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異世界ブラックオプス   作者: 幽霊@ファベーラ


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19/42

潜入開始


 その日の深夜。

 誰もが眠りにつき、沈黙だけが支配する。

 そんな漆黒の闇に埋め尽くされた空。

 高度10000メートルから地上へ向け、弾丸の如く突っ込む者達が居た。

 時速250キロメートルと言うスピードで極寒に満ちた真っ暗闇を突き抜け、地面へ落下し続けていると言うのに彼……もとい、龍兵は平然と。

 否、嬉々としていた。

 それは1年以上振りにHALO降下を実施していると言う、ブランクを感じさせないメンタルと言えた。

 地面目掛けて猛スピードで落下する中、龍兵は右腕に付けた高度計をF-PANO(暗視ゴーグル)越しに一瞥する。

 高度は既に半分を切り、3000メートルを指していた。

 それから1分もしない内に高度計が1000メートルを切れば、龍兵は瞬時にハンドルを引く。

 程なくしてパラシュートが開けば、龍兵は風に揺られながらも気流に乗り、揺蕩いながら地面へゆっくりと落ちていく。

 そうして3キロほど空の上を進めば、龍兵は地面に見事な着地をキメると共にパラシュートを即座に切り離し、酸素ボンベと酸素マスクを脱ぎ捨てた。


 「今の所は予定通りだな」


 そう漏らした龍兵の元に彼女……プロパテールの姿は無い。

 それは何故か?知るには、30分前に遡る必要があった。





 着地30分前。

 龍兵はミンに向け、依頼を請け負ったプロとして進言をしていた。


 「深夜にHALO降下。それをタンデムは流石にリスクがあり過ぎる」


 「君なら何とかするだろ?」


 ミンが笑顔と共に無茶振りをすると、龍兵はプロとして斬り捨てる。


 「バカ言え。俺にだって出来ない事はある」


 「なら、代案はあるのかね?」


 無理ならば、代案を出せ。と、当然の様にミンが要求すれば、龍兵は待ってましたと言わんばかりに代案を切り出す。


 「簡単だ。俺がダンジョンの入口に到着したら、御宅があのデタラメな移動手段(ポータル)で彼女を送れば良い」


 その言葉にミンが納得すると、龍兵は彼女……プロパテールを最初から連れて行きたくない他の理由も挙げる。


 「タンデムのリスクもあるが、一番は彼女自身だ」


 その言葉と共に彼女を一瞥すると、ミンは何故なのか?尋ねる。


 「どう言う事かね?」


 「標的にすれば、彼女は俺と同等の高価値目標と言っても良い。そんな彼女は俺よりも滅茶苦茶"目立つ"……違うか?」


 龍兵が確認する様に問えば、ミンは認める。


 「その通りだ。天使達やアルコーンは直ぐに気付く」


 ミンが肯定すれば、龍兵はソレが引き起こす意味を述べる。


 「つまり、彼女を連れてたら俺は直ぐに袋叩きにされ、最後には吊るされる訳だ。そうなったらアンタの依頼つーか思惑は完全に失敗に終わるばかりか、俺の積み上げた結果も無駄に終わる」


 「そう言う事ならば、君の代案を呑もう」


 ミンが龍兵の説得に応じてくれれば、龍兵は次の事を要求する。


 「さて、次に頼みたい事がある」


 「何だね?」


 「敵を撹乱して欲しい。具体的な方法は……」


 そんな30分前の事を振り返りながら龍兵は食糧と着替えに収まるバックパックを背負うと、5.56ミリNATO仕様のBREN2を手にその場にしゃがんで周囲を見回す

 静寂に満ちた闇の中。虫や鳥の鳴き声は聞こえて来るが、自分以外何も無い事に龍兵は独り言ちる。


 「撹乱は上手くいってる。そう見て良さそうだな」


 ミンに要求した撹乱が上手くいった。

 そう判断すると、龍兵は闇の中を歩き出して移動を始める。

 そうして龍兵がファルサルへ向けて徒歩で向かい始めた頃。

 アティルーナは部下である戦天使から報告を受けていた。


 「例の転移魔法(ポータル)反応があった2箇所を捜索。更にその反応を中心として捜索を致しましたが、敵の姿は一切ありませんでした」


 戦天使の報告を受けたアティルーナは渋い面持ちを浮かべると、机に広がる地図を眺めていく。

 地図には5箇所に記しが付けられており、その5箇所はヨルダバオトから分かたれた力の結晶たる宝珠の在り処と言えた。

 そんな5箇所を見詰めながらアティルーナは部下に問う。


 「その2箇所で不審な点やモノはあったか?」


 「一切ありませんでした」


 部下がハッキリと否定を答えると、アティルーナは予想通りと言った様子で命じる。


 「捜索は直ぐに中止。反応のあった2箇所を除く残りの3箇所と、その周辺へ部隊を回して捜索。見付けても報告と監視だけを徹底。奴には自分の策が上手く行ってる様に思い込ませたい」


 「了解しました」


 報告をした戦天使が伝令として駆け出すと、アティルーナは戦を司る神として地図を見詰めながら整理する。


 敵は2箇所に転移魔法反応を発生させ、我々を撹乱する事も出来る。

 だが、同時に我々に気取られる事無く転移も可能。


 アティルーナの思案した通りの事を龍兵サイドはしていた。

 それ故にアティルーナは厄介な敵を相手にする羽目になっていた。

 そんな戦を司る女神は思案する。


 敵は反応のあった2箇所とは異なる場所から大地へ潜入した。そう見ても良い。

 そうなると、敵は反応の無かった3箇所の何れかを目標としている。


 アティルーナの読みは当たっていた。

 龍兵はミンに自分が選定したターゲット……ファルサルとは大きく。それこそ、数百キロメートル以上離れた2箇所にポータルを開かせた。

 ただ、何時もと違うのは、普段ならば標的サイドに気取られない様に開く事が出来る所を敢えて、気取られる様に出力を上げて来た点だろう。

 それ故、標的サイド。もとい、アティルーナの部下達はその反応を察知し、アティルーナは2つの箇所に兵を送らざる得なかった。

 そんな撹乱にまんまと乗せられた事を改めて理解すると、アティルーナは口元に笑みを浮かべる。


 「面白い。実に面白くなってきた」


 自分は戦を司る女神と言う自負があるからこそ、永い年月の間に初めて目の当たりにする戦に対し、アティルーナは面白いと感じていた。

 それは同時に、その戦を展開する龍兵に対してどう動くのか?期待している事も意味していた。


 貴様は私を愉しませてくれる様だ。

 どう動くか?見せてみろ。


 戦を司る神として、龍兵と言う自分の知らぬ戦い方をする未知に期待をすると、アティルーナは指揮官。否、司令官として作戦を立案していく。

 そんなアティルーナが既に残る3箇所の何れかを狙いに定めているのを読んでいる。

 それを龍兵は戦術家として察すると、アティルーナはどう動いてくるか?歩みを進めながら思案していた。


 今の所は順調に事が運べている。

 だが、敵は既に俺の目的地が3箇所の何れかに絞り始めている。そう見といた方が良い。

 なので、予定通りに敵に発見される前に可能な限りファルサルへ接近を目指す。


 今は順調に事を進めている事が出来ている。

 そう判断すると、龍兵は歩みを進め続ける。


 しかし、敵に俺がファルサルを目指してるのを気付かれるのは、時間の問題。

 本当ならば、直ぐ近くに降下したかった。

 だが、敵は人間じゃない。天使だ。

 自活的に空を飛べる歩兵共に見付かったら、降下中の俺はその場でアウト。

 勿論、パラシュート開いてる時に見付かってもアウト。

 だから、仕方なく離れた地点に降下せざる得なかった。


 龍兵がHALO降下で降下するポイントをファルサルの直ぐ近くではなく、其処から少し遠く。

 約30キロメートル離れた地点を目指した理由は敵から発見される可能性を減らす為でもあった。

 勿論、徒歩で移動している事にも理由はある。


 クルマで移動すれば、あっという間に着く。

 だが、若い時代に自動車なんて存在しない。

 オマケに幾ら深夜とは言え、マフラー音が五月蝿い自動車で移動なんてしたら目立って仕方無い。

 だから、面倒であっても徒歩で移動するしか無かった。


 この世界に自動車は存在しない。

 それ故に上空を飛び、哨戒に当たる天使が居たら直ぐに見付かる可能性が高い。

 更に言うならば、幾ら深夜に移動をしていても、マフラーやエンジン等から響く騒音によって気付かれてしまう可能性も高かった。

 だからこそ、龍兵は敢えて徒歩での移動を選んだのであった。

 そんな龍兵は時には空を見上げて哨戒パトロールする天使が居ないか?確認しながら歩みを進め続ける。

 移動を始めてから1時間が経った頃。

 立ち止まった龍兵は周囲と空を見廻して安全なのを確認すると、その場にバックパックを降ろした。

 それからコンバットブーツと靴下を脱げば、水筒の水を一口飲んで休息を取っていく。

 そうして10分の休息を取ると、龍兵は靴下とコンバットブーツを履き始めた。

 靴下とコンバットブーツを履いた龍兵はバックパックを背負ってBREN2を持つと、再び闇の中を静かに歩んでいくのであった。




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