十四 じょーおーさまとの日々
「ねえねえ、ニキ~ズちゃん?」
「何ですか、パッシュさん」
「今日は、あなたの十五才のお誕生日よね?」
「そうですよ」
「もしかして王様から、夜にお部屋を訪問するように言われてな~い?」
「何で知ってるんですか!?」
つい、椅子から立ち上がってしまいました。慌てて、座りなおします。
普通、国王陛下の奥さん同士は、バッチバチだと聞きます。しかし、私は正妻のパッシュさんとは、仲良くやっていました。
「別に、いいの。私が子供を作っても、次の王様の治世が安定しなくなるだけなの」
そう言うパッシュさんは、寂しそうでありつつも、どこか嬉しそうでした。あなたのライバルにならないわ。そう、言いたげでした。テンイムホウ王国での立ち居振る舞いを教えてくれたり、王宮のドロドロした公爵家間の八角関係を教えてくれたり、可愛いお洋服をお下がりしてくれたりしたのも、全部パッシュさんでした。わたくしのお姉ちゃんみたいな存在でした。
「良~い? 一回しか、教えてあげないからね? 一子相伝の秘術よ」
「分かりました。イッシソーデンの秘術、覚えます!」
また、パッシュさんに笑われてしまいました。
パッシュさんはニヤリと目を細めると、いきなり指を絡めて、恋人繋ぎをしてきました。ちょっと、ドキッとします。
「ねえ~」
物凄い甘ったるくてナマメカシイ声が聞こえます。ちょっと、鳥肌が立つほどでした。そのままパッシュさんはくちびるを近づけてきて、あ、あ、とっさに目をつむって口を少しすぼめてしまいました。パッシュさんのくちびるまで、三インチ、二インチ、一インチ……!
「っていう感じでちゅ~すると、王様、すっごい喜んでくれるよ」
急に、顔が真っ赤になりました。とても、恥ずかしかったです。
部屋は、とても暗いです。王様のベッドルームに入ったことは、これまで一度もありませんでした。
「準備はできた~?」
「できてません!」
「どうして~?」
「なんでパッシュさんが居るんですか!?」
「うふふ、うぶちゃんね~」
苦笑する王様は、わたくしの右手に手を重ねてくれました。王様と一緒に居られて嬉しいですが、どうして、目の前にパッシュさんが立っているのでしょうか。
「こうやって、偉い人のイチャイチャは、立会しなきゃいけないの。キスまで見届けたら、私も居なくなるからね~」
ツバを飲み込みました。やるしかないのでしょう。喉を鳴らしました。出来るだけ、色っぽい声!
「ねえー」
王様はパッシュさんを見ました。
「受け売りか?」
「何のことでしょうか~」
コンコンコン。
王様の溶けた顔が、急に仕事の顔になりました。王様の手の下にあったわたくしの手をわたくしのお膝の上に戻します。
「通してくれ」
「御意」
パッシュさんの声も、「ギョイ~」ではありませんでした。
入ってきたのは、そう、マトトお兄様でした。確かお兄様は、ブライトさんと戦いに行った副団長さんのはず。そんな方の報告。ブライトさんはこの場に居ない。もう、わたくしでも何を言われるか分かりました。
「申し訳ございません、陛下。ブライト親衛隊団長は、戦死しました」
「……分かった。詳細は、明日聞こう」
「仰せのままに。それと、ニキーズ妃。こちらを」
渡されたのは、スナーお兄様のネックレスでした。
「言伝は、伝えたそうです」
「ええ、分かりましたわ」
お兄様の前でも、王様が居る以上、兄弟のような親密なやり取りはできません。立場がお互い変わったことをよく知りました。マトトお兄様が去ると、王様のお顔が、若干トロトロに戻りました。完全には、戻りませんでしたが。
「じゃあ私は、ここらへんで~」
「あれ、パッシュさん、見届けないのですか?」
「何を~? 口にされなきゃ、分からないよ?」
「ちゅ、ちゅう……」
「別に、朕と二人でいることを確認さえすれば、役目は終わりだ」
また、顔が真っ赤になりました。パッシュさんは、策士さんです。
「じゃあ、楽しんでね~」
……バタン。
「……さあ、心の準備はできたかい?」
「……」
少し、手に温かみを感じました。ナミダが、目からこぼれ落ちたのです。大事な人が、二人も死んだからです。王様は、そんなわたくしのナミダを拭いてくれながら、甘い初夜を、見せてくれました。
コクオウヘーカは、大変なお仕事です。沢山来るニュースを確実に受け止め、しかもすぐに心入れ替えて臨まないといけないのですから。わたくしの心は、そう簡単に入れ替えられないほど、グチャグチャしてしまいました。




