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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第七章 ルナティクス
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「どうして何も言ってくれなかったの!何も言われなくてそのまま出て行って…どれだけ不安だったか、心配だったかわかってるの!

馬鹿馬鹿、ほんとに馬鹿!どれだけ会いたかったか、どんだけ探しに行こうかと思ったと……!!」



泣きじゃくる尻尾お姉さんは、なりふり構わずゼロさんを殴りながら叫ぶ。


聞いていて悲しくなるくらい気持ちがこもっていて、もらい泣きしてしまいそうだ。


ただ、その殴る威力。ゼロさんじゃなきゃ死んでないかな。



「あの人は?」


「リオよ!九尾のティナ持ちで、ゼロのことが大好きなの!」


「うん。わかる」



今泣いているのも喜んでいるのも怒っているのも、リオさんにとってゼロさんが特別だからだ。アガド育ちにだってそれくらいわかる。



「リオは知的大人系美女だからお似合いよね!」



確かにリオさんはすごく綺麗な人だ。


絶世の美女は誰かと言われれば、やっぱりルナかなという気はするけど、リオさんはモデルみたいにすらりとしていて、姿勢も綺麗だし、顔だちも大人っぽい。


ルナは絶世の美女だけど妖艶。リオさんは大人かっこいい綺麗さ。そこに九尾のキツネ尻尾というものすごいギャップがあるけども!


それにしてもゼロさんよ。


泣きそうな人に「泣くな」も、泣いている人に「うるさいから泣き止め」もどうかと思うよ。



「ごめ……ん。もう、大丈夫……」


「別に。女が泣くのは慣れてる」



どれだけ女泣かせてるの!



「ゼロのばか…。女泣かせにも程があるでしょ」



リオさんと意見が一致した。



「…いろいろ言ってごめん」


「いや、八割聞いてねぇから問題ねぇよ」


「………」



わたしはとび蹴りをはなった。



「それはないでしょうが!!」


「なにしやがんだ。このクソガキ」


「いたたたた!頭みしみしいってる!みしみしいってる!」



飛び蹴りは当然のごとく避けられ、空中で頭をキャッチ。悪魔のごとき握力で頭がかち割られそうです。



「えーと。その子だれ?」



この人も止めないのか!!



「俺が連れてきた。詳しくは銀に聞け」


「自分で言うから!自分で言うから放して!」


「あー。それがいいか」



万力はようやく離れた。


あー、まだズキズキする。ほんと手加減してくれないんだから……いや、手加減してくれてるか。してなかったら今頃頭無くなってる。



「えーと。はじめまして、イーリスといいます」



わたしはそう切り出して簡単に今までのことを話した。詳しく言っていたらキリがないし、自己紹介にそこまで必要ないと思う。とにかくアビスシードであることと、これからここで暮らすことをしっかりと伝えた。



「そっか」



リオさんは静かに聞いてくれた。



「あたしはリオ。見ての通り、九尾のティナの所有者。ここでは医師。表でも働いてる。これからよろしく」



実にあっさりとしたリオさんらしい挨拶は、さっきの取り乱した様子とはまったく別で、しっかりとした、これぞ大人と言わんばかりの綺麗なものだった。



「あと…さっきは見苦しいところを見せた。ごめん」



そして、ちょっと目を背けて恥ずかしそうに言った。顔は赤いし、目は少し潤んでるし。


なんだ、この人。ギャップの塊か?



「りおねぇ。おかえり」


「リオ!今日もお疲れ様ね!ゼロがいるの驚いたでしょ!」


「クガネ、ルピ。ただいま。さっきはごめん」


「だいじょうぶ。めしもぶじだ!」


「そうそう!怪我人は誰もいないわ!」




またも始まった和気藹々。姉御肌の九尾はクガネをなだめ、ルピをいさめと場を鎮めるのにうってつけの人物だった。


それともうひとつ。



「うっきゅぁぁああ」


「クロ。久しぶり!」



クロと超仲がいい。


なに?うっきゅぁぁああって。聞いたことないよ。その歓喜の鳴き声。羨ましいんですけど!?



「あいつにクロの治療何度も任せてるからな。恩人とでも思ってんじゃねぇか?」


「また心読まれた…」


「どうせ羨ましいとでも思ったんだろ?お前顔に出やすいんだよ」



……くそぅ。



「人間の手先の器用さは他の種族もマネができねぇし、人間ってのは馬鹿だけど賢いからな。医療にはうってつけだろ」



馬鹿だけど賢い。うん、わかる気がする。愚かだけど頭いいんだよね、人間って。



「しかも人間じゃない奴らを治療するんだから、あいつも大変だろうな。人間には無い器官もあるわけだし」


「確かに…妖精とか治療できる気がしない」



小さすぎるし、薬だって効きすぎる。銀さんとか病気するんだろうか。その場合龍に効く薬ってあるの?



「お前も頑張れよ。ここで何かやること見つけねぇと、銀に実験道具にされてもしらねぇからな」


「…冗談だよね?」


「いや?魔力供給もできない、水も飯も必要、なのに役に立たない。

そんなやつを有効活用しようと思うのは当然だろ」



ゼロさんがくっくと笑う。ふざけているときの笑い方と同じだけど、あながち嘘とも思えないのが怖い。


それに確かに役割は必要だ。タダ飯喰らいはよろしくない。



「馬鹿を言うな」



地割れが走りゼロさんが膝をついた。それから天より龍が降り立つ。


ゼロさんは苦々しげに銀さんをにらんだ。



「私は実験なんぞくだらないことはしない。ただ、仕事はしてもらうから覚悟しておけ」


「は、はい!」


「…ちっ」



ゼロさんの舌うちは虚しく、銀さんはとっくに周りにいる全員へと向かっていた。



「リオ、ご苦労だった。休ませてやりたいところだが、ここにいる全員に頼みがある」


「う?どうしたんだ。しろ」


「銀が直々にって珍しいわね!」


「あたしも大丈夫だけど…面倒事?」


「そうなるな。イーリスとゼロも頼む」


「ならさっさとこれ解けよ!」



やっぱり何かはわからないけど、何かされているらしい。ゼロさんが立ちあがれないとか相当な何かなのはわかるけど。


………うん、はやく仕事始めよう。



「ヴァンパイアのティナの所有者、ルナ=ライトナイトが脱走した。早急にこれを見つけ捕縛してくれ」


「「「え゛」」」



声がぴたりと揃った。






5月中に一幕終わらせたかった…


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