12
飛び込んできたのは広大な黒が醜く笑った姿。
届いたのは静かな音と脈打つ鼓動。
絶えず走る激痛と矛盾して消えていく感覚。
鼓動ばかりがうるさくて、絞り出そうとも声はでない。
背後が湿り、徐々に体が冷えていく。
おぼつかない呼吸に、確かに死のにおいを感じた。
だが、そんなことはどうでもよかった。
映る光が、届く音が、触れたソレが。
そして自分が、何かがわからない。
探るように液体まみれの掌を頭に置いても、記憶のすべてがそこにはなかった。
わかるのは本能的に、今、死ぬ寸前であるということだけ。
俺は誰だ。
俺の名は、この音の名は、この場所は何だ。
答えのない問いは続き、それに対して沸き立つ感情の名前もわからない。
今、生まれた感覚だった。そして死ぬ感覚を既に味わっている。
何の意味があるのか。
ただ苦しみ死ぬなら、なぜ生まれてきたのか。
惑わせて、迷わせて、痛みに呻くことが何のためになるのか。
誰が、俺をこうしたのか。
「………お前か?」
脳裏にかすめた白い髪の少女。
それの名前もわからない、顔も知らない。それでも唯一残った記憶の片鱗、手がかりだった。
脳裏を探ったところで何もわからない。
手がかりがあっても答えはでない。
そんな中で、ただ確かなことがあった。
俺を殺そうとした奴がいる。
俺をこうして、記憶を奪った奴がいる。
それが誰なのか、何なのかは知らない。知らないのに俺は終わろうとしている。
無理だ。始まりもないのに、終われるわけがない。俺はこの状態に納得できるモノを持っていない。
たとえ世界を破壊することになったとしても、抗うことをやめることができない。
「あ"あ"あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
俺の叫びは闇を生み、そして光は消えた。
これが俺の始まり。 誕生の夜だった。




