タタキ《強盗》は迅速に
夜道をゴトゴトと走る豪奢な馬車の中で当代の教皇、リシュリュー・アウグレベウスは心の底から怒っていた。それはもう大激怒であった。
そんな怒りを噛み締めるリシュリュー・アウグレベウスは同時に沸き立つ疑問に際悩まされても居た。
何故、栄えある勇者達は逃げ出したのだ?
偉大なる神プロパテールに勇者として導かれたと言うのに……
何故なんだ?
何故だ?
幾ら考えても、その理由は思い浮かばない。
敬虔な信徒でもある彼にすれば、訳が分からなかった。
頭を振って沸き立つ疑問を振り払うと、今度は今回の騒動の原因である男に対して怒りを滾らせていく。
コレも全てアオキリュウヘイなる不信心者のせいだ。
あの不信心者が敬虔な信徒である騎士達を大量に殺し、導かれし勇者達を誑かさなければ偉大なる神の礎となれたもの……
全ての元凶はアヤツにある。
「儂の持てる全てを用いて必ず神に代わって裁きを下してやろうぞ」
リシュリュー・アウグレベウスが憤怒を露わに漏らせば、お付きの者達はたじろいでしまう。
だが、教皇は未だ知らないし、気付かない。
その不信心者が既に直ぐ近くで待ち構え、手ぐすねを引いて待ってるのを。
教皇は知らない。
「しっかしまぁ、テレポート出来るポータルを通って現地入りってデタラメだな。DOOMエターナルかよ」
そんな軽口を叩くのは神に弓引く不信心者。否、龍兵であった。
龍兵は既にアンブッシュ。
即ち、待ち伏せ攻撃の支度を整えていた。
街道の脇に4つのクレイモア地雷を仕掛け終え、手元にはM240Bがあり、自身は数十メートル離れた所で伏せて何時来ても戦争出来る状態であった。
「しかし、こうして待ち構えてると思い出すなぁ……敵の補給部隊とかを待ち伏せて滅茶苦茶にしたり、現金輸送車をタタいたのを」
軍を辞めて傭兵となった龍兵は犯罪者としても活動していた。
その際に現金輸送車を始めとした高価値の物品を輸送する車両を狙い、武装強盗を何度もした事がある。
勿論、その全てを見事に成功させて来た。
それこそ、ピエロマスクがトレードマークのPAYDAY GANGの如く。
懐かしい思い出に浸りながら待ってる間、龍兵はワクワクとした面持ちで夜風に晒されながら車列を待ち続ける。
勿論、煙草は吸わない。
夜間のアンブッシュで煙草を吸うのは舐めプ以前の問題だ。
煙草を吸ったら、即座に居場所が露見してしまうのだから当然だ。
まぁ、龍兵にすれば殺したいリストのナンバー2を殺せるチャンスが訪れてるのだから、煙草を我慢するのは簡単だった。
そうして暫くの間、待って居ると車列の明かりが見えて来た。
「お、来たな」
笑みと共に呟くと、龍兵は目の前に置いていたホチキスにも似た点火器を2つ。両手に軽く握るようにして持った。
先頭を進む馬に騎乗する20人近くの聖騎士達が道の脇に仕掛けられた2発のクレイモア地雷の前を通ろうとしたすると、龍兵は点火器をカチカチと鳴らした。
その瞬間。仕掛けられた4基のクレイモア地雷が同時に爆発。
合わせて2800発の小さな鋼球が勢い良く吐き出されれば、1個小隊規模の騎士達は教皇を乗せた馬車だけを残して瞬く間に薙ぎ払われて逝く。
同時点火されたクレイモア地雷によって護衛の騎士達が跡形もなく消し飛び、爆発音と目の前で起きた惨劇によって教皇を乗せた馬車を引く四頭の馬が悲鳴にも似た嘶きを挙げて暴れ始める。
すると、龍兵は手にしていたM240Bで四頭の馬と御者に掃射。そうして四頭の馬と言う馬車の動力源を無力化すれば、龍兵は即座に立ち上がって闇夜に紛れて接近していく。
静かに素早く。闇の中を駆け抜けて馬車の脇に立つと、龍兵は地面に据えたM240Bを瞬時に構え、引金を引いた。
夜の静寂を突き破る銃声を連続で響かせながら7.62NATO弾のシャワーを浴びせると、龍兵は直ぐに馬車の扉を開けた。
馬車の中は無惨なブラッドバスと化していた。
教皇リシュリュー・アウグレベウスはお付きの者達と共に多数の7.62NATO弾によってズタズタに斬り裂かれ、惨たらしい有様となっていた。
そんな無惨な死体と化したリシュリュー・アウグレベウスを馬車から引きずり降ろすと、龍兵はミンから渡されたフレアガンを空へ向けて放った。
軽やかな銃声と共に照明弾が空へ向けて放たれると、照明弾は花火の様に辺りを照らしながら輝きを見せていく。
空でユラユラ揺れ動く灯火に照らされながら龍兵は周囲を警戒。
それから程なくして目の前にゲリラにとっての聖域とも言えるセーフハウスへのポータルが現れれば、龍兵はリシュリュー・アウグレベウスだった無惨な肉塊を担ぎ上げ、ポータルの中へと消えた。
それ攻撃開始のクレイモア地雷起爆から逃走、ポータルが閉じるまで僅か50秒間の出来事であった。
「相変わらず手早く終わらせるな君は」
ミンが呆れ混じりに賞賛すると、龍兵は失敗したと言わんばかりに返す。
「敵の増援警戒してグレランとか機関銃を用意したけど必要無かったわ……」
敵の増援。即ち、標的であるプロパテールを標榜するバカな弟君が差し向けて来るだろう者達を警戒し、龍兵は重火器を持参していた。
しかし、龍兵は1分以内に全てを成して逃走する事に成功。
それ故に余計な荷物だった。と、自分の見立てが1年のブランクで甘くなった。
そう感じていた。
「そう気を落とすな。君なら直ぐに全盛期までの実力を取り戻せるさ」
「だと言いけどな……それより、こんなんなったが、コレで良いのか?」
龍兵が死臭と血。それに腹から排泄物の臭いをさせたリシュリュー・アウグレベウスの死体をその場に放り捨てると、ミンは満足した様子で返す。
「あぁ、完璧な仕事。見事だよ」
ミンはピンクメタリックのスーツの上衣を脱ぐと、それを龍兵に差し出して言う。
「持っててくれ」
龍兵がスーツの上衣を受け取ると、ミンは死体の前にしゃがみ、死体の胸。もとい、心臓のある位置へ手をズブリと差し込み始めた。
「うげ……マジか……」
その様子に龍兵はゲンナリとするが、ミンは気にする事無く作業を進め、心臓に位置する所から宝珠と思わしきモノを取り出して言う。
「あったぞ。7つの内の1つだ」
「なら、後は残り6個か」
「そう言う事になるな」
ミンが当然の様に返せば、龍兵は提案する為に尋ねる。
「なぁ、標的の性格を知ってるか?」
「性格?そうだな……完璧主義者だが、自分のやる事全てが上手くいくと自惚れてる愚か者というべきかな?」
さも当然の如く答えたミンに龍兵は心の中で「何で知ってるんだよ?」そうボヤきながらも口に出して考える。
「全てが上手くいくと自惚れてる完璧主義者か……と、なると俺が教皇を殺して死体を奪ったと知れば、俺達の狙いに直ぐ気付く程度には頭は回ると見て良いか……」
其処まで考えると、龍兵はミンに告げる。
「ミン。アンタも解ってるだろうが、標的は救出対象の救出と今回の教皇殺害で此方の目的に気付いてる可能性が高い」
標的に自分達の思惑が気付かれている。
そんな仮説を聞かされても、ミンが驚く事は無かった。
寧ろ、当然と思っていた。
「それはそうだろうな。奴は其処まで愚鈍ではない」
「だから、この後に取るだろう標的の動きは2つある」
「聞かせてくれ」
龍兵が戦術目も優れている事を知るからこそ、ミンは素直に耳を傾けていく。
「先ず1つは各6箇所に俺を殺す為に部隊を配し、手ぐすねを引いて待ち構える。さっき、俺がしたみたいにな」
龍兵の行動目的が解った以上、標的が取る手段として当然と言えた。
6つのブツを隠した場所に部隊を展開させて待ち構え、やって来た所を嬲り殺しにする。誰でも思い浮かぶ方法と言えるだろう。
そんな1つ目を聞くと、ミンは尋ねる。
「もう1つは?」
「残り全てのブツを回収。そして、自分の手元に置く。その方が効率的だし、確実だ」
2つ目は全てのブツを奪われる前に回収し、其れ等を一箇所に纏めて保管する。
そうすれば、動員可能な部隊と自分を護る部隊の両方を以て待ち構えれば、ブツの護りと憎きイレギュラーたる龍兵を殺す事だけに集中出来る。
1つ目より確実性の高い方法と言えるだろう。
そんな龍兵の仮説を聞くと、ミンは当たり前の様に告げる。
「彼は完璧主義者だが、自分のする事が全て上手くいくと自惚れてる愚か者だ。恐らくだが、前者を取るだろう」
ミンの言葉に龍兵が反論する事は無かった。
ただ、一言だけ申した。
「なら、こっから先はアンタの仕事だ」
「解ってる。君の仮説は正しい。前者になっても、後者になっても問題無い様に私の方で調査を進めておく」
「なら、ソレが完了するまでは待機時間だな。俺は疲れたから休ませて貰うぜ」
呑気な様子でそう告げてプレートキャリアとFASTヘルメットを脱ぎ捨てた龍兵は、欠伸をしながらソファーに赴くと、其処に身を投げるようにして眠りに着くのであった。




