気付かれた
アティルーナは自分が指揮官として、司令官として、自分の読みが大きく外れた事に直ぐに気付いた。
「クソッ!奴は最初からファルサルを目指してなかった!!」
1時間以上待っても警戒線に引っ掛からない。
ファルサルから10キロメートル以上はなれた地点周囲を空からパトロールし、捜索する天使達からも一行に発見の報告が来なかった。
そうした点からアティルーナは自分がまんまと乗せられてしまったと、即座に察した。
それ故に腹立たしさを露わにアティルーナは地図が広げられた卓に拳を強く叩き付けてしまう。
拳を叩き付けて卓を粉砕したアティルーナを珍しそうに見詰めるザミルは、対照的に何処か愉しそうであった。
「あの狼は狡猾で老練ね。だからこそ、その首を切り取ってトロフィーとして飾りたいわ」
ザミルは愉しそうであるが、自分を袖にする様にして追跡を振り切った龍兵に対し、怒りを強く滲ませていた。
そんなザミルを他所にアティルーナは自分達に恐ろしいモノを見る様に見詰める部下達へ、直ぐに命じる。
「ファルサルを除く全ての封印の地に警報!奴は既に潜入してるものと考え、突入!発見次第直ぐに報告!攻撃も許可する!」
矢継ぎ早に命令を下せば、戦天使達は伝令として急いで飛んでいく。
そうして現状で取れる最善行動を命じると、アティルーナは待つしか出来ぬ己に歯噛みしてしまう。
「戦を司る女神が良いざまだ。たった独りの人間に良い様に翻弄され、悠々と目的を果たされようとしてるのだからな……」
自嘲にも似たボヤキをアティルーナが漏らせば、ザミルは本当に珍しい者を見た。
そう言わんばかりに言う。
「本当に珍しいわね。貴女が弱気になるなんて」
「弱気?バカ言うな。確かに悔しさはあるが、奴に負けるつもりは無い」
其処で切り替えをすれば、ザミルは「それでこそ貴女よ」そう返してから問う。
「で?私はおはらい箱?」
「バカ言え、貴様にはコレからも働いて貰う。寧ろ、忙しくなると思え」
「良かったわ。狩りの楽しみが奪われると思ってたから……」
暢気に返すザミルにアティルーナは指揮官として注げる。
「私の今の命令で犠牲と共に奴の居場所が判明する筈だ」
指揮官として、戦略と戦術を専門とする戦を司る女神だからこそ、アティルーナは自分の命令によって犠牲が出る。
ソレを理解していた。
だが、指揮官として現状における正しい判断だからとは言え、部下達に犠牲が出る事を容認出来る程の冷徹さは無い。
だからこそ、アティルーナは歯痒さに自責の念に歳悩まされていた。
しかし、ザミルは他人事の様に冷たく言う。
「でしょうね」
「だからこそ、勝利を以て犠牲になった兵達の手向けとする」
自分に言い聞かせる様にして冷徹に言い放てば、指揮官としての重責に潰れる事無くアティルーナは立ち続ける。
そんなアティルーナにザミルは問う。
「それで次に打つ貴女の手は?」
「犠牲が出る事で奴の居場所が判明する。その時は私自ら打って出る」
「それに私も一緒していいかしら?」
「寧ろ、来ないと抜かしてたら殺してる所だ」
物騒な物言いと共に動向を許せば、ザミルは狩りの続きが出来る事に笑みを浮かべる。
そんな戦を司る女神と狩りの女神の遣り取りを他所に敵……もとい、龍兵はダンジョン内を順調に進んでいた。
今の所は順調。
だが、バレるのは時間の問題。
なので、なるべく急がざる得ない。
ダンジョン内のモンスターをBREN2で撃ち殺しながら進み、罠や残敵を警戒。
時には背後から敵が来ないか?残心の如く振り向いて警戒しながら一歩ずつ確実に歩みを進めていく。
そうして歩みを進め続け、ダンジョンの奥へ奥へと進んできた龍兵は休息を取る事にした。
漸く2階層目を踏破出来た。
休むには都合が良さそうだ。
そう考えながら食料や着替え等が詰まったバックパックをその場に下ろし、BREN2を脇に置いた龍兵はその場にドカッと座ると、水筒の水を一口飲む。
そうして渇きを癒せば、コンバットブーツを脱ぐ為に紐を解いていく。
コンバットブーツを脱ぎ、靴下を脱いだ龍兵は長時間歩き続けた両足を乾燥させる様にして裸足になると、空腹を癒す為にバックパックを開ける。
中からMREレーションを一袋取り出し、封を破いた。
中身を目の前に広げる様にして出すと、メインディッシュであるピザとデザートのブルーベリーコブラーをFRHと呼ばれるヒートパック内に収め、水を注ぐ。
そうして水に反応した薬剤によって二品で温められ始めれば、龍兵はそれを目の前に置いてイタリアンブレッドスティックとチーズスプレッドの袋を取って封を切った。
そして、手に取ったイタリアンブレッドスティックにチーズスプレッドを全部乗せれば、ゆっくりと食べ始める。
モソモソと食べてピザとブルーベリーコブラーが温まるのを待ちながら、今度はドリンクを作るための袋とも言えるべバレッジバッグにチョコレートプロテインドリンクの粉末を全部いれた。それから水を注ぎ入れると、龍兵はソレをブンブンと上下に振ってシェイクした。
程なくしてチョコレートプロテインドリンクが出来上がれば、それをゴクゴクと飲んでいく。
「ふぅ……疲れた身体に染みるなぁ」
程よい甘さのチョコレートプロテインドリンクに龍兵は疲れが癒されるのを感じると、イタリアンブレッドスティックをモソモソ食べながら残りを呑んでいく。
チョコレートプロテインドリンクとイタリアンブレッドスティックを完食する。
だが、ピザは未だ完全に温まってなかった。
その為、龍兵は残り時間を潰す様に弾の装填作業に移った。
使った弾倉をダンプバックから取り出し、召喚した5.56ミリNATO弾を一発ずつ地道に装填しながら待った。
装填作業が終わると、ピザは完全に暖まった様であった。
そんな熱々のピザをFRHから取り出すと、龍兵は封を切って露わにする。
「コレの何処がピザなんだよ?」
目の当たりにしたピザに対し、ゲンナリとした様子でボヤきを漏らした龍兵はピザに齧りつく。
「味は悪くねぇけど、コレじゃない感がパネェな」
がっかりした様子で不満を漏らすも、龍兵はピザを残す事無くガツガツと食べた。
そうしてピザを食べ終えると、龍兵は決める。
「日本に帰ったら、シェーキーズにピザ食いに行こう。絶対に食いに行く」
龍兵の故郷である日本。
其処の千葉県某所にあるシェーキーズへ絶対にピザを食べに行く。
それを帰った後の楽しみとして決断すると、龍兵はスプーンを手に熱々のブルーベリーコブラーを食べ始める。
「コレは美味いな。」
気に入った様子で漏らすと、龍兵はブルーベリーコブラーを掻き込む様にして急いで食べた。
程なくして食べ終えると、龍兵は口の中を洗い流す様にして水筒の水を一口飲んだ。
こうして食事を終えた龍兵はバックパックから予備の綺麗な靴下を一足出すと、それを履いてコンバットブーツを履き直し、脱いだ靴下をバックパックに放り込んで蓋をする。
だが、龍兵は直ぐに移動しなかった。
「ついでだから小便と糞してくか……」
誰に言うでもなく独り言ちると、龍兵はMREレーションに付属していたトイレットペーパーを手に立ち上がり、歩みを進める。
部屋の隅に赴いた龍兵はズボンとも言える戦闘服の下衣を脱ぐと、その場に腰を下ろし、野糞と小便をした。
スッキリとした様子でケツを拭いてると、遠くから微かに響く爆発音が龍兵の鼓膜を叩いてきた。
「…………来たか」
その一言共に用済みのトイレットペーパーを捨てると、急いで下衣を履いてバックパックの方へと駆けていく。
急いでバックパックを背負い、BREN2を手に取った龍兵は後ろを振り向く事無く奥へ向けて駆け出す。
警報代わりのクレイモアが起爆したって事は、敵に俺の陽動がバレたって事を意味してる。
つまり、此処からは本格的に時間との勝負になる。
微かに聞こえた爆発音の正体は、龍兵が警報として仕掛けたクレイモア地雷によるものであった。
ソレが起爆した事が意味するのはただ1つ。
敵……否、アティルーナに自分がファルサルへ向かうのは陽動であると、バレた事に他ならない。
恐らく。否、間違いなく俺がファルサルに来ない事を察知して、全ての地点に部隊を送り込んで来たと見て良い。
「流石は戦争の神様だな。俺の陽動に気付くなんて……」
龍兵は敵であるアティルーナに対し、称賛の言葉を漏らした。
無能な指揮官ならば、ファルサルに来ると拘泥して全地点に部隊を差し向ける判断など出来ない。
だが、アティルーナは実行した。
龍兵の予想よりも早いタイミングで……
お陰で俺は大慌てだ。
「アガるな」
危機的状況であるにも関わらず、龍兵は嗤っていた。
そんな龍兵が急いで宝珠へ向かってる頃。
"警報"が作動した地獄絵図と化していた。
「そんな……何で……」
戦天使である彼女はコレが初めての実戦で、戦場であった。
自分はアティルーナの様に強く、美しく。そして、アティルーナに認められたい一心で命令に臨んだ。
勿論、他の戦天使達もアティルーナの命令に従い、主神を侮辱したばかりか、宮殿を不敬にも襲撃した大罪人の首を見つけ出して殺す事に強い意志を燃やしていた。
だが、ソレは酷い形で失敗した。
彼女には何が起きたのか?分からなかった。
しかし、目の前には肉片と血溜まりと化した同期や先輩達が床一面に広がってる。
そんな中で後ろから味方が来た。
「どうした!?敵の攻撃か!?」
先頭を走るベテランの戦天使が彼女に駆け寄り、尋ねる。
だが、放心していた彼女と目の前に広がる惨状から何が起きたのか?何となく察すると、彼は直ぐに部下に命じる。
「アティルーナ様へ直ぐ報告しろ!!敵は此処に間違いなく居る!!と……急げ!!グズグズするな!!」
凄い剣幕で命じられた部下である若き戦天使は直ぐに来た道を戻り、伝令として駆けていく。
そんな部下を見送ると、長として振る舞うベテランの戦天使は再び彼女の方を向いて尋ねる。
「大丈夫か?」
「み、皆は?」
「皆死んでる」
その答えに彼女は泣き喚いてしまう。
そんな彼女を部下の一人に任せて後送させると、彼は部下達に命じる。
「敵はこの奥へ向かってる。先を急ぐぞ!!」
その命令と共に戦天使達が呼応するように返事をすれば、彼は部下達を率いて死地へと駆け出すのであった。




