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夜と流星のマージナリア  作者: はなの かぬれ
第一章 創世・エデン編

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第44話「水辺の約束」

リリスは、いつもより早く目を覚ました。

白い外套は、昨夜もリリスを冷たさから遠ざけてくれた。

もう、使うことにあまり迷わなくなっている、そう気づくたびに胸の内が落ち着かなくなった。

けれど、草だけでは眠れなかった夜を身体は覚えてる。

根の硬さに何度も目を開けたことも、肩を丸めたまま朝を待ったことも。


リリスは外套の端を撫で、それから菫色の花と白い羽を見た。

羽は、今日も花の隣にある。

小さな白い羽は、朝の光を待つように、菫色の花のそばで息をひそめていた。

リリスは指先で軽く触れ、折れていないことを確かめる。


失くしたくないもの。


そう言った時のルシファーの少し驚いたような顔を思い出す。

彼は、なぜかすぐには返事をしなかった。

大事にしてくれて、ありがとうと、また変なところでお礼を言っていた。

けれどあの声は、いつもの軽い調子より、もう少し低いところにあった気がする。


リリスは羽から手を離した。

今日は、水辺へ行く約束を自分から取り付けた。

明日は、もっと早く来るかと聞いて、水浴びがしたいと、お願いした。


お願い。

その言葉を思い出すと、胸の奥がかすかに揺れる。

頼り切ったわけでも、何もかも任せたわけでもない。

ただ、自分がしたいことに、少しだけ付き合ってほしいと小さな願いを言ったつもりだった。

ルシファーは、それをそのまま受け取ってくれた。

 

リリスは白い衣の裾を見下ろす。

エデンから来た時のままの、袖は短く、布のやわらかい簡素な白い衣。

庭にいた頃は、清潔で、軽く、動きやすいだけの衣だった。

けれど今は、裾に土がつき、草の色が薄く移り、潮風の匂いも混じっている。

何度も森で眠り、海辺を歩き、小川で半ば無理やり身体を清めていたせいで、白は少しずつ、庭にあった白ではなくなっていた。


洗いたい。

自分の身体も、髪も、この衣も。

それから、夜ごと自分の背中を支えてくれている、この白い外套も。

誰かに整えてもらうためではなく、自分が気持ちよくいるために。


森の向こうで草を踏む音がして、リリスは顔を上げる。

枝の間に、ルシファーの白い姿が見えた。

リリスは立ち上がった。


「早いのね」


声に、驚きが混じった。

ルシファーは、いつものようにわずかに笑う。


「君が早くと言ったからね」


「……言ったけれど」


「うん。だから来たよ」


それだけだった。

リリスは返事を忘れ、外套を胸に抱え直した。

強く頼んだわけではなかったのに、それでも朝になれば、こうやって彼は来てくれた。

ルシファーは片腕に布を抱えていた。

昨日まで式服の肩を覆っていた、短いケープのような布だった。

外套よりは短く小さい。

けれど、しっかりした厚みがあり、手触りもよさそうだった。


「それは?」


「髪を拭くものがいるかと思って。 装飾はできるだけ外してきたんだけど、多少使いづらさはあるかもしれない」


リリスは瞬きをした。


「それも、あなたのものでしょう?」


「そうだね」


ルシファーは、あっさり頷いた。


「でも、今は君の髪が困っているだろう?」


リリスは言葉に詰まった。


外套を貸してくれた時にも、似たようなことを言われた気がする。

今は、君の背中の方が困っている。

今度は髪。

この天使は、自分のものをずいぶん簡単に差し出してしまう。


「あなたって、物の使い方が大胆なのね」


「そうかな」


「天使の服って、そうやって分けるものなの?」


「どうだろう? 俺も今日初めてそうしたかもしれない」


真面目な顔で言うので、リリスは軽く息を吐いた。


「本当に変な天使」


「今日は不便な天使ではなく?」


「両方よ」


「それは手厳しいな」


ルシファーは困ったように笑った。

リリスもつられて笑い、白い外套を胸に抱えなおした。



 

 

二人は泉へ向かって歩き始めた。

ルシファーは前を歩いたが、先へ行きすぎることはなかった。

枝の多いところでは歩幅をゆるめ、足元に根が出ている場所では、言葉ではなく視線だけで知らせる。

手を引いたりはせず、進む先を示し、それからリリスが歩いてくるのを待つ。


三天使も、道を示すと言った。

けれど、その言葉の先には、いつもあの場所が、庭があった。

アダムの隣、神の残した席、戻るべき場所。


ルシファーの案内は違う。

リリスが行きたいと言った水辺へ、ただ一緒に向かっている。

リリスは歩きながら、改めて彼の背中を見た。

銀の髪、白い式服、六枚の羽。

枝に引っかからないよう気をつけているらしいのに、今日もすでに小さな葉が二、三枚ついている。


同じ天使なのに。

やはり、どこか違う。

 

しばらく歩くと、森の奥で水の音が変わった。


細い流れが集まり、浅い音から、少し深い音へ移っていく。

枝葉の向こうに光がほどけ、水面がちらちらと揺れていた。

そこには、澄んだ泉が広がっていた。

大きくはなかったけれど、小川よりはずっと広い。

片側から細い水が流れ込み、反対側へ静かに抜けていく。

泉の上には木々の枝や葉が生い茂り、空からは見えにくくなっている。

木漏れ日は水面で揺れ、底には丸い石や折れた木々がいくつも沈んでいた。

水は透き通っていて、深い場所だけ青みを増している。

静寂に満ちた泉の雰囲気に、リリスは足を止めた。

 

入り江の海とは違う。

海はあまりに広く、どこまでも続き、風も匂いも、知らないものばかりだった。

けれどこの泉は、森の中でひそかな呼吸をしているように見えた。

広いのに、怖くはない、深いのに、どこか落ち着いている。


「ここなら、外からは見えにくいと思う」


ルシファーが言った。

リリスは彼を見る。


「……そうね」


その一言の中に、彼が先に考えていたものがあった。


天使が空を飛ぶこと。

誰かに見つかるかもしれないこと。

身体を清める時間を、邪魔されたくないこと。

ルシファーは、きっとそれをわざわざ言葉にしないでくれていた。


「それと」


彼は自分の来ていた上着へ手をかけた。


「衣と外套も洗うなら、乾くまでこれを使うかい?」


白い上着が、彼の肩から外れた。

内側の布は、森の影の中でかすかに紫を帯びて見える。

上着を脱いだ彼は、暗いグレーのシャツに紫のネクタイ、白いスラックス姿になった。

昨日までより、ずいぶん身軽に見えた。

ルシファーはその上着を、リリスでも手の届く、泉のそばの低い枝にかけた。


「嫌じゃなければ、乾くまで使って」


リリスは上着を見た。


「それまで脱いだら、あなたが困るでしょう」


「俺はまだ困らないよ」


「まだ?」


「うん。まだ 服はある」


相変わらずの調子だった。

リリスは眉を寄せる。


「……聞こえるように言うけれど、あなたって、やっぱり変」


「聞こえているよ」


「聞こえるように言ったの」


ルシファーは小さく笑い、それから泉に背を向けて泉の側から離れていった。


「せっかく来たんだ。周りのことは俺が見ておくから、君はゆっくり水浴びしておいで。急に深くなる場所があるかもしれない。足元に気をつけて」


リリスは黙った。

やはり、彼はわざわざ言葉にしないでくれている。

不用意に近づかないことも、見ないことも、彼女がひとりで水へ入る時間を守ることも、彼の中では決めておくべきことらしかった。


「わかったわ」


リリスが答えると、ルシファーは振り返らないまま頷いた。

森の手前で止まると、羽をわずかに広げ、周囲の音を聞くように立った。

リリスはしばらく、その背中を見ていた。

振り返らない。

確かめる気配もない。

そのことを見届けてから、リリスは白い衣の裾に指をかけた。

水浴びをしたいと言ったのは自分だった。

それでも、誰かが近くにいる場所で衣を脱ぐことに、身体はまだ強ばる。


もう一度、ルシファーを見た。

彼は森の方を見ている。

水面の音にも、布の擦れる音にも、反応しないようにしているのかもしれない。

背中はそのまま、振り返らないという約束だけを置いているようだった。

リリスは息を吐いて、衣を脱ぐと草の上に白い布が重なり、風が一度だけ裾を揺らした。


泉へ近づき、水へつま先を入れた瞬間、冷たさに息が詰まる。


「……っ」


思ったより冷たい。

入り江の波とは違う冷たさだった。海は足先に触れてすぐ引いていく。

けれど泉の水はそこに留まり、足首からふくらはぎへ、膝へ、少しずつ身体を包んでくる。

リリスは底を確かめながら少しずつ進んだ。

足裏で石が滑って、触れた藻の冷たさに驚いて胸の奥が縮む。


足元に気をつけて。


ルシファーの言葉を思い出しながら、一歩ずつ慎重に水の中へ入っていく。

やがて、腰のあたりまで水が来たところで、また冷たさに身体が強ばる。

けれど、肌についた潮と汗と森の匂いが、水に溶けていくにつれ、呼吸は少しずつ落ち着きを取り戻していった。


急かすような声はなく、背後の森から、振り返る気配も、呼びかける声もない。

水はただ冷たい、けれど気持ちがいい。

リリスは長い髪を両手でかきわけ、前へ集めた。

菫色の髪は、乾いている時でさえ少し重く、水を含むとさらにずしりと腕や胸にかかった。

小川では落としきれなかった、生え際に入り込んだ潮の匂いや、葉や砂の気配が、いつまでも残っていた。

この泉なら深く沈められそうだ。

リリスがゆっくり髪を水へ浸すと、水面に菫色が広がっていく。

木漏れ日の光を受けて広がる髪は、ところどころ深い紫にも、青にも見えた。

水の中で揺れるそれを見て、リリスは目を見開く。

自分の髪が、こんなふうに水の中で広がることを知らなかった。


エデンでは、いつも誰かの手があった。

洗われ、拭かれ、梳かれ、綺麗に整えられていた。

それが当たり前だった。


けれど今は、自分の手で髪を濡らしている。

水を含ませ、指を通し、絡まったところを少しずつ直す。

うまくいかなくて、何度も引っかかり、強く引けば痛かった。

だから、必然とゆっくりになる。

面倒だとも感じるのに、不思議と嫌とは思わなかった。

身体の汚れを落とし、髪を洗う。

それは、誰かに見せるためでも、役目にふさわしく在るためではない。

自分が、少し気持ちよくなるためのもの。

 

少しだけ膝を折って肩まで沈むと、冷たさが喉まで届き、震えるようにふっと息が漏れた。

それでも、胸の奥はさっきより楽になっていた。

十分に身体と髪を洗い終えると、リリスは泉の縁へ戻った。

草の上に重なっていた白い衣を手に取り、水の中へ引き寄せ汚れを落としていくと、布は水を含み思ったより重くなった。


庭では、濡れた衣をどう扱うかまで考えたことがなかった。

けれど今は、洗えば重くなる、絞らなければ乾かない。

草の上へ不用意に広げれば、また土や葉がつくだろう。

リリスは白い衣が沈んでしまわないよう腕にかけると、次に白い外套を引き寄せた。


夜露と森の匂い、果実の甘さ。

潮風、自分の身体の熱。

いろいろなものが移った白い布を、水の中でゆっくり揺らす。

これは、ルシファーのものだった。

けれど、ここしばらくは自分の夜を支えてくれたものでもある。

リリスは布を傷めないように、丁寧に水を通した。


洗い終えた衣と外套を泉の縁へ引き上げるだけで、腕は重くなった。

水を吸った布は力を入れても思うように水が切れず、大きな外套は特に、両手で押さえてもずしりと重みを保ったままだった。

何度か絞り、ようやくそばにあった大きな平たい石の上へかけると、ぽたぽたと落ちた水が石の色を濃くした。

リリスは息を吐きながら、自分も泉から上がった。


ルシファーはまだ背を向けている。

おそらく、一度も振り返らなかった。

それが分かっただけで、濡れた身体のままでも息が楽になる。


リリスはまず、ルシファーが用意してくれたケープを手に取った。

身体についた水気を押さえ、次に髪を包む。けれど髪は長く、絞っても水を含んで重い。

ケープで押さえても、すぐに布が湿っていくのがわかる。

それでも、何もないよりずっとよかった。

 

リリスは枝にかかった白い上着を見る。


借りるわね。


声にするには気恥ずかしく、心の中でそう言って、その上着を手に取った。

白い上着はリリスには大きく、腕を通しても肩幅が違いすぎて肩から落ちそうになった。

袖は長く、指先が隠れてしまう。

袖を捲るように引き寄せて手を出し、上着の合わせ目を胸の前で抑えた。

まだ乾ききっていない肌に、彼の上着の内側が触れる。

知らない布の重さを、以前ほど怖いと思わなくなっていた。


リリスはケープで髪を拭きながら、ルシファーに声をかけた。


「終わったわ」


ルシファーがゆっくりと振り向いた。

彼の視線は最初にリリスの顔へ向かい、それから、濡れた髪へ移る。


白い上着は、彼女の身体には大きく、肩のあたりで布が余っていた。

紫の裏地が、袖口と合わせ目からかすかに見える。けれど彼は、そこへ長く視線を留めなかった。


濡れた菫色の髪が、まだ水を含んで重そうに背へ流れている。

ケープはすでにしっとり湿っていた。

リリスは両手で髪を軽く絞っているが、水はまだ細く落ちている。

ルシファーは眉を下げた。


「大丈夫?」


「ええ」


リリスは、濡れた髪を見て息を吐いた。


「あまり自分でしたことがなかったから、まだ上手くできないだけ」


ルシファーは、石の上で水を落としている衣と外套へ視線を移し、それから、またリリスへ戻す。


「俺が衣と外套を絞って干そう。君はまず、自分の髪をよく拭くのはどうかな?」


リリスは少し迷う。

衣も、外套も、自分で洗うと決めたものだった。

けれど、今のままではなかなか乾かないであろうこともわかる。

それに、自分の髪もまだ水を含んでいて、全部を一度にこなすには、明らかに手が足りなかった。


「……お願いしてもいいの?」


「もちろん」


ルシファーは、すぐに答えて、石の上の衣と外套を手に取った。

濡れた布は、彼の手の中で重そうに沈む。

傷めないようゆっくり絞り、風の通る低い枝へかけていく。


白い衣と、白い外套。

水を含んだ布は木漏れ日の下で滴を落とし、枝の葉を濡らしていった。


リリスはケープで髪を押さえながら、その様子を見ていた。

自分の衣を、彼が干している、自分が借りていた外套を彼が絞っている。

そのことに胸の内がざわつくけれど、嫌ではなかった。

ルシファーは布を扱う手つきにも、妙に気をつけていた。

早く済ませるために乱暴にはしない。

これはリリスのものでもある、とでもいうように、丁寧に枝へ広げていく。

最後に外套の端を整え終えると、彼は振り返らずに聞いた。


「聞いてもいいかな? 庭にいた時は、そういうのはどうしていたの?」


リリスの手が、髪の上で止まった。

庭、その言葉は、もうずいぶん遠い場所のように聞こえるのに、胸の奥ではまだ近いところにあった。


「庭にいた時は……ガブリエルがやってくれたわ」


「……ガブリエルが」


ルシファーの声は穏やかで、驚きすぎるでもなく、ただ名前を受け取る声だった。

リリスは濡れた髪をケープで押さえながら、続けた。


「ガブリエルはね、私の教育係だったの。何も知らなかった私に、いろいろ教えてくれたわ」


泉の水面が、風で揺れる。


「水浴びの仕方も、髪の梳き方も。食べ物のことも、庭でどう過ごすかも……役目のことも」


ルシファーは何も言わなかった。

沈黙が、リリスの言葉を急かさずに待っている。


「ガブリエルは優しかったわ」


リリスは、濡れた髪に視線を落とした。


「いつも丁寧だった。私の髪が綺麗だったのは、ガブリエルのおかげ」


指先に絡んだ髪を見る。

水を含んだ髪はまだごわついていて、潮と森で傷んだところもある。

ガブリエルが見たら、きっと驚いただろう。

丁寧に梳いて、拭いて、もう少しきちんとしなければと言うかもしれない。

そう思うと、胸が痛んだ。

けれど、その痛みは一色ではなかった。

懐かしさだけでも、嫌悪だけでもない。

ガブリエルは、リリスを雑に扱っていたわけではなかった。

むしろ、本当に優しく丁寧に世話をしてくれた。

でも、その優しさは、役目を教える声と同じ場所にあった。


「今は、ほら、こんなにごわごわ」

 

リリスが困ったように笑うと、振り返ったルシファーは、その笑い方を見てからゆっくり言った。


「これからは、手入れの仕方を覚えないとだね」


「また覚えることが増えるのね」


「大変?」


リリスは、濡れた髪をもう一度ケープで包んだ。


大変だ。

指は疲れる、時間もかかる、うまくいかない。

それでも、誰かが当然のようにやってくれるのを待つより、自分で少しずつ覚える方がいいと思った。


「少し」


リリスは答えた。


「でも、嫌ではないわ」


ルシファーは目を細めた。


「そう」


その返事だけだった。

けれど、リリスにはその短さが心地よかった。

偉いとも、よかったとも、頑張りなさいとも言わない。

ただ、言ったことをそのまま受け取っただけの返事。


泉のそばに、しばらく静かな時間が流れた。

リリスは濡れた髪を拭きながら、ふとルシファーを見る。

上着を脱いだ彼は、天界の名残から遠く見えた。

けれど、白いスラックスも、まっすぐな姿勢も、言葉の端に残る品のよさも、まだ彼が高いところにいた者なのだと知らせている。


最初に会った時から、ただの天使ではないとは思っていた。

ミカエルやガブリエルと同じ、あるいはもっと高いところにいた者なのだろうと。

けれど彼は、あまりにも二人と違った。


曖昧なことを言い、木の上で眠る。

羽に葉を絡ませて、困ったように笑う。

外套を寝床に、ケープを髪拭きに、上着を乾くまでの衣にしてしまう。

見ないと決めれば見ないし、聞かない方がいいと思ったことは聞いてこない。

言葉を、別の形に変えたりしない、ただありのままに受け取る。

リリスは、ずっと気になっていた問いを口にした。


「……ルシファーは、ガブリエルやミカエルと同じ天使なの?」


ルシファーは、すぐには答えなかった。

風が泉の水面を揺らして波紋を作る。

濡れた髪から、また一滴、水が落ちた。


「……どうして、そう思ったんだい?」


「だって、羽が六枚あるし、着ている服も似ていたから」


リリスは彼の羽を見た。

今日も、葉が一枚ついている。


「きっと二人と同じ高位の天使なんだろうな、って思っていたの」


ルシファーは視線を伏せた。

それは困っているようにも、懐かしんでいるようにも見えた。


「そうだね」


彼は静かに言った。


「二人とは、近いところにいたよ」


「近いところ?」


リリスが聞き返すと、ルシファーは間を置いた。


「……俺はね、ミカエルとガブリエルの兄でもあったんだ」


リリスは驚いたというより、言葉の置き場所を見失った顔をした。

濡れた髪を抱えたまま、首をかしげる。


「……兄?」


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