学校見学
校門の先には、石畳の道がまっすぐ伸びていた。
その先に大きな校舎が建っており、左右には見たことのない施設がいくつも並んでいた。
遠くからは、生徒たちの声や魔法が弾けるような音も聞こえてきた。
「ひ、広い……。校舎まで歩くだけでも時間がかかりそう」
「この学校は、国内で最も広い魔法学校でな。生徒の数も一番多いのだよ」
「へぇー」
「私たちの家とは全然違うでしょ?こんなに広かったら驚くよね」
リナ姉が私に優しく笑いかけた。
「うん!」
「ちなみにお城はもっとでかいぞ!」
「ほんと!?」
「ああ!それに私たちは入ったこともあるぞ!」
「すごーい!」
すると、ミア姉が意外なことを教えてくれた。
「ノアも入ったことがあるんだよ」
「ええ!?」
「そのときのノアは一歳だったから覚えてなくても仕方ないよ」
ミア姉の言葉に続いて、リナ姉も口を開いた。
「セドリックさんと会ったのも、そのときだよ」
「へぇー」
十年前って、いったい何があったんだろう。
セドリック校長先生と会っただけでなく、お城にまで入ったことがあるらしい。
何も覚えていないことが、少しだけ悔しかった。
「さあ、校舎に着いたぞ。まずは教室を見て回ろうか」
セドリック校長先生は校舎のドアを開け、私たち全員が入るまで押さえてくれた。
私たちが玄関を通ると、床に描かれた魔法陣が淡く光った。
靴についていた砂や泥が、光に包まれて消えていく。
「わぁ!靴がきれいになった!」
「校舎を汚さないための浄化魔法だよ」
「そういえばお城にもこんなのあったような」
ミア姉は足元の魔法陣をじっと見つめた。
「お城のものも、この玄関の魔法陣も、わしが作ったのだよ」
「時間があるときに、私にもこの魔法陣の作り方を教えてもらえませんか!?」
「興味があるのか?」
「はい!」
さっきまで校舎や周りの施設を眺めていたのに、今はもう魔法陣のことで頭がいっぱいらしい。こういうときのミア姉は、いつも本当に楽しそうだ。
「分かった、今日の学校見学が終わったら教えよう。ミアならすぐに覚えられるだろう」
「良かったな、ミア!」
「うん!」
「では、ついてきなさい」
セドリック校長先生は長い廊下を歩き出し、私たちもその後についていった。
廊下の左側には教室が並び、扉の横についた窓から中の様子が見えた。
「誰もいないな」
レナ姉が、最初の教室を覗き込んだ。
「そうだね」
教室には誰もおらず、天井の明かりも消えていた。机と椅子だけが、きれいに並んでいた。
「この教室の生徒たちは、今ごろ運動場で授業を受けているのだろう」
セドリック校長先生はそう言って、再び廊下を歩き始めた。
次に通りかかった教室には、明かりがついていた。中からは、先生らしき人の声が聞こえてきた。
黒板の前では先生が何かを説明し、生徒たちは真剣な表情でノートに文字を書いていた。
本でしか知らなかった「授業」が、今、目の前で行われている。
私もいつか、あの席に座れるのかな。
「ちょうど社会の授業で魔女族について学んでいるようだな」
耳を澄ますと、先生の説明がはっきりと聞こえてきた。
「魔女族は、人間とよく似た姿を持つ希少な種族です。外見だけで見分けるのは難しいですが、ほかの種族より魔力量が多く、独特な魔力を持つといわれています」
魔女族……?
今、私たちの話をしているのかな。
そのとき、窓際に座っていた一人の生徒が私たちに気づいた。
「先生、あの人たち……魔力の感じが、ほかの人と違います」
その生徒が窓の外にいる私たちを指さすと、先生やほかの生徒たちも一斉にこちらを向いた。
「もしかして、本物の魔女族じゃないか?」
教室の中が、たちまちざわつき始めた。
先生も私たちの魔力を確かめるように目を凝らし、驚いたように目を丸くしていた。
これほど大勢の人から一度に見つめられたことなんてない。怖くなった私は、リナ姉の後ろへ隠れた。
リナ姉は私を隠すように少し横へ動き、そっと手を握ってくれた。
「あー。私たち、有名人になった気分だな!」
「何言ってるんだよ、レナ姉。明らかに私たちが授業の邪魔をしてるじゃないか!」
「皆さん、今は授業中ですよ。前を向いてください!」
先生が注意すると、生徒たちは名残惜しそうに黒板へ向き直った。
本物を見ただけで教室中が騒ぎになるほど、魔女族は珍しい種族なんだ。
今まで森の中で暮らしていた私には、そんな実感なんてまったくなかった。
「どうやら、お主らはずいぶんと目立つようだな。これ以上授業の邪魔にならないうちに、先へ進もうか」
セドリック校長先生は軽く笑い、再び廊下を歩き始めた。
一階の教室をひと通り見終えると、私たちは二階にある魔法理科室の前までやって来た。
魔法理科室の中には見たことのない道具がたくさん並び、生徒たちは先生の指示に従って、それらを扱っていた。
「この魔法理科室には、魔石の魔力量を測るものや、魔石の形を整えるもの、簡単な魔法薬を作るためのものなど、いろいろな魔導具があるぞ」
「見たことのない魔導具が、こんなにたくさんあるよ!」
ミア姉は目を輝かせながら、いろいろな魔導具を見つめていた。
その後も、四階建ての校舎にある図書館や食堂など、いくつもの場所を案内してもらった。どの場所も、迷いの森で暮らしてきた私には新鮮なものばかりだった。
セドリック校長先生は腰の懐中時計を取り出し、文字盤に目を落とした。
「さて、そろそろ正午だな。お主たちはどうする?ここの食堂で昼食でも取っていくか?」
「うーん、遠慮しとく。私たち、二時間くらい前にケーキを食べたばっかりなんだ」
レナ姉が答えた。
そのとき、校内に鐘の音が鳴り響いた。
「正午を知らせる鐘だな。これから生徒たちが一斉に廊下へ出てくる。混み合う前に、次は外の訓練場を案内しようか」
私たちは、生徒たちが教室から出てくる前に校舎の外へ出た。
すると、訓練場の方から背の高い男性がこちらへ歩いてきた。
短く整えられた濃い藍色の髪に、鋭い灰緑色の瞳。右の眉には細い傷が残っている。王立魔法学校の校章が付いた濃紺の制服を身にまとい、腰には黒い短杖を下げていた。
無駄なく鍛えられた体と隙のない立ち姿から、ただ者ではないことが伝わってくる。
「校長、その方たちは?」
「昔からの知り合いだ。こちらはレナ。そして、その妹たち」
その人はレナ姉の名を聞くと、灰緑色の目をわずかに見開いた。
「あなたが、あのレナさんですか」
「あのって、どのレナか知らないけど、私はレナだぞ!」
「申し遅れました。私はカイル・アステル。この学校で警備隊長と実戦魔法の教官を務めています。あなたの話は、以前から校長に伺っていました」
警備隊長はレナ姉の前まで歩み寄ると、真剣な表情で告げた。
「突然のお願いで申し訳ありません。私と一度、手合わせをしていただけませんか?」
「手合わせ?」
レナ姉の目が、楽しそうに輝いた。




