魔剣顕現
まさか、迷いの森の管理人と、この学校で会えるとは思わなかった。
目の前に立つレナさんは、これから手合わせをするというのに、緊張した様子もなく楽しそうに笑っている。
だが、その小柄な体から感じる魔力は、今まで戦ってきたどの相手とも比べものにならない。
「校長、闘技場を使ってもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
「では、闘技場へ移動しましょう。ここでは周囲を巻き込む危険があります」
「分かった!早く行こうぜ!」
「レナ姉、大丈夫なの?勝てる?」
「ああ!お姉ちゃんの戦いをよく見とくんだぞ!」
「うん!」
闘技場へ向かっている途中、数名の生徒が私たちに駆け寄ってきた。
「あれ、カイル先生。どこへ行くんですか?」
「闘技場だ」
「もしかして、校長先生と模擬戦をするんですか?」
「いやいや、カイルと手合わせをするのは、こちらのレナだよ」
校長は軽く笑いながら、レナさんの肩に手を置いた。
「ええ!? この人がカイル先生と模擬戦をするんですか? ちょっと大人げなくないですか?」
「はっはっは。カイルが勝つのは、少々厳しいかもしれないな」
「あのカイル先生が?」
「校長、私は負けるつもりはありません」
「その模擬戦、僕たちも見てもいいですか?」
「見学は構わない。ただし、闘技場を囲む防護結界の内側には絶対に入るな」
私は生徒たちへ念を押した。
生徒たちは嬉しそうに顔を見合わせると、友人たちへ知らせるために走っていった。
私たちが闘技場へ到着してしばらくすると、噂を聞きつけた数十人の生徒と数名の教師が、次々と観客席へ集まってきた。
「ふむ。レナとカイルの手合わせなら、今の防護結界では少々心もとないな。念のため、強化しておこう」
校長は観客席にいた数名の教師へ声をかけた。
「観客席にいる教師たちは、わしと一緒に防護結界を強化するように!」
「ええっ!?せっかくの昼休みなのに!」
「見学代だ。ほれ、さっさと来い」
「横暴だー!校長の職権乱用だー!」
教師たちは口では文句を言いながらも、すぐに席を立って校長のもとへ集まった。校長のそばには結界の制御台があり、その中央には、闘技場の防護結界を維持する赤いB級魔石が埋め込まれていた。
「あの、私たちもお手伝いしていいですか?」
レナさんの妹のうち二人が、校長へ歩み寄った。
教師たちは何か言いかけたが、二人の魔力量を感じ取ったらしく、驚いたように口をつぐんだ。
「助かるよ。教師たちだけでは少々心もとなくてな」
「ちょっと!それは聞き捨てなりませんよ!」
「そうだ、そうだ!私たちだって王立魔法学校の教師ですよ!」
「はっはっは。では、強化したあとにもう一回その言葉を聞こうかな」
全員がB級魔石を囲む魔法陣へ手をかざすと、校長が詠唱を始めた。次の瞬間、それぞれの魔力が淡い光となって魔法陣を伝い、中央の魔石へ流れ込んでいく。
やがて、闘技場を囲む防護結界が、先ほどよりも強い光を帯び始めた。
詠唱が終わると、教師たちは力が抜けたようにその場へ座り込んだ。一方、レナさんの妹二人は、何事もなかったように立っている。
「ん?どうした、お主たち。もうへばったのか?」
「もう無理ですよ。魔力がすっからかんです……」
一人の教師が座り込んだまま答えた。
「ミアとリナはまだ平気そうだぞ。教師であるお主たちが先にへばってどうする」
「無茶言わないでくださいよー……」
「はっはっは。少しだけ魔力を分けよう。受け取ったら観客席へ戻りなさい」
校長が教師たちへ手を向けると、淡い光がそれぞれの体へ流れ込んだ。少し元気を取り戻した教師たちは、ぶつぶつと文句を言いながら観客席へ戻っていった。
結界の強化を手伝っていた赤いリボンの少女が、レナさんのそばにいた末の妹へ声をかけた。
「ノア、観客席に行くよ!」
「うん、リナ姉!じゃあ、レナ姉、頑張ってね!」
「おう!任せろ!」
妹たちが観客席へ向かうと、レナさんと私は防護結界の内側へ入り、闘技場の中央で向かい合った。
校長が私のそばへ近づき、肩を軽く叩いた。
「カイル、レナを相手に手加減は必要ない。最初から全力でいきなさい」
私は、この学校の生徒たちを守れるだけの力が自分にあるのか確かめたい。そのためにも、最初から全力で挑む。
「言われなくても、そのつもりです」
「ただし、無茶はするなよ」
「それは私ではなく、レナさんに言ってください」
「はっはっは。それもそうだな」
校長は小さく笑いながら私たちから離れ、防護結界の外へ出た。
校長の口調はいつもと変わらない。
けれど、私を心配していることくらい、その声を聞けば分かった。
昔から、この人は心配していることを素直に口にしない。
「では両者、構えて」
私は腰から黒い短杖を抜き、右手でしっかりと握った。
一方、レナさんは構えを取ろうともせず、楽しそうにこちらを見ている。
校長が右手を高く上げた。
「始め!」
校長が手を振り下ろした。
ゴォーン!
開始を告げる鐘が、闘技場に鳴り響いた。
「魔剣顕現」
私の目の前に、手のひらほどの藍色の渦が現れた。
短杖を握ったまま右手を渦の中へ差し込む。渦の奥で、短杖が別の形へ変わる感触が手のひらへ伝わってきた。
新たに現れた柄を握り、一気に腕を引き抜く。
渦の中から最初に現れたのは銀色の鍔だった。続いて、淡い青緑色の光をまとった刀身が姿を現す。
私が腕を完全に引き抜くと、藍色の渦は静かに消えた。
その手には、黒い短杖を核として生み出された一振りの魔剣が握られていた。




