14
「ヴァンパイア!?あいつまで戻ってきてんの?」
「いや!無理だって!ルナちゃんの暴走っぷりにはついていけないって!」
「おれはらへったんだー」
三種三様である。
「つーか、何逃がしてんだよ。銀」
「少々油断した。まさか施設を丸ごと壊してまで脱走するとは思わなかった」
「ならお前が捕まえてこいよ」
「そうしたいのはやまやまだが、あいつ私の本体まで切り裂いたようでな」
「「「「は??」」」」
またも声がそろう。
「銀!死んじゃう!死んじゃう!大丈夫!?死なないで~~~~!!」
「しろ!けがしたのか!?ゆるせない!おれがるなをかみころしてやる!」
「治療の手立てはあるの?致命傷なの?それとも軽傷?いや、あの女の攻撃だから毒関係もありえる?」
「くくくく。お前あのバカにやられたのかよ。傑作だな、おい」
「「ゼロは黙ってて!!!」」
「がああう!」
みんなが慌て、ゼロさんだけが笑って、わたしはついていけず、銀さんはいつも通りだ。
「落ち着け。修復にはさほどかからないだろう。当然だが命の心配はない。気にするな」
「そ、そっか…」
「だからクガネ、殺すのはやめろ。命を奪うほどではない」
「ううう…わかった」
「ルピナスは皆の避難を。他で奴を追ってくれ。正直まともかどうかもわからない。気をつけろ」
先に飛び出したのはクガネだ。あっという間に高台に上ったかと思うと、じっと周りを見渡す。そして一声遠吠えをあげて、消えてしまった。
ルピはわやわやと妖精たちを集めて散っていく。本人は指示係で、住人たちのところへは向かわないらしい。そりゃそうだ。あの話下手では言ったって伝わらない。
リオさんはゼロさんについていくつもりのようだ。そしてわたしもである。
「あいつよくも、のこのこと…」
なにかリオさん怒ってる。尻尾が青白く燃えてて…いや、ちょっと危なくないかい?
「まぁ強制的に連れてきたからな。暴れるのもおかしくねぇか」
「それよりも急がなくていいの?」
「どうせクガネより早く見つけられるやつはいねぇよ」
おお。信頼だ!これは信頼関係だ!
なんだかんだでクガネのことは認めているんだな!ゼロさんも!
「飛び回るのめんどくせえし」
「それが本音かっ!!」
ほんっとにめんどくさがりだな!ゼロさんは!
「でもクガネが見つけたところであいつは空飛べるからね。そうなると追えるのはゼロしかいないよ」
「飛ばねぇだろ。今俺と一騎打ちなんざしたくねぇだろうからな」
それに、とゼロさんは悠々と煙草に火をつける。
「飛べる状態じゃない。銀の施設と本体を壊したくらいだ。相当疲弊してるだろうよ」
それから3人とクロちゃんでしばらく歩いた。
この街はほとんどが森で覆われているから、人の住む街よりも森の方が広い。
人間以外はこんな環境で生きてきたから、その再現をしているらしい。綺麗だし、そもそも街中よりも森の中が好きなわたしには好都合だけど、こんな探し人をしているときは向かない。
視界も悪いし暗いし、サワサワとずっと音がする。
やる気がないのか、クガネに任せているのか。ゼロさんが積極的ではないから、単なる散歩みたいになってしまっていた。途中でルピたち妖精が住む花畑に案内してもらったり、リザードマンの住む沼地に案内してもらったり…。
「これじゃ観光じゃん!!」
突っ込みたくなるほどの穏やかさである。
「楽しいけどさ!」
「それならよかった。あたしも初めてここに来たときは戸惑ったからね」
今は女二人での散歩、いや、捜索である。ゼロさんとクロはクガネに呼ばれたらしく、先ほどいやいやながらに飛んで行った。
「リオさんも戸惑ったりするの?」
「はは、するする。落ち着いて見えるのは外見だけよ。あ、それとリオでいい。仲間内に敬語はいらないから」
とんとんとん、とがっしりとした木の根を足場に、崖を降りていくリオさん…じゃなくてリオ。
そういうのティナ持ちだよなーと思いながらわたしもそれに続く。わたしだって、アビスシードだもんね!
「大丈夫?」
「だ、だいじょう、ぶ!」
とんとんとん、とはいかないけどわたしも崖を降りた。考えてみたら、常人連れてここに来るとか、この人もやるやつだな。
「リオはどうやってここに来たの?」
「あたしは銀の連合つながりでね。両親があたしをここに預けたんだ。ゼロにあったのは14の頃。信じられないけどイーリスと一緒くらいの時か」
「信じられないほど小さいし幼いけど、信じられないって言わないで!」
「だってそれで15くらいは詐欺だよ」
「しょうがないじゃんか…」
それにしても連合つながりで両親に預けられた、か。ティナ持ちの親が子供をどうするのか知っているけど、リオの場合はどうだったんだろう。
殺そうとしたのかな。
「はは。そんな顔しなくていいよ。あたしは両親に助けられたんだ」
「え?リオも心読めるの!?」
「いや。イーリスは顔に出過ぎって。ゼロや銀じゃなくてもわかるよ」
「うえ!?そんなにわかりやすいの!」
「えーと、クガネくらいわかりやすい」
クガネくらいか!
あの純粋少年と同じくらいか!
「あたしの家は大きくなかったから、ティナ持ちになったことを周りに隠す力はなくて。でも放っておけば、いずれは軍に駆り出されるか、危険だと殺されるか、賊たちに攫われて使われるかのどれかだった。
だから両親は必死に銀の連合とつながりを作って、あたしを守ってくれって依頼したの。
幸い、あたしはティナ持ちとして安定していたから、殺さなきゃいけない事態にはなってなかったし」
「そんなこともあるんだ…」
「そ。珍しいことにね。両親にも時々会ってるよ。
表のルナティクスに引っ越してるから近いし。危ないから止めとけって言ったんだけどね」
「表のルナティクスってそんなに危ないの?」
「何してもいいし、何されてもおかしくないところだから。ある意味、できないことはない場所だって言っていい。それを危険と感じるか、楽しいと感じるかは人それぞれだろうね」
「ゼロさんは楽しみそうだ」
「好きだねー、あいつは。金も持たないで1人で行って、大富豪を下の下まで蹴落として遊んでるよ」
遊びというのだろうか、それは。
「人間はルールを決める癖に、どの生き物よりもルールに縛られたくない生き物だから、ルナティクスっていう法も秩序もない個人の実力主義の世界に惹かれるんだろうね。
その大富豪だって蹴落とされても、また這い上がってくるし、それで首をくくるような奴はあそこで生きていけない。落として上って、落とされて這い上がる。それをどいつもこいつも楽しんでるんだよ」
リオは少々呆れた様子でそう言った。
たぶん、リオはそこまでルナティクスの環境というかそういうところが理解できないんだろう。わたしもそうだ。絶対平和が一番だって。
「いつか行くこともあるだろうから、その時は案内してあげるよ。街並みは綺麗だし、無い物はないくらいに繁盛してるし、無駄に高いけど美味しいものもあるから」
街並みは綺麗。繁盛。美味しい物ある。
うん、楽しみになってきた。
「それもあいつを処理してからだけど」
途端にリオの目が険しくなり、小さな洞窟を凝視している。金色のさらさらとした髪をギュッと赤い紐で結び、その洞窟へと向かう。
「あの蝙蝠女が」
どうやらルナはあの洞窟の中にいるらしい。
ずんずんと進むリオの後ろを離れないようについていった。
「ルナのこと嫌いなの?」
「嫌いだね」
うん。あっさりしてる。
「あいつは弱いくせに自由にして、周りに迷惑かけて、それでも堂々と威張る。
もっと周りの言うことを聞けばいいのに、都合のいいときに逆らったり頼み込んできたり。ほんと嫌い」
うーん。
確かにルナはお馬鹿さんだから、自滅するし変なこと言うけど、全部わざとそうしてやってるんじゃないんだよな。
ものすごく要領が悪いというか、うまくできないというか、空回りというか…。今もきっと、いろいろうまくいってないんだろう。
「ルナは、悪い人じゃないよ」
「…わかってる。あいつは馬鹿なだけだって。というか…小さい時にティナ堕ちしたせいで、精神的に成長してない」
ふいっと顔を背けて、リオは小さくそう言った。
「でも、ゼロの妻とかなんとかはホント止めろって思う」
………おおぅ。なるほど、そういうことだったか。
あれだ。修羅場ってやつだ。外野は黙れって二人に怒られるやつだ。
「いた」
リオは黄金の目を鋭くして、途端に青白い炎を纏った。近くにいるわたしは熱くない不思議な炎。その光で奥にいるルナが写る。
ルナは、なんというか、すごく怯えていた。
怯えているよりも…その血まみれどうした?
「あんた。それ誰の血?」
「わ、妾じゃない。妾が…妾はやってない」
「誰の血かって聞いてんの」
「妾は……わから、ない」
ダメだ。ルナが、ルナじゃない。
何があったのかわからないけど、最初にあったときより壊れている。あの自信に満ち溢れた表情もなければ、優雅な振る舞いもない。怯えて、隠れて、苦しんで、戸惑っている。
「とにかく、ついてきて。銀にやったこと、あたしは許してないから」
「しろ、がね…、龍は強くて、敵わない…」
「当たり前でしょ」
「龍は嫌い、怖い。イヤだ、いやだ、いやだぁぁあ!!!」
ルナは全身から血の槍を吹き出し、リオはわたしを下がらせ、青い炎でそれに応じた。血という液体が瞬時に蒸発するほどの高火力で消し去る。リオはぎりりと歯を食いしばり、長い尾を地面に叩きつけた。
「嫌いも怖いも知るか。あんた、何したかわかってんだろうな!!」
蒼い炎は洞窟内を囲む。
リオはばっと駆け出すと、その強靭な尾をルナへと叩き付けた。しかしルナの回避が早く、躱してすぐに長い爪で切り裂く。腕で防ぎ、リオは煌々と燃える尾を槍のように突き出した。
……いやいや、なにやってるし!ものすごいティナバトルになってるし!
わたしは近くの小石を掴むと、頭の上に炎の耳まで生えてきたイオの後頭部とルナの眉間に放り投げた。
「いたっ」
「あう」
その一瞬に、二人の間に立った。
「喧嘩はだめ!」
「「…は?」」
茫然とする二人。確かにここはルナのせいでガタガタ、リオのせいでメラメラだ。
だけど知るもんか。喧嘩はだめだ。
「喧嘩っていうか…その…」
「…そういうレベルなの?これ」
「そういうレベルなの。リオ、ちょっと下がってゼロさんを呼んで。ルナはちょっとわたしとお話し」
「「えぇ…」」
「ほら早く!」
まずはリオの背中を押して外に追い出し、それからルナへと向き直った。相変わらず怯えたような表情をしている。
「大丈夫?」
「だ、だいじょ、う…」
大丈夫じゃないや、これ。
「銀さんは怖いよね」
「う、うん」
「何でもできちゃう人はやっぱり怖いよ。わたしもそう思う」
「うん。そうな、んじゃ。逆らえないし」
「それに冷ややかっていうか…冷淡だしね」
「そうそう」
「でも、怖いだけじゃないよ」
「…」
「銀さんは優しいところもあるよ」
「……うん」
「優しいから、怖いところもあるんだと思うよ」
「…奴がな、言うんじゃ。人を恨むのは止めろと」
「うん」
「それができなかったら、大切なものを失くすと」
「うん」
「妾はでも苦しいのは嫌じゃ。狂うのも嫌じゃ。我慢も嫌いじゃ。血を飲むのも何も食べれんのも嫌じゃ。妾ばかりそんな…」
ベシンとルナの頭を叩く。
「自分だけじゃないでしょ」
「……」
「銀さんはそうしないとルナのために良くないって言ったじゃないの?」
「…そう言っておった」
「なら逃げたらだめでしょ」
「……に、にげ、て」
「でも、今は逃げちゃおっか」
「は?」
「ルナ、面白いことしよ?リオに聞かれたらだめだから、ちょっと耳貸して…」
そしてわたしはこそこそとルナへ計画を伝える。
真剣に耳を傾けるルナは泣きそうな顔からにんまりと笑顔になっていった。




