十三 頼み事
茶色いコートにウェスタンハット。そして薄緑の私と同じ混血姿。間違いなく、サンサンです。丁度良い、ここで会ったが百年目!
私は涙を我慢して、前線へと突撃しました。
「朕は、神命王であるぞ!」
「仰せのままに!」
兵士の士気はより高揚し、前線をとめどなく崩します。しかし、そこでは止まりません。オカメハチモクの混血の兵士をランスで突き飛ばすと、サンサンの馬めがけて突き進んでいきました。
〈サンサンー!〉
〈お前は!〉
サンサンの不意を突かれた声は裏声です。
〈サンサン様!〉
近くのオカメハチモクの兵士が援護に来ました。
〈こいつは俺でどうにかする! 邪魔すんな!〉
まさかまさか、味方の頭の少し上に小銃を打ちました! そいつの帽子が飛んでいきました。怖気づいて近づくことはもう出来なそうです。サンサンは、小銃を捨て、腰に掛けていた、サーベルを引き抜きました。
〈ついて来いよ、混血!〉
しばし逃げるサンサンを追いかけます。クモの巣に引っかかるように、誘導されているのでしょうか。いや、鏡の目を持つこの野郎は、そんな卑怯な真似はしないはずです。
〈ここなら、邪魔は入らないだろ?〉
〈そうだな〉
少し鬱蒼とした密森にポッカリ空いた、開けた場所でした。
さあ、始まる!
先行を貰います! ランスで思いきり突きます。サンサンの茶色い馬の横腹に命中し、馬はあっけなく横倒しとなりました。白馬から飛び降り、旗も投げ捨て、その首を狙おうとしましたが、すぐに体勢を立て直したサンサンのサーベルに弾かれました。
〈王国のために!〉
〈何が王国だ!〉
死闘、死闘、死闘。互いのランスとサーベルは、静かな森で華やかな金属音をけたたましく奏でていました。まさに戦場のバイオリンです。
カッチャーン! カッチャーン! カッチャーン!
ザクッ!
不意に、誰かが斬られる音がしました。瞬きをすると、ああ、軽やかな夕焼けがティリティリと私を包んでいました。フワフワとした地面の香りがし、ようやく、右肩から左脇腹に掛けて肉がスパッと切られたのが分かりました。血が、トロトロと蜂蜜のように流れているのかもしれません。胸に乗せた手のひらに、温かみがありました。
上から、誰かがのぞき込んでいます。
サンサンでした。
〈大丈夫か?〉
〈あなたがやったのに?〉
〈……それもそうだな〉
〈私、自分の夢を叶えられたかしら〉
なんで、最期に、この男に、こんなことを、聞いている、のでしょうか。
〈ゼロ点。だってお前の恰好、テンイムホウの、神命王のコスプレだろ?〉
ニンマリと、サンサンは私を舐めるような視線で見ていました。
〈そうね〉
向こうも、もうホッとした口ぶりで喋っています。
〈でも〉
〈うん?〉
〈でも、〈〈王国のために!〉〉って決め台詞は、オーク語だったな〉
涙が、ホロホロ出てきました。
〈だって私、オカメハチモク語知らないし〉
〈ああ、そう〉
この男に、託したくなることがありました。
〈内ポケット〉
〈ああ?〉
まさぐられています。こんなに、嫌いな奴だけど。サンサンは、中に入っていたペンダントを取り出すと、パカッと開けました。
〈何これ、絵?〉
〈うん。お父さんと、お母さんと、三人で頑張って二時間くらい動かなかった〉
〈そっくりだな〉
〈返してほしいの〉
〈え?〉
〈お父さんと、お母さんに〉
〈なんで俺に頼むんだよ〉
〈ほかの人に、言えない〉
〈分かった。気が向いたら、返す〉
そう言い残して、私の視界からサンサンは居なくなりました。それと共に、空もゆったりと、外側から真っ黒になり始めました。スーッと、眠るような気分です。きっと神との審判でも、あいつの目に映った景色が鏡に映し出されるのでしょう……




