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世界の代行者  作者: 星之矢
第1章 始まりの過去編
9/9

第9話 それぞれが出来ること

第1部 過去への贖罪

 魔術痕が発動したことにより、俺の視界に映っている範囲の人たちが苦しみながら徐々に倒れていった。

 

「何が起こっているんだ!?」


 俺は状況が理解できないまま、近くで倒れている蓮次に駆け寄った。


「蓮次! 大丈夫か!? おい!?」


 うつ伏せになって横たわっている蓮次に声を掛けても反応が鈍い。


「えい……じ……か。お前……は無事……みたい……だな……」


 一体どうしたっていうんだ? 明らかにこの結界が原因だということは分かるが……。


「瑛志くん! 無事だったのですね!」


 俺は声がした方へ振り向いた。


「シエラ! 無事なのか!?」


「ええ、私はみんなとは少し違うようなので、この状況にも対処ができました。

 ですが、私も魔力を吸い上げられて万全とはいきません」


「そうなのか……。この結界は魔力を吸い上げているのか。

 やっぱり突然現れたこの結界が原因ってところだろうね」


「おそらくは。それにこの赤い光の柱が立ち昇っている場所は魔術痕がある場所だと思います。

 そしてこの学校全体に張られている結界はこの魔術痕が原因だと考えられます」


 シエラの考えは状況的に見て俺も納得できる。

 魔術痕から伸びた光の柱は五芒星(ペンタグラム)の形をしている。何の意味があるのかはまだ分からないけど、何の理由もなく五芒星(ペンタグラム)の形がこの結界の中心にあるわけがない。


 この事態を治めるには一体どうしたらいいのかを考えていると、シエラが続けざまに話し始めた。


「そして、中庭に一際(ひときわ)大きな魔力反応が1つ、結界が張られた少し後に現れました。恐らくここにいる人たちの魔力を触媒にして召喚されたものだと思います。

 魔力の大きさからみてこの魔力反応はかなり強い相手です」


 俺は一瞬にして理解した。

 

「そうか、そういうことだったのか!」


 シエラは、俺の顔を見ながらキョトンとした表情をしている。


「あの結界の中心にある五芒星(ペンタグラム)意味だよ!」


「意味……ですか?」


「あれは五芒星(ペンタグラム)なんかじゃなく、逆五芒星(デビルスター)

 つまりは悪魔召喚だよ」


「では先ほど中庭に現れた魔力反応は、この逆五芒星(デビルスター)によって召喚されたということですか?」


「うん、そうだと思う」


 俺は謎が解けてスッキリとした気持ちになったが、状況はそれどころじゃない。


「でもそれだと、この学校にいる人たちの魔力を触媒にしたのなら、かなり強力な悪魔が召喚された可能性があります」


 俺には魔力が感じ取れない。

 だからどれほどの脅威かも分からない。

 だけど、やるべきことは最初から決まっている。


「そいつは今も中庭にいるんだよね?」


「はい」


 なんとなくだが、中庭にいるこの悪魔がこの状況の何かしらに関わっているのだと感じた。

 俺は立ち上がって蓮次の方を見てからシエラへ顔を向けた。


「シエラ、ここは任せてもいいかな?」

 

「一体どうする気なのですか?」


「どうするも何も、どうにかしなくちゃいけないなら、どうにかするまでだよ」


「無計画に突っ込むのは危険ですよ!

 ……中庭にいる敵は今の私たちには手に余る存在です。正直、今の私の力では敵う気がしません」


 俺は手のひらに爪の痕が付くくらい強く拳を握った。


「それでも、今万全に動けるのは俺だけだと思う。だから、俺にしかできないことなら俺がどうにかするまでだよ」


 シエラは顔を下げ、俯いた。


「とりあえずここはシエラに任せてもいいかな?」


 シエラは顔を上げ「はい」と答える。

 

「俺は中庭に行ってくる」


「……分かりました」


 シエラはまだ俺に伝えたいことがあった様子だが、俺がシエラの目を見て強く頷いたことによりシエラも俺も考えていることは同じなんだと理解した。


「くれぐれも気をつけて下さいね」


「うん……!」


 その瞬間、俺が中庭へ向かおうとするタイミングで、何も無い空間から次々と魔獣が湧き出てくる。


「――!? なんだこいつらは!」


 そこには犬型、蛇型、鳥型など様々な魔獣が現れた。

 俺は足を止め、すぐに警戒をする。

 すると、いきなり脳全体にズキンッと鈍い痛みが走った。


「ぅぐっ!?」


「瑛志くん! 大丈夫ですか!」


 俺は片手で頭を押さえ、その場で(うずくま)った。


 こいつらは……見たことがあるような気がする……。

 いや、どこでだ……? 俺はこの魔獣たちを本当に見たことがあるのか? いつ? どこで? 生まれた時から施設しか知らないのに……?


 頭の中の疑問が止まらない俺は頭痛でしかめた顔を上げ、もう一度魔獣たちを見た。


「……っ!?」


 ズキンッともう一度脳に痛みが走る。


 頭が痛い……。なんだ……? どうなっている……。

 知らないようで知っているこの感覚……、俺はこの魔獣たちを本当に知っている……のか……?


「瑛志くん……、ここは私に任せてください」


「……!! それはダメだ。今とさっきじゃ状況が違う!

 ここに倒れている人たちを全員なんて到底守りきれないよ! だから俺も戦う」


「大丈夫です。私の能力であと2人だけですが、動けるようにはできます!

 ですので瑛志くんは中庭に向かってください!」


 シエラは真っ直ぐと俺の目を見て言葉を発した。


「……本当にいいんだね?」


 シエラは力強く頷いた。

 

「分かった。ならここは任せるよ」


「はい。瑛志くんも気をつけて下さい」


 俺は頭痛を我慢しながら不恰好な氷刀を作り出し、襲いかかってくる魔獣の群れを切り倒して中庭まで突き進んだ。


――――――――――――


≪シエラ視点≫


 瑛志くんは無事に魔獣の群れを突破して行ったみたいですが、なんであの魔獣たちは私たちを襲ってこないのでしょうか。

 むしろ瑛志くんだけを狙っている気がします。


 魔獣の群れは瑛志くんを追いかけてこの場から姿を消した。

 

 私は何か嫌な予感がしましたが、今このチャンスを逃す手はないと思った。

 でも誰を動けるようにするかを決めかねていた。

 

「シエラ……俺を……動けるようにしてほしい……!」


 苦しげな表情をしながら蓮次くんは言う。

 その瞳に宿る意思を受け取り私は了承する。


「蓮次くん……、分かりました。少しだけ私に時間を下さい」


 私は地面に両膝をつき、周囲の魔素(マナ)を溜めて蓮次くんに向けて両手を開いて突き出した。


選聖の守り(クリアベール)


 私の手の先からは青白い魔法陣が現れ、蓮次くんの身体を魔法でコーティングした。


「これは……すげぇ!」


 蓮次くんは立ち上がり身体の調子を確かめた。


「動けるようになったとは思いますが、吸い上げられた魔力は元には戻っていないので無理はダメですよ」


「分かった。それにしてもこれは只事じゃなさそうだな」


「ええ、魔術痕が発動しました。

 今、瑛志くんが一際大きい魔力反応がある中庭に向かっています。

 私たちは後もう1人動けるようにしてからこのグラウンドとは別に2年生がいる体育館、3年生がいる魔術訓練場に向かわないといけません。

 幸いにも今は魔獣たちは私たちの目の前からはいなくなりました。ですが、他の場所ではどうなっているかは分かりません」


 蓮次くんは少し考えてから私に話し始めた。


「なるほどな。自分の中で納得させたけど、瑛志は本当に1人で大丈夫なのか?」


「私も心配ですが、今は瑛志くんを信じましょう」


「……そうだな」


 瑛志くんが大丈夫だと言うのでしたら私たちはその言葉を信じるだけです。


「なら、あと復活させる1人は神威のやつにしないか?」


「神威くんですか?」


「ああ、あいつは体力テストで学年で1番と言ってもいい程の実力があるのは全員が見てたから分かるだろ?

 だから神威なら心強いし頼り甲斐がある気がするんだ」


「……分かりました。では神威くんを動けるようにしましょう」


 私たちは神威くんを動けるようにするため、神威くんが倒れている場所まで向かった。


 それから私は神威くんを選聖の守り(クリアベール)で動けるようにし、今起こっている状況を説明した。


「なら俺は3年生がいる魔術訓練場に向かう。天宮とシエラさんはどうするんだ?」


「俺は体育館に行って2年生の様子を見てくる。シエラはここに残って魔獣たちに倒れている人たちが襲われないかを見張っていてくれないか?」


「分かりました。万が一のことも想定して行動することにします。

 お2人もくれぐれもお気をつけて」


 蓮次くんと神威くんはそれぞれ自分が向かう場所へ走って行った。


――――――――――――


 結界の外側で、ことの一部始終を観察している魔人ゼルゲディア。

 

「流石は膨大な魔力が集まる場所だなぁ。吸収した魔力がこれだけ膨大だと“あのお方たち”の復活の日もそう遠くはなさそうだ」


 ゼルゲディアはニチャァと笑いながら期待通りに膨大な魔力を集めることができたことに喜んでいる。

 

「結界は上手く張れたようだが、この結界内をエイジ以外にも動けるヤツがいるとはなぁ。

 魔獣どもはエイジを集中して襲うように命令していたが、コイツらも邪魔だなぁ」


 ゼルゲディアは掌から赤い魔法陣を出して結界内にいる魔獣に命令変更の魔法を施した。


「さぁーてお手並み拝見といくか。

 やるべきことをやりつつ、オレ自身も楽しまねぇとなぁ。

 せっかくの機会だ、他にも試したいことがあるしな」


 そこへ仙道遼司(せんどうりょうじ)、エイミー・ターナー、五十嵐天也(いがらしてんや)が学校に到着する。


「ん? あいつらは確か……」

 

 3人は学校の敷地内に入ろうとしたが、結界で防がれているため中に入れないでいる。


「一体どうなってやがる!?」


「これは、かなりまずい状況かもしれないね……」


「どいて2人とも! 私がやる!」


 そう言ってエイミーが右手の人差し指を出して魔術を放った。


指銃貫水(アクアショット)!」


 貫かれたらひとたまりもないであろう鋭い水の弾丸が、一直線に線を描き結界へと一瞬で到達する。

 そして音を立てずに消える。


「……っ! 今のは!?」


「今のは放った魔術が吸われたようにも見えたね」


「おいおいおい、もし仮に魔力を吸い取るっていうならこの中はもっとやばいことになってるんじゃねぇのか?」


「そうかもしれない……」


 遼司とエイミーは次にどう行動するべきかをアイコンタクトをして互いに理解していた。

 だがそこで天也が違う提案をした。


「次は俺が試してみてもいいか?」


「……ええ、いいわよ。何か策があるの?」


「いや、特には。でもどの程度の攻撃が通用するのかも知っておきたい」


「時間は待ってはくれないのだからやるなら早くお願いね。もし通用しないと分かったらすぐに神城局長に報告するわよ」


「ああ、分かったよ」


 そう言って天也は身体中に魔力を溜める。


拳桜闘技(けんおうとうぎ):(:)風刃魔弾(ふうじんまだん)()連舞(れんぶ)――!」


 身体を翡翠(ひすい)色で可視化された風で纏い、纏った風の中に桜色の花びらが舞っている。

 その状態で、闘技を連続で結界に叩き込む。


「……っ!? やっぱりダメだ。魔力が吸われ続けるだけだ」


「打撃自体は悪くなさそうに見えたけどね。

 まぁでも、結果が結果だし神城局長に連絡するわね」


「――そうはさせねぇよ」


 そこへ見覚えのある人物が姿を現す。


「――!! お前は!」


「5年ぶりだなぁ、仙道遼司、エイミー・ターナー。お前は初めましてだな」


「お前の仕業だったか、ゼルゲディア……!」


「こいつがゼルゲディアか」


 遼司、エイミー、天也は警戒心を強めて隙がない構えをした。


「まぁ落ち着けよ。お前達が何もしなければ俺からは手を出すつもりはねぇ。

 それに今、良いところなんだ。これ以上邪魔はしないでくれるか?」


「この中で何が起こっている。答えろ!」


「逆に何が起こっていると思う?」


「あの結界上の中心にある逆五芒星(デビルスター)の形の円柱、5年前の魔族侵攻災害を再現しようとしているのか?」


「さぁ、どうだろうなぁ。そんなこと教えるわけねぇだろ。

 ただ、何も教えないというのもフェアじゃない。

 1つだけ教えるとするなら、これはただの始まりにすぎないってことだけだな」


 ゼルゲディアは口角を上げ、不敵な笑みを浮かべる。


「随分と余裕そうじゃねぇか。俺はお前と会うのは初めてだが、遼司やエイミーが言うほどお前が危険な存在だとは思わない。

 こっちは隊長格が3人いる。お前は1人だ。

 魔族にとっての時間の概念がどうかは知らないが、俺たちの実力は5年前と現在(いま)じゃ格段に違う。

 俺はお前に負けるビジョンが全く見えない」


「ほぉう。そこまで言うなら試してみるか?」


 一触即発の空気。天也とゼルゲディアの殺気がぶつかり合う。

 そこへ結界の中からドゴォォォン!と音をたてながら空気が揺れた。


「――!!」

 

 その音に気を取られた瞬間にゼルゲディアが目の前から姿を消していた。


「……チッ、あいつ元々俺と戦う気がなかったってことかよ」


「まぁいいじゃない。これ以上足止めはくらってられないもの」


「今度会ったら必ずぶちのめしてやる」


「天也、それをするのは君じゃないよ。もっとふさわしい人がいる」


「そうだったな。お前んとこの副隊長に譲ってやるか」


 そう会話をしてエイミーは「それよりも」と別の話へと意識を変えた。


「今の大きい音はこの学校の中央辺りで聞こえなかった?」


「中央って言うと中庭かな?」


「結界の中には弱っている生徒と先生たちの魔力の他に魔獣の気配もある。

 しかも魔獣の量がハンパじゃねぇ。今の状態で魔獣に襲われたらただじゃ済まないんじゃねぇか?」


「いや、中に3人動けている人たちがいるみたいだ。この結界が邪魔して誰だかは分からないけど、その3人が応戦してどうにか食い止めている。

 今のうちに局長へ報告して対策を練ろう」


 エイミーは耳に付けている無線機で局長へと通信した。


「エイミーか、結界はどんな状況だ?」

 

「どんな攻撃もこの学校に張られている結界には通用しません」


「そうか。この結界を見てどんなタイプだと思った?」


「魔力を吸い取るタイプのものだと思います。

 私たちの魔術も通用しませんでした」


 神城局長は考えた後、「そこに鐡瑛志がいるか分かるか?」と質問した。

 3人は一瞬、その質問の意味が分からず沈黙してしまったが、遼司が先に言葉を発した。


「鐡君は魔力が無いので感知は出来ませんが、さっき中庭で物凄い爆発音がしました。

 結界の中には多数の魔獣がいて、中庭には魔力が一際大きい“何者”かがいます。その何者かの動きを感知するに、誰かと交戦しているものと思われます。

 恐らくそれが鐡君です」


「鐡瑛志がいるなら一先ずはここは鐡瑛志に任せても大丈夫だ」


「局長はなぜ大丈夫だと言い切れるほど鐡君を信じているんですか?

 私はまだ彼に任せられるほど鐡君の実力を知りません」


「エイミーがそう思うのも無理はない。

 ……そうだな。俺も今の鐡瑛志を過信しているのかもしれない。これは個人的な感情だった。すまない」


 神城局長は他に結界内を動けている人がいないかを確認した。


「この結界内で魔獣に応戦している人数は3人確認できます。でもこの状況をいつまで(たも)っていられるかは分かりません」

 

「ならこの結界を早急に対処する必要がある。この結界を解析班に調べさせ解除する方法を見つける。

 お前たち3人は万が一にも魔獣が外に出て市民に被害が出ないように結界周辺を3方向に分かれて堅めてくれ。

 それ以外の部隊は有事の際のために各隊舎にて待機させる。今からこの現場の判断はお前たち3人の隊長に任せる。

 何かあればまた報告してくれ」


「了解しました!」


 エイミーが神城局長との通信が終わると、結界の方へ向けていた身体を2人の方へと向き直した。


「遼司、天也聞いていた通りよ。私たちは学校周辺を3方向に展開して万が一にも外に出てきた魔獣に対処することになるわ」


「それは恐らく結界が解除された時が1番可能性がありそうなことだね。

 今この状況で魔獣が外に出てきた気配がないということは、内側から結界の外には出られないのかもしれない」


「なら、俺らの隊員を招集させるなら今のうちってことだな」


「そうなるわね。急いで招集させましょう」


 3人は自分の隊に連絡をしてすぐに集まれるだけの隊員に招集をかけた。

みなさんお久しぶりです!


5ヶ月ぶりの投稿となってしまいました……。

やっと自分の中で納得できる文章になり、完成しました。

それ以前に執筆できる時間が少なくて、投稿するのが遅くなってしまい申し訳ありません。


ここではバトルシーンが展開して事態を解決させるところまで書きたかったのですが、中々上手くはいかないものですね。


ということですので、バトルシーンはまたしばらくお預けになってしまいます!


次こそはもっと早く…!と思ってはいますので期待せずに待っていて下さい!

面白い作品になるように努力してまいります!

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