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第三十話

第三十話


オカルト注意

 日本における自衛隊の立場は実に複雑である。

 と、言うのも平和と言う実に曖昧な存在を絶対の正義とし、それを害する存在を叩き落とそうという上辺だけの妄想に取り憑かれた存在がおり、その実態は日本という国を焦土と化しても尚上位国として存在する事が気に入らないケツの穴の小さい連中が居るからだ。

 そして、そんな連中のケツを守る為に日夜ひっそりこっそりと日本に仇なす存在を始末しているのが宇山江二佐率いる特別情報収集部隊である。勿論、この部隊意外にも色々と組織があり、色々なことをやっている。と、言うかそんな部隊の中でも特別情報収集部隊の存在は異質であった。

 ウィークエンドと猫耳くノ一との遭遇以来、真と慶太郎は日本国内には居らず、否、正確に言えば東京都に所属している硫黄島に軟禁されていた。と、言うのも便宜上彼等は自衛隊預かりの犯人となっており、中国政府からも身柄を寄越せと言う話が来ているらしいが、慶太郎は勿論、宇山江ですら与り知らぬ高度な政治的交渉で抑えこんでいるとか。

 ただ、ヒントらしき物として日銀砲じゃね?と言っていた。日銀砲と言うのは投資ファンドを撲滅させるために日本が行った大量に円を刷りまくるという一歩間違えれば第一次大戦直後のドイツ経済めいた光景になりそうな作戦である。

 1日に1兆円以上の金を刷り続け、海外の投資ファンドを根こそぎ潰した作戦である。その為、市場介入の隠語としても使われる用語でもある。経済を盾に中国を牽制或いは黙らせているようだ。


「先輩、昼ご飯ですよ」


 真は猫耳くノ一に言われた言葉に酷く傷付き、完全に塞ぎこんでいた。

 人殺し、キメラモドキ。真が気にしている非常にデリケートな部分を見事に抉ってみせたのだ。あの作戦でテレビ局に情報が漏れたのが痛かった。本来ならば自衛隊が情報を遮断しておくべきなのだが、計画を実行する直前に新しく増設された監視カメラに映ってしまったのだ。

 勿論、それだけなら自衛隊も直ぐに口止めできる。だが、問題は自衛隊自身がカメラの存在を把握しておらず、また自衛隊と仲の悪いマスコミ連中の手にわたってしまったという事が悪かった。警察や公安も自衛隊と自分達よりも上の存在から強い圧力を掛けられてダミーの犯人を捕まえたし、息のかかったマスコミ達が一斉に用意されたダミーストーリーを報道して全く関係のない韓国系ヤクザの情報を流している。

 そして、世間も同様にそれに同調し始め、2チャンネルでも工作員達が巧みな情報誘導をして韓国或いは中国叩きに転化させている。


「要らない」


 テーブルの上に置かれた料理は島内の自衛隊基地で作られたものである。

 硫黄島は便宜上航空自衛隊と海上自衛隊が常設基地に居り、少数の陸上自衛隊員が島内で発見される不発弾や遺棄された弾薬の処理を行っているだけ、とされているが実際には陸上自衛隊所属の公に明かすと大変な事に成る部隊もここに居る。

 硫黄島は基本的に民間人の立ち入りが禁止されている。島の周りを遊覧する事は可能であるが、上陸は許されていないので事実上自衛隊及び訓練に立ち寄ったアメリカ軍ぐらいしか居ないのだ。


「要らないって、そう言って此処最近まともにご飯食べてないじゃないですか。

 このままじゃ栄養失調で死んじゃいますよ?」

「……そうなら、その方が良い」

「ッ……」

「何言ってるんですか。

 バカなこと言ってないでちゃんとご飯を食べて下さい」


 慶太郎はベッドの上で膝を抱えている真を椅子に座らせる。真はスプーンを握るも、料理には手を付けない。慶太郎はすっかり困ってしまう。すると、突然扉が開き、迷彩服Ⅲ型のズボンにTシャツというラフな格好をした宇山江が入って来る。後方には確りと服を着込んでヘルメットを頭に被った自衛隊員も居る。2人の手には89式小銃が握られており、弾倉まで入っていた。

 ただ事ではない。慶太郎にはそれがわかった。


「おう、敵襲だ」

「は?」


 宇山江の言葉に、慶太郎は思わずアホな声を出してしまった。


「クソッタレのシナ共が恐れ多くも我々自衛隊オンリーのこの基地に攻撃を仕掛けてきた」

「え?」

「外部との通信は不能、本土からこっちに部隊が来るまで最低でも1日以上掛かる。

 増援が来るまで最短でも8時間。下手すりゃ1日以上掛かる」


 宇山江はニタニタ笑いながらそう告げる。


「ま、待ってください!

 どういうことなんですか!?」

「どういうことも何も、中国の特殊部隊が上陸しようとやってきてるっつってんだよ、バカ。

 狙いは実験体ハ777番だな。おい、坊主。テメェの任務はその実験体ハ777番の死守。期限は増援が来るか、敵が全滅するまで。

 敵は死ぬ気で来るぞ。チンピラ共と同じ気分で行くとマジで死ぬから気張れよ?」


 宇山江はそう告げると、私は指揮があるからと告げ出て行った。宇山江と変わるようにして覆面をかぶった自衛官が数人入って来る。そして、2人の銃と装備を居ていく。


「備えろ。

 二佐の言うとおり、敵は死ぬ気で掛かってくる。中国軍に捕まったら、実験体は死んだ方がマシってレベルの検査を受けてそのままホルマリンのプールで一生泳ぐ羽目になるぞ」


 装備を整えた自衛官はそう告げると、外で待っていると告げ出て行った。慶太郎は何でこうなったと舌打ちをし、魔法少女に変身する。装備を身に付け、銃を開く。銃はG36であった。しかし、慶太郎が知っているG36と少し違う。銃身が太く、弾倉も通常の30発弾倉2つCマグと呼ばれる100発の弾丸を入れれるマガジンが2つ入っている。

 慶太郎はそれを装備し、真を見た。真は装備を整えずボーっとしていた。慶太郎は小さく舌打ちをすると、脇に置いてあるガンケースを開く。MG3とその弾、マチェットにTシャツがある。取り敢えず、装備をMG3と一緒のガンケースに放り込み背負う。


「先輩、行きますよ」


 慶太郎は真の手を引っ張って部屋を出る。部屋の外は空気がピリ付いており、慶太郎も真も感じたの事ない尋常ならざる空気を感じ取る。部屋の外では89式を持った自衛官が周囲を睨んでいた。廊下は非常灯が灯っている。


「警報は鳴らないんですか?」

「警報を鳴らしてどうする。誰に知らせる」

「誰にって……

 基地内の人には?」

「8割が特殊部隊だ。

 通常放送で言えば分かる。ここに居るのは全員プロだ」


 自衛官はそう告げると、行くぞと告げて歩き出す。慶太郎はG36を右手に真の手を左手に歩き出す。

 自衛官は歩きながらPDAを出すと慶太郎に渡した。


「硫黄島内部の地図だ。

 地下坑道を走れ。俺達の爺さんや曾祖父さんが命がけで掘った穴だ。そこを更に補強と改築をして完全な要塞にしてある。

 地図がなければ俺達でも迷う」

「地下を把握しているのは二佐位だろう」

「全くだ。二佐はアホだからな」


 自衛官がそう笑うといよいよ敷地、まぁ、寮なのだが、そこから出る。硫黄島は蒸し暑い。赤道直下に近く夏場はもはや人間が済むような土地ではない。まぁ、住んでいたのだが、多分、地球温暖化の影響もあるのだろう。

 しかし、どういう訳か今回は生温い空気が流れながらも背筋が凍る程に寒々しく感じた。その気配に思わず慶太郎は身震いをした。


「ヘヘッ、此奴は、マジでお祖父様方がお怒りだぞ……」


 自衛官がそう告げると、それに呼応した様子にもう一人の自衛官がアアと頷き、その場に立ち止まり、両手を合わせて合唱をする。


「どうか、我々をお守り下さい」

「お前等も頼んでおけ」


 自衛官の言葉に慶太郎も真も両手を合わせた。慶太郎はどちらかと言うと、お邪魔してすいませんという気持ちだ。真に関しては取り敢えずやっておけという感じである。

 それから、満タンの水筒を2つづつ持たされる。


「良いか、一つは飲んでいが、もう一つは絶対に飲むな。

 ソイツは御守だ。ご先祖様や戦死したガンホー共のモンだ。水をくれって言われたら、地面に水をちょっと撒いて、他の人にも配るからこれで勘弁してくれと言ってから立ち去れ」

「誰に言われるんですか?」


 自衛官は決まってんだろと言うと、摺鉢山の方角を指さした。


「それと、骨が見付かっても絶対に壊すな。

 そして、可能なら持ち帰ってこい。もし、踏んで壊したら心の底から謝罪しろ。そして、感謝しろ。お前等がこうやって日本人として生きているのもその骨になったご先祖様のお陰なんだ」


 自衛官達の注意事が段々とオカルトじみてきた。真はバカバカしいと言わんばかりに顔を顰めてるし、慶太郎も少し大袈裟すぎだと思い始めた。しかし、彼等はそれが此処での法律であり、絶対的な決定であると言わんばかりの口振りで言っていく。

 二人の説明を聞いていると、突如、ドガンと寮の半分が吹き飛んだ。


「ミサイル撃って来た!?」

「畜生!

 畏敬の念を持って島を逃げろ!ここに居るのは全員お前等の味方だ!頼むぜ爺さん達!

 このガキ共をちょっとの間守ってやって下さい!」


 自衛官達は走りだす。慶太郎はPDAの電源を入れ、手短の地下壕に入れる道を探す。

 地図の見方を習っていない慶太郎は取り敢えずクルクルと回し、それから現在地であろう場所を見当付け、歩こうとした。


「取り敢えず、あっちか」

「違う、こっちだ」


 後方から呆れた様子の声が掛かる。若い男の声だ。

 慶太郎は自衛官が戻ってきたのかと思って振り返るが、誰もいない。


「今、誰かこっちだって……」


 真も慶太郎と同様の声を聞いたらしく周囲を見回している。取り敢えず、声のした方に歩いて行く事にした。真は完全にビビっている様子で慶太郎の左手を握っている。


「先輩、変身しときます?」

「う、うん」


 真は慶太郎の言葉に素直に変身をし、顔をTシャツで隠す。その間に慶太郎はMG3を取り出してその準備をしておく。

 声のした方に歩いて行くと何の変哲もないトーチカの入り口みたいな場所があった。真と慶太郎はお互いに顔を見合わせる。


「あ、ありがとうございます。

 これ、少ないですが……」


 慶太郎は水筒の水を少し溢し、中に続く鉄扉を引く。キィと意外にも軽やかな音で扉は開いた。内部は薄暗いが非常灯が付いており、足元だけを照らしている。慶太郎は取り回しを重視するためにG36、正確に言えばMG36と言うG36のAWSモデルだ。

 真は珍しく大人しい。曰く、気分が高揚し非常に好戦的になるらしい。犬が吠えてもその犬を殺したく成るのだそうだ。


「空調が効いてるのか?」


 中はヒンヤリしていた。普通は外以上に蒸し暑い筈なのに。

 外ではドンと炸裂音や散発的な銃声が聞こえ始めた。どうやら、本格的な戦闘が始まったようだ。2人が暫く歩いていると、前方から複数の足音が聞こえて来る。慶太郎と真は銃を構える。


「何やっとるか!」


 前方からハッキリとした日本語が届き、2人はホッと安心した。


「米兵が上陸してきたんだぞ!

 さっさと配置に付かんか!」

「え?」


 声はそれだけすると、足音だけが遠くに行ってしまった。慶太郎は真を見る。真も慶太郎の方を見ていた。真の顔色は分からないが、慶太郎は自分の顔が血の気を引いているのがハッキリと分かった。もう帰りたい。慶太郎はそう思いつつ真の手を引いて歩き出す。真はMG3を確りと握り締めており、小さく震えていた。

 真が変身してから怯えているのだ。今までになかったことである。しかし、今はそれに気を配っている場合ではない。後ろからは敵が来ている。敵に渡れば、まず間違いなく真は死ぬ事になる。慶太郎に取っては英霊の亡霊よりもそっちの方が恐ろしい事だ。

 足音が去っていった方に歩みを進めていく。真の足取りは重い。仕方ないといえば仕方ない。亡霊が去っていった方に向かうのだ、マトモな人間ならばまず間違いなく別の道を探そうと提案する。しかし、そんな猶予はない。敵は既に上陸を開始しているし、砲撃も行われている。

 幾ら魔法少女やキメラモドキとは言えロケット弾や艦砲の至近弾を貰えば一発で死んでしまう。


「先輩、俺が付いてますから。

 絶対守りますからね」


 慶太郎は真に言い、自分に言い聞かせるように告げる。シッカリと握りしめるMG36のグリップはギシリと音を立てた。


弁解はしない

だが、謝りもしない


そういう事だ


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