミルは気になっていた。
龍兵が約8キロの距離を歩く前の事を。
そんな問いに龍兵が答えないでいると、ザミルは言い当てる。
「あの初めて見る布の塊や金属の塊や初めての手触りをした空気の出る面覆い……アレ等を用いて、貴方は空から大地に忍び込んだ。違うかしら?」
ザミルが少ない要素から言い当てると、龍兵はアッサリ認めた。
「無駄な努力だったがな……」
「凄いわ!人間が魔法も無いのに空を飛び、平然と大地に降り立つなんて……ねぇ、貴方の世界の事を聞かせてくれない?」
ザミルが子供の様に好奇心に満ちた様子で詰め寄ろうとすると、アティルーナは手を広げて制止する。
そんなアティルーナはザミルが不満そうに止まると、言葉を切り出す。
「貴様の撹乱と欺瞞は見事だった。実に見事な采配だった」
アティルーナの口から飛び出したのは、驚く事に本心からの賞賛であった。
そんな賞賛に龍兵が煙草を燻らせながら静かに耳を傾けると、アティルーナは言葉を続ける。
「最初の陽動とも言える門の反応。それを以て空の警戒を緩め、空から大地へ目掛けて突っ込んで降り立ち、徒歩で闇の中を進む。そうして、私が発見した残置物を起点にして追跡者を差し向ける事を読み、貴様は悠々と此処へ来た」
其処で言葉を止めると、アティルーナは珍しく自嘲する様に言う。
「私は見事に裏をかかれた訳だ。実に不甲斐無いな……」
その言葉に対し、龍兵は心の底から呆れながら本心を返す。
「不甲斐無い無能な奴なら、俺の欺瞞と陽動に気付けねぇ……つーか、こうして俺の前に立ってる時点でバチクソ有能じゃねぇか」
そんな龍兵の言葉に茶々を入れる様にザミルは口を挟む。
「アティは理想が高いのよ。ほら、優秀な人間ほどもっと出来る。やれる……って強欲に考えるのと同じみたいね」
「あぁ、成る程」
ザミルの言葉に龍兵は納得する。
そんな3人の会話は朗らかに思えるだろう。
だが、実際は3人が3人とも互いの隙を窺い続け、何時でも殺し合える。
そんな一触即発とも言える緊迫した空気に満ちていた。
暢気に煙草を燻らせながらも、龍兵の右手はBREN2のグリップを握り締め続け、引金には人差し指が掛かってるのが良い証拠と言えるだろう。
そんな中で龍兵は心理的なダメージ。または迷いを与える為、敢えて切り出す。
「なぁ……アンタ等は俺が邪神を復活させる。そう思ってるんだよな?」
その問いに対し、アティルーナは切り捨てた。
「つまらん戯言は辞めろ。貴様の時間稼ぎに何時までも付き合う気は無い」
「何だ、バレてたか」
自分が会話を始め、ソレを広げて続ける意図を見破られた龍兵はアッサリと認める。
だが、もう一つの狙いがある故に龍兵は敢えて平然と言葉を続ける。
「アンタ等の仕える主神は本物か?実は俺が復活をさせようとしてる奴が本物のプロパテールで、アンタ等の仕える主神はヨルダバオトだったりしないか?」
その言葉にアティルーナは「戯言を」と、苛立ちを露わにする。
だが、ザミルは違った。
今までの様な楽しげな雰囲気が一転。真剣な面持ちとなると、ソレを見逃さなかった龍兵は其処が限界点。
そう判断するや、躊躇いなくセレクターがフルオートに合わされているBREN2でアティルーナに5.56ミリNATO弾のシャワーを浴びせる。
アティルーナが大きな盾と全身を鎧う甲冑で防ぐと、龍兵は弾の切れたBREN2を即放棄。更にはバックパックの無い身軽な背を向け、脱兎の如く駆け出さんとする。
そんな龍兵に対し、ザミルは何故か矢を射ようとはしない。
だが、龍兵は気にする事無く何時の間にか手にしていたM67破片手榴弾のピンを抜き、ソレを後ろ投げていた。
数秒後。爆発が起き、部屋に粉塵が立ちこめる。
「やはり逃げたか。追うぞ」
「えぇ……」
ザミルは少し戸惑った様子で龍兵を追うアティルーナに同行する。
そんなザミルにアティルーナは理由を聞こうとしない。
今の優先事項は蒼木龍兵と言う、自分が今までに見てきた中で最も厄介で、脅威と言える敵をこの場で殺す事なのだから当然と言えた。
すると、正面から銃声が響いた。
無数の5.56ミリNATO弾に対し、アティルーナは盾と鎧兜で防ぎ、ザミルの盾としても立ち回る。
そんなアティルーナに対し、龍兵は自分の銃撃が意味を成さない。ソレを嫌という程に理解させられても、撃つのを辞めずに手にしていたFN MINIMIで制圧射撃を続ける。
そうして防ぎながらもジリジリと歩みを進め続けるアティルーナに対し、龍兵は弾が未だ100発近く残るFN MINIMIをその場に投棄すると、M67破片手榴弾を手に取ってピンを抜いて投げつけて駆け出す。
背後で爆発音が響く。だが、手榴弾の無数の破片と衝撃波にモノともする事無くアティルーナは追跡を継続して来る。
畜生!
銃弾と手榴弾が全然意味ねぇ!
選択肢が奪われる。
だが、選択肢は無い訳ではない。
だったら、コイツならどうだ?
龍兵はコイツと呼ぶソレ……パンツァーファウスト3 IT600を召喚するや、直ぐに振り向いて構え、即座に安全装置を解除して引金を引いた。
耳を劈く爆音と共に110ミリの対戦車榴弾がプローブが伸ばされてない状態で放たれると、アティルーナは地面を蹴って一足飛びに接近し、振り上げていたハルバードを叩きつけた。
110ミリ榴弾が地面に叩きつけられ、跳ねてしまう。
だが、爆発は何故かしない。
そんな状況に龍兵は不味い。そう判断した矢先、瞬時に距離を詰めていたアティルーナはその槍の矛先を龍兵の心臓目掛けて突き出していた。
心臓を貫かれる寸前。後ろへ跳んでいた龍兵は槍の穂先にプレートキャリア内のレベルⅣの防弾プレートが砕ける感触と共に激痛を味わいながら後ろへ飛ばされてしまう。
そうして10メートル近くも飛ばされると、地面に落ちた龍兵はゴロゴロと後ろに転がる。
そんな龍兵に対し、アティルーナは手応えが軽かった事から仕損じた事を察すると、直ぐに飛ぶようにして駆け出す。
そうして、よろよろとしながらも立ち上がり、ゲロを吐いてふらつく龍兵の前に立てば、アティルーナはハッキリ告げる。
「貴様の負けだ。私は貴様を逃がさんし、貴様と戦っても負ける気は無い」
当然の様に事実を告げられても龍兵は平然とした様子でゲロを吐いたばかりの口元を拭うと、不適な笑みと共に返す。
「俺の負け?俺は未だこうして立ってるし、未だ生きてるぜ?」
「本当ならば、敬意を込めて殺してやりたい所だが、貴様には聞きたい事が山程あるのでな……今、投降するなら手厚くもてなしても良い」
本心から敬意を以て手厚くもてなす。
そう言われると、龍兵は吐き捨てる。
「手厚くもてなす?拷問するの間違いだろ?」
「必要ならソレも辞さんのは認めよう」
アティルーナが正直に認めると、龍兵は激痛に歳悩まされながらも拒絶する。
「なら、投降は無しだわ」
「そうか……なら、私は貴様を殴り倒して捕獲する事にしよう」
その言葉と共にアティルーナが愛槍であるハルバードを脇に突き立てると、龍兵はコンバットナイフを抜いて構え、語り掛ける。
「なら、さっきの話の続きといこう……結論から言うと、アンタが仕えてる主神は偽者だ」
「私の動揺を誘ってるなら無駄な戯言だ」
「そうか?なら、アンタと一緒に居る奴は何で、ヘラヘラしてたのを突然辞めた?その上、奴は俺を殺れるタイミングがあったのに殺らなかった?」
事実を突きつける様に並べ立てる龍兵に対し、アティルーナは少し反応すると、龍兵は心の中で「食い付いた!」そう漏らしながら言葉を続ける。
「ヨルダバオトって言うバカ野郎が何時、謀反起こしたのか?俺は知らねぇし、興味は無い。だが、俺が聞いた話じゃ、ヨルダバオトの謀反は実際には成功していて、主神にして創造神であるプロパテールとすり替わって今の立場にある」
その言葉にアティルーナは信じられないモノを見る視線を向け、動揺すると、龍兵は更に続ける。
「で、俺はそんなプロパテールの力の断片である宝珠を集めてる。勿論、器である彼女自身の確保は済んでる」
「貴様……何が言いたい?」
「さぁな……俺も何が言いたいのか?解んねぇや」
本心からそう返すと、龍兵は深呼吸。
折れた3本の肋骨から鋭い痛みを感じながらも、痛みに顔を顰める事無く改めてコンバットナイフを構え直す。
それから左手をクイクイと動かし、掛かってこいと言葉を抜きにして誘えば、アティルーナは地を蹴った。
そんなアティルーナに対し、龍兵はコンバットナイフを目の前で捨てると、殴り倒さんとするアティルーナの手首を瞬時に掴んで後ろに倒れる。
「なっ!?」
倒れながら左脚をアティルーナの腹に押し当て、アティルーナの甲冑の胸元の縁を無理矢理掴んでいた龍兵はその勢いのまま後へ投げた。
そう。それは柔道の巴投げであった。
そんな巴投げを決めた龍兵は即座に身体のバネを生かして跳ぶ様にして立ち上がると、来た道を戻る様に駆け出す。
それから直ぐに眼の前に開いたポータルへ飛び込むと、龍兵はセーフハウスで倒れる様にして着地。
そして、自分を見下ろすミンに問う。
「首尾は?」
「君のお陰で確保成功だ」
ミンから確保成功の言葉を聞くと、龍兵は我慢を辞めた。
「クッソ!!滅茶苦茶痛ぇ!!肋骨折れてるわ!全身ぶつけて痛ぇわ!マジで最悪だ!!」
一頻り怒鳴ってスッキリさせると、龍兵は床に大の字になって寝転んだまま漏らす。
「畜生……アティルーナに対する見通しが甘かった。戦争の神様って存在侮ってるつもりは無かったけどよぉ、あそこまで優秀とは思っても見なかった」
龍兵の言葉にミンは目を丸くすると、好奇心と実務含む疑問をぶつけた。
「そんな脅威と言える程に優秀だったのかね?彼女は……」
「俺が今まで見てきた中でトップクラス。いや、トップって言わざる得ねぇ……」
今までに様々な相手と殺し合い、騙しあって来た歴戦の猛者とも言える戦略家にして、戦術家の龍兵が手放しに褒める様に漏らす。
だからこそ、ミンは心の底から驚いていた。
「君に其処まで言わせるとは……流石は戦を司る女神と言うべきか?」
「オマケに俺の手口を知ったから、コレから先の難易度が更に跳ね上がっちまった。だぁ、もう……最悪だ」
アドレナリン等の影響で興奮状態の龍兵が嘆くと、今度はプロパテールが尋ねる。
「何故、アティやザミィに私の事を正直に教えたの?」
その問いに龍兵は吐き捨てる様に言う。
「その答え、後でも良いか?折れた肋骨あたりが滅茶苦茶痛くなってきたし、全身とメッチャ痛ぇ……オマケに吐きそうだ」
そう吐き捨てると、龍兵はそのまま意識を手放すのであった。




