2-2.推しの単独公演
ジャンがアウレリア劇場に初出演してから半年が過ぎた頃、エリザベートは温めていた計画を実行することにした。それは、ジャンの単独演奏会だった。
演劇を上演するために建てられたアウレリア劇場で、歌唱の演奏会を開くのは、前例のないことだった。エリザベートが計画を支配人に伝えると、案の定、難色を示した。
「ジャンの人気と実力は認めています。しかし、演劇のための劇場で、歌のみの演奏会など……客が集まるかどうか……」
「いいえ、必ず成功するわ」
エリザベートは支配人を真っ直ぐに見つめて言った。
「演劇とは異なる客層を取り込めるはずよ。音楽を愛する人々がこの劇場に足を運んでくれれば、劇場の収益に貢献する。ジャンの歌を聴きたい人は、王都中にいるはずだから」
エリザベートには確かな自信があった。
支配人はしばらく口元に手を当てて黙り込んだが、最終的には「シモン子爵が許可されるのであれば……」と愛想笑いを浮かべた。
「わかったわ。父の許可はすぐに取ってきます」
支配人は、前例のない演奏会を開催して失敗することを恐れていた。エリザベートが「支配人はジャンの人気と実力を認めている」と伝えると、父は演奏会を許可した。エリザベートは頬をゆるめた。父と支配人の思考はとても単純だったから。
ジャンの演奏会の企画と演出は、エリザベートが手がけた。曲目の選定、舞台の装飾、衣裳、出演者の人選。エリザベートは関係者と何度も打合せを重ね、寝食を忘れるほどに準備に没頭した。
ジャンもまた、ベルナールのもとで稽古を重ね、単独公演にふさわしい歌唱を磨き上げた。
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ジャンの単独演奏会の当日、エリザベートの予想通り、アウレリア劇場は満員の観客で埋め尽くされた。
演劇の合間の五分間の歌唱ではない。ジャンの歌声が劇場を支配する。ジャンと出会ってからずっと、エリザベートが思い描いていた演奏会だった。
エリザベートの目論見通り、単独演奏会は大成功した。ジャンの歌声は観客の心を掴み、終演後には鳴り止まぬ拍手が溢れた。この夜を境に、ジャンの名は王都中に知られることになった。
歌や管弦楽を聴きたい客層を新たに取り込むことに成功したのだから、この演奏会はアウレリア劇場にとっても大成功だった。劇場の評判は社交界で話題となり、シモン子爵家の名声を高めることに貢献した。
演奏会の成功を目の当たりにした父は「私の予想は確かだった」と、支配人は「こうなることは分かっていました」と熱を帯びた口調でエリザベートに語った。
二人の自画自賛に、「さすがですね」とエリザベートは苦笑いを浮かべた。
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エリザベートが企画し、演出した舞台が、これほどまでに人々の心を動かした。エリザベートは深い満足感に包まれていた。
エリザベートは、演奏会が終わったジャンの楽屋を訪れた。
「お疲れ様、ジャン。このままいけば、この国で一番の歌い手になれるわね」
エリザベートが弾むように言うと、ジャンは汗を拭いながら苦笑いした。
「すべて、エリザベート様のおかげです」
「そうね。私のおかげね」
エリザベートが目を細めると、ジャンは頭をかいた。「ふっ」とエリザベートが笑うと、ジャンもつられて笑った。
その笑顔の裏で、エリザベートに小さな不安が生まれていた。
単独演奏会の成功で広く名を知られるようになったジャン。彼を一目見たい、彼の歌を聴きたいと願う者は、国中にいた。他の劇場からの引き抜きの噂も、エリザベートの耳に届いていた。
ジャンはもう、貧民街の路地裏で歌っていた少年ではない。エリザベートの庇護を超えて、ジャンは世に羽ばたこうとしていた。
自分が育てたジャンが、いつか自分の手の届かない場所へと飛び立ってしまうのではないか。エリザベートの不安は日に日に大きくなった。
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