第三十一話
第三十一話
礼威がTVをつけると、硫黄島に中国の大型機が不時着、死傷者が出たとテレビで放映していた。その御蔭で硫黄島とその周辺は厳戒態勢になっているそうだ。左翼系テレビでは自衛隊と日本政府の隠匿性から何故か帝国日本の戦争犯罪について責めていた。
それを見ながらふと彼女の上司であり教育係のクアトロ・セブンをふと思い出す。彼女、いや彼ともいうべきか、兎も角クアトロ・セブンはどちらかと言えばナショナリズムに傾倒しているのでこのTV局についても鼻で笑ってバカだと一蹴するんだろうと、と。そして、自衛隊がキメラを殺す本格的な訓練を始めたと放映された時に非難していたコメンテーターを畜生にも劣る屑と酷評していたのだ。
最も、彼が魔法少女になった時を考えるに、自衛隊もキメラを殺すべく命を賭して戦っているのだから、言ってしまえば礼威達魔法少女の戦友である。仲間を悪く言われて不機嫌にならない方が可笑しい。
礼威も最近では自衛隊に付いてプラス思考に考えることが多く、自衛隊や警察のイメージダウンに繋がりかねない質問をして来るマスコミに対しては腹を立てることもある。
「っと、そろそろ時間か」
礼威はいそいそとキッチンに戻る。キッチンで彼女の昼食であるパスタが茹でているのだ。大学生活を始め、一人暮らしをするようになった礼威は掃除洗濯料理の全てを自分でやっている。当たり前と言えば当たりまであるが、それまで、椅子に座って居れば料理が出てきた高校までの生活を考えると母親という存在の有り難みが強く感じられる。
礼威は魔法少女として最初に出た給料で両親に旅行をプレゼントした。特に母親が行きたいと常々言っていた箱根温泉だ。両親は礼威の活動を知っており、心配しているが教育係がクアトロ・セブンと聞いて少々安心していた。
クアトロ・セブン。ネットで検索をかければウィキペディアやYouTubeでも直ぐに動画が上がってくる程に日本での周知度は高い。アニメでもクアトロ・セブンを模したキャラは不定期ながらも準レギュラーとして登場し、主人公達を影で助力するという戦隊ヒーローで言えばブラックやシルバー辺りのポジションに収まっているし、話に寄っては彼女が主役に成ることもある。
因みに、最近、彼女の助手として大剣を振り回すドジっ子魔法少女が現れていた。どうやら礼威のテン・バーらしく、クアトロ・セブンによく叱責されている。拡大解釈した世間の目が反映されるとの事で、どうやら世間様は礼威のテン・バーをおバカキャラとして周知しているようだ。
その事に憤慨だとクアトロ・セブンに告げると、鼻で笑われ滾々と自分が戦闘においてまだまだであることを1から10に至る全てを丁寧に説明された。
「今日はナポリタンですよ~」
礼威は1人適当なはやりの歌に勝手な歌詞をつけてBARウィリアムズで使っているナポリタンの素を混ぜる。業務用なので市販では売っていないのだが、店で買う序に礼威分もタケさんに許可を得て入荷しているのである。
そして、それを聞いたクアトロ・セブンこと昇は料理も出来ないのかと哀れんだ目を向けていた。それに付いては徹底的に話し合おうと礼威は言ってあるも、未だにその機会は訪れていない。
礼威は別の鍋で茹でたそのナポリタンの素をフライパンに移し、パスタをそこに投入して火を通しながら和える。直ぐにトマトケチャップの良い匂いがキッチンに広がった。
出来上がったナポリタンを更に写し、レタスを千切って玉ねぎやミニトマトをいれただけのシンプルなサラダにやはり業務用ドレッシングを掛けて昼食の完成である。礼威の家、台所の殆どは業務用食品で埋まり始めているのである。
礼威が食事をテーブルに並べさぁ、食べようという瞬間に玄関のインターホンが鳴る。少しばかりのイラつきを覚えつつドアスコープを覗くと、向こうもコチラを覗いているようで目玉のドアップが映る。
「うわぁっ?!」
思わず声を上げて引いてしまうと、ドアの向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「驚かせちゃった?
済まんねレイちゃん。俺だよ、俺」
俺、正確に言えばBARウィリアムズの店長であるタケさんだ。元陸上自衛隊のエリートだったが除隊後に魔法少女と自衛隊との連絡役をやっている。柳葉が警察上がりだとすればタケさんは自衛隊OBだ。
礼威が再度ドアスコープを覗くとタケさんに柳葉、織田に昇、仁、健が居た。礼威は慌てて扉を開けて6人を家に招き入れる。
「どうしたんですか!?
事件ですか!?」
「まぁ、事件っちゃ事件だよ」
礼威はリビングに案内しながらタケさんに聞くとタケさんは困った様子で告げた。リビングのテレビには硫黄島の件を未だに話しており、先程から左翼派コメンテーターが顔を真赤にして自衛隊を非難している。
昇はそれを見て「お脳の湧いたおフェラ豚め」と罵る。礼威の想像通りであったがその口調は礼威の想像以上に下品であった。
「女子の前だぞ」
その下品な言葉に織田が噛み付くが柳葉に止めろと止められる。織田の昇への敵意は根深いようだ。昇自身、正直、織田と言う存在を忘れている。と、言うのも彼の担当官は柳葉であり、地域の総括をしている担当官も柳葉であるために、何だかんだで柳葉とはちょくちょく合う。しかし、織田に関しては新人であり、しかも柳葉の後について回っている印象があるのでどうにも存在感が薄い。
故に、昇の記憶には彼の存在が殆ど無く、下手をすれば守山に駐留している第35普通科連隊の各隊長達の方が名前と顔が一致するどころか好きな食べ物や家族構成等を知っているかもしれない。東海地区、特に名古屋市で事件が有ればまず此処から部隊が出てくる。
また、都市圏と言う事もあり、交通の便が良いので定期的な魔法少女の検診等は守山駐屯地で行っているのだ。
「そ、そのどうしたんですか?」
「俄に信じがたい話だが、聞いてくれ。
この硫黄島いおうとうの事件。本当は中国の特殊部隊が硫黄島を襲ったらしい」
タケさんの言葉に礼威は暫く考え、そして、タケさんの言っている意味がついぞ分からなかったので首を傾げると、昇がだろうなと言う顔をする。
「何でも、硫黄島いおうじまには自衛隊が保有してる公には開かせない部隊が駐留していたり実験施設を置いているらしい。
先日捕まえたウィークエンド達も此処に居たそうだ」
昇が信用していないと言わんばかりに説明すると漸く礼威が成る程と頷いた。
硫黄島にウィークエンドが居たと仮定し、中国はウィークエンドの身柄引き渡しを要求。しかし、現状日本は断っており、業を煮やした中国政府がどうにかしてウィークエンドの所在を突き止めた。そして、ウィークエンドの身柄確保の為に動き出した、と言う訳だ。
アホらしい、礼威も昇同様に三文小説レベルの自分の話に苦笑しか浮かばない。
「残念ながらそのアホらしい事をしたのが中国だ。
中国の現状を知っているか?」
タケさんも俺だって信じられんよと言いながら首を振る。
「あの国はどういう国か知っているか?」
タケさんの言葉にそれぞれが中国という国について述べていく。
「共産主義の国、ですよね?」
とは礼威の意見だ。
「少しばかり知能のある猿がAKを持った国だ」
と言ったのが昇で、仁が吹き出して笑う。
「パクるしか脳のない国」
との仁の言葉に健がしかも劣化してなと付け加えた。
「反日の国だな。
この前なんかあのせいで日本企業が大分出てっちまったそうじゃねぇか」
それぞれの言葉を聞いてタケさんが一番正解に近いのは健だと告げる。
現在の中国は内政不満を全て国外に向けている。先の大規模な反日デモに関しても元々は一党独裁体制をしている中国共産党に対しての不満だったのが、何時の間にか日本へのデモに成っていたのだ。この手腕に関しては中国政府は驚くべきと言うしか無い。
もっとも、そのせいで日本企業が他のアジア諸国に目を向けそちらに投資を始め、日本が手を引いたことでアメリカも手を引き、ヨーロッパ各国も続々と手を引いて新天地たるアフリカやアジア諸国に大量の投資をしているのが現状だ。
現在もかろうじて市場を確保している中国であるが、それは凋落の一途を辿っていると言っても良いだろう。そして、外側からの上方がどんどん流入してきたせいで、あらゆる上方が国内外でやりとりをされ、民主主義政策を訴える市民が多くなっている。
特に、昔イギリス領だった香港や多くの外国人が集まる香港等ではその気が高まっており、何時爆発しても可笑しくない状況だ。
また、市場が落ちかかっているのにもかかわらず富裕層は相変わらず肥えていくし、貧困層はよりやせ細っていくと言う現状にも多くの国民が不満を持っている。其処に今回の事件である。
「中国政府としては格下とし、バカにし続けている日本からウィークエンドを強奪してでも身柄を確保し、有る事無い事ウィークエンドになりす付けてガス抜きを図りたい、そういう事だ」
柳葉の言葉にその場に居た全員が一周回って憐れみすら覚える中国政府を鼻で笑った。
「それじゃあ、硫黄島に不時着したっていう中国機は……」
「そもそも飛行機なんぞ落ちてない。
マスコミのヘリや飛行機、船に至る全ては海自と海保が遮断しているから映像はないが中国の偽装した軍艦が短距離ミサイルを数発撃ち込み、迫撃砲で攻撃をしたそうだ。んで、上陸部隊一個大隊を投入したそうだが、返り討ちになった。
空自が大慌てでダミー用の中国製旅客機、ARJ21を運んで墜落したように見せかけているよ」
タケさんは肩を竦めると、昇が中国と半島は日本の癌だなと吐き捨て、礼威の昼食であるナポリタンを一口食べた。
「そ、それ私の昼食ですけど!?」
「これはウィリアムズのナポリタンだな。
袋からそのままの何の捻りもない」
昇が哀れみの篭った視線を礼威に向け、仁ですら具材は手作りだぞと告げる。礼威もつくろうと思えば作れます!と弁明するが、昇はそれすらしないお前が言っても説得力はないぞと礼威の訴えを退ける。
「それで、話を続けても?」
タケさんが脱線し始めた話を元に戻そうと咳払いをする。全員がドウゾと頷いた。最も、まだ何かあるのか?と言うのが礼威の心境である。
「それで、こんな重大な話をお前達にした理由は2つだ」
「2つもあるので?」
昇の言葉だ。
「ああ、1つはお前達が深く関わった関係者だから、だな」
タケさんの言葉に昇はでしょうねと頷いた。礼威もあの後ウィークエンド達が何処に言ったのか少々気になっていた。テレビでもウィークエンド達が何処に連れ去られてのか一切言わず、罪と法廷に出た場合の量刑に付いてしか触れていなかったのだ。
「もう1つは?」
「ま、自衛隊も一枚岩じゃないんだ。
タカ派も居ればハト派も居る。タカ派はタカ派でもハト派よりのタカ派も居れば、タカ派よりのハト派も居る。そんでもってそういう感じの連中から今回の情報をリークして貰ったんだがね。曰く、ウィークエンドを回収して欲しいってことなんだ」
タケさんの言葉にその場に居た魔法少女達全員が耳を疑う。
「つまり、えぇっと……
自衛隊が防備を固める硫黄島に行って、その中でも特に警備の厳重なウィークエンド達を回収して欲しいって事か?」
健がタケさんの言葉をより分かりやすく告げると、タケさんはそうだと頷いた。
昇と仁はそれに即座に断ると拒否を示し、健も礼威も到底受け入れられる提案ではないと言う顔だ。当たり前である。彼等の仕事はキメラを討伐する事であり、国家の陰謀めいた事の為に戦う訳ではない。彼等は皆、魔法少女でありエージェントでもスパイでもない。
4人の反応に柳葉はそら見ろと言わんばかりにタケさんを見た。
「やっぱりダメか」
タケさんは最初からアテにはしてなかったと言う表情で笑ってみせる。
「今の情報知ってるだけでも相当ヤバい立場になったのにこれ以上首突っ込むのは、地雷原の上でコサック踊るようなもんです」
生憎と言って僕は死ぬのが惜しいですからね、と昇が言うと仁も健もその通りだと頷き、礼威は硫黄島と自衛隊の秘密部隊の話はそんなレベルの問題だったのか驚愕する。
「だがまぁ、あれだ。
お前等がウィークエンドと関わりがある以上は奴さん等も何らかのアクションをしてくるだろう。気を付けてくれ」
「何をどう気を付ければ良いんですか?」
「何等かのアクションがあったら直ぐに俺に言え。
コチラと歩く独裁者だ。それなりの地位はある」
柳葉がそう告げる。その目はその寄れたスーツからは想像できない程に精悍な目であった。取り敢えず、今日は解散となり、柳葉、織田、タケさんの3人は帰っていったが昇、仁、健の3人は居残った。
「……あの、まだ何か?」
「お前の食生活は乱れ切っている」
昇の言葉を発端に滾々と食とそれに関わる生活や魔法少女としての戦いへの影響を話され、最終的に礼威への料理教室が始まったのだった。




