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あたしは仕事から戻り、癒しの我が家へ帰った。暖かい木造の住宅は、ほのかに木の香りを漂わせ、疲れた体を癒してくれる。
ほっとしたあたしは、戸だなにしまってある紅茶の葉を取り出した。今日はゆっくり休めそうだ
「休めないわ」
「はやく来ないといっちゃうよ」
「彼は気まぐれでわがままで、自分勝手だもの」
カップに紅茶を注いでいると周りに妖精たちが集まってきた。
彼らは自由な種族で、人の家にも勝手に入ってくることは珍しくもない。大抵は仲間内で適当にしゃべって、そのままどこかに流れていく。
ただ今日は少し違うようだ。あたしに向かって言っている。
「彼って誰?誰か来てるの?」
妖精たちはくすくすと笑う。
「ゼロよ」
「歌が上手で、音楽も上手なゼロよ」
「この街の守護者サマ」
持っていたカップが地面と甲高い音で挨拶。床は紅茶で濡れてしまったが、そんなことは気にもならない。
あたしは家を飛び出した。
外を出ると景色が様変わりしており、いつもの街並みは綺麗に片づけられ、大衆が集まれるように広場ができている。そこではみんなが笑い、唄い、話し、幸せを絵にしたような光景が広がっている。
「ねぇ!ゼロが帰ってきたってホント!?」
「ホントだよ。あっちにいる」
2足歩行する犬、コボルトと呼ばれる種族が指さす。あたしは礼もそこそこに、教えてもらった場所へ向けて走り出した。
3年だ。
ゼロが急に消えて3年。何も伝えず、何も残さず、連絡手段さえも絶ってゼロは消えた。
銀に聞いても何も教えてはくれないし、クガネも知らないし、表の人間に聞いてもわからなかった。
それが、急に帰ってきた。
あたしの目に楽しげに食事をとるゼロの姿が映る。ルピやクガネも一緒だ。もう一人見知らぬ誰かがいるが、そんなのはどうでもいい。
元気で、楽しそうで、更にたくましくなって、傷一つないゼロを見て。
何故か無性に腹が立った。
「……よお」
「ゼロ…」
器用にも料理の並ぶテーブルと、小さな少女を掴んだゼロは、以前と変わらない光のない目であたしを見た。楽しいも悲しいもないけど絶望もなくて、深すぎて何も映さない目。何も変わらない。
「何で!!」
あたしは炎を放った。ゼロは軽々とそれをよける。当たらないのはわかっていたけど、あたしは止まらなかった。
今まで何してたの。
何で黙って出て行ったの。
どうして何も言ってくれなかったの。
ああ、それでも元気でよかった。
生きていてくれてよかった。
変わらないでいてくれて、帰ってきてくれて、本当によかった。
「おい」
ぼやけた視界では、ゼロの動きについていけず、あたしはあっという間に捕まった。大きな手があたしの手を包み込んで、それだけで動けなくなる。
「泣くなよ。ガキか?」
「う、うるざい!!」
遠慮の欠片もないゼロの言葉に、とめどなく涙が落ちる。力強い胸へ拳を叩き付けて、叩き付けて、声をあげて泣いた。
あたしの言葉は、自分勝手でわがままでしかない。
寂しかった、不安だった。何故だ何故だ…と、言っていても馬鹿らしい。ゼロには関係ないし、そんな鎖はいらない。わかっているのに止まらなかった。
「うるせぇよ」
遠慮もなく当然のようにゼロはそう言って、そしてあたしの頭に手を乗せた。そして背中に回った手で、強くとんとんと。
暖かいゼロの体からは懐かしい臭いがする。
「うるせぇからさっさと泣き止め」
言ってることは酷くてしょうがないのに、ゼロの手は優しくて。あたしは言葉も出さずに、静かに泣いた。




