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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第六章 吸血鬼
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「ふふふふん」



上機嫌なルナ。


長い髪は濡れて、体の線を沿っている。そしてその隣にはゼロさん。こちらは、顔に張り付いた髪を、うっとおしげにかきあげていた。


そしてわたしは板の上にしがみついている。



「どうやって浮いてるの!?わたしも浮ける?ほんとに!?」


「体に空気を含んでる時点で浮かないはずがねぇんだよ。海水ってのは塩水なんだし。

いいから離せって。沈んだら死ぬ前に助けてやるから」


「すぐに助けてくれないの!?」


「甘えんな」



そういわれても、なんでゼロさんは立ったまま浮いてられるのかとか、意味が分からない。ルナなんて寝そべっちゃってるし。



「そなた、あれほどの威勢の良さをもってながら、まさかカナヅチとはのう」


「泳ぐ機会がなかったの!ウラガたちも泳げないよ!たぶん!」


「うるせえ。早くしねぇと、その板破壊するぞ」



それは困る。これは命綱だ。


手、放した。


速攻沈んだ。



「なんでだよ!」


「じらないよぉお!!」


「ほら。妾のようにやってみよ。このように寝そべってだな…」



沈んだ。



「なぜじゃ!?」


「知らない知らない!もうやらないからね!!」



泳ぎ方もよくわからないし、沈むし苦しいししょっぱいし!



「アビスシードは泳げない生き物、なのかの?」


「かもなあ…」



そんな目で見ないでよ!



「ふふふふ…。ということはだ。イーリス、これでルシファと泳ぐ権利は妾のものということだな!そこでしがみついてみておるがよいわー!」



勢いをつけて海に潜っていったルナ。



「…」



当のゼロさんはわたしと一緒にいる。



「…良いの?ほっといて」


「ああ。もう泳いだし、基本あいつの方が身体能力は高いからな。結構大変なんだよ、ついていくの」



これは本音らしく、腕相撲大会のあとゼロさんの筋肉は、ずたずたに裂けていたのだそうだ。主にルナの血攻撃のせいで。

それほどに負けたくないかとも思うけど、今までのゼロさんを見てたら妙に納得できる。


負けたくないんだろうなぁ、うん。



「で。お前傷はいいのか?」


「うん。ルナに塞いでもらって、熊さんに薬ももらったから大丈夫。痛くないよ」


「そうか」


「ゼロさんは?体いいの?」


「傷は時間がかかるだろうが、魔力が相当余ってるからな。前より楽になったくらいだ」


「そっか。よかったね」



魔物にルナに暴走に……。いろいろあったけど全部無事に終わってよかった。


わたしの未知の力もわかったことだし、使いこなすにしても、隠していくにしても対策しないといけない。…まぁ、わたしの力の前提条件が、魔法をうけて充電するところから始まるんだけど。


というか、何もいわなかったけど、北の海だよ?ここ。寒くないのかな。二人とも。


アガドという暖房設備なんてないところ出身だけど、それでも寒くなってきたよ?



「よし」



わたしの表情を見ていたのか。わたしを脇に抱えたゼロさんは軽く空を飛び、船首へと座った。


魚と一緒に泳ぐ赤い髪が、時々月明かりに照らされ、星もたくさんでいい景色だ。


ちょっと海賊たちのいびきがうるさいけど。



「今回は、お前のおかげで助かった」


「ふぇ?」



予期せぬ言葉に体勢を崩すわたし。すぐに首根っこをつかまれ直された。



「今回はお前がああやらねぇと、俺は堕ちるか死ぬかのどっちかだった」


「は、はい」


「でも二度とすんな。

俺は怪我なんて日常茶飯事だし回復もするが、お前はそうじゃねぇだろうが」



ゼロさんはわたしの体を見ながら言う。

ゼロさんの破壊の闇の中を突き進んだわたしの体は、ズタズタで、ルナが血止めをしてくれなければ、大騒ぎじゃ済まないほどの大けがだったらしい。


ゼロさんの力は破壊だ。触れるものを破壊していく。触れた場所が服なら服が、皮膚なら皮膚が、肉なら肉、骨なら骨と破壊される。その程度は威力によるみたいだけど、生身の人間が飛び込んでいい代物ではない。死んでいてもおかしくなかったとゼロさんは言った。


でも関係ない。わたしは首を振る。



「嫌だ」


「あ?」



わかっていたけど、イラついたゼロさんの声。



「やらないと死んじゃうなら、やって怪我してでも生きてもらう方がいいもん。

同じことがあったら同じことするもんね。それが嫌なら、ゼロさんがもうしなければいい」



やるだけやる。とことんやる。死ぬかもしれないけど、死なないと信じてやる。


そうじゃないと死んじゃうなら、嫌なことが起きるなら、死ぬ気で頑張るんだ。



「……」



ゼロさんの髪が、がしがしと乱れ、小さな水しぶきが飛ぶ。後ろに撫でつけられた髪はふわりと風に揺れていた。



「慣れてねぇんだよ。そういうの」


「ん?」


「かばわれたりとか、守られたりとか。お前は平気でそうするけどな。弱いやつが強いやつを守るなんて早々ねぇよ。そもそも邪魔くせぇ。死にたがりか?」


「ししし死にたがりじゃないよ!長生きしたいよ!」


「いや。そういうやつは庇うとかかしねぇんだよ。崖から飛び降りるとか絶対しねぇ」


「…崖のことはともかく。いいじゃん。わたしだってちょっと役に立ったでしょ?」



困ったような表情のゼロさん。


わたしにとって、守るも守られるもよくあったことだから、ゼロさんが「慣れていない」のが、よくわからない。

それにゼロさんが強いからって、守られなくてもいいとは違うような気がする。強いから、ちょっとその機会が少ないだけ。助けてもらう頻度が少ないだけだ。


わたしたちはお互い様のはずだし、むしろわたしは助けてもらってばかりだから、うーん…ちょっとだけ借りを返せた感じだ。きっと。



「とにかく!わたしはできることをしただけだし、やりたいようにやっただけだよ。ゼロさんが言うようにね。これからもそうするつもりだから、そのー、溺れた時とか、ちょっと助けてね!」



間があって、ゼロさんの喉を鳴らしたような笑い声が響く。少し目を細めて、口の端をあげて、いつものへたくそな笑い方だ。



「あーあ。馬鹿らしいな」


「そうだよ。ありがとうだけでいいんだよ。こういうのは」


「…じゃ、礼に俺のことを教えてやるよ」


「ええ!?」



突拍子もない一言。


ゼロさんは月を見上げながら言葉を続ける。



「知りたいんだろ」


「そりゃ…気になります。いっぱい聞きたいことはある」


「だから、礼に。俺の秘密をひとつな」



いや、だからありがとうだけでいいんだよ?わたしは。


と思うも、ゼロさんは言葉を繋いでいった。



「前、お前俺に言っただろ。ゼロって名前じゃないだろって」


「うん。言った」


「確かに俺の名はゼロじゃない。正直お前に言われたときは驚いた」


「ふふん、なんとなくだけどね」



あの時、ゼロさん驚いていた。


その後少し怖い空気がしていたけど、あれはなんだったんだろう。まぁいいけど。



「でも、間違いでもねぇんだよ」


「…ん?」



煙草に火がかちりと灯る。


口に含んだ煙はゆっくりと空に消えていった。



「俺は、俺の名前を知らない」



名前を、知らない。



「名前、自分でつけたり…誰かにつけてもらったりしなかったの?」


「あー…。俺は名前を知らないだけで、有るか無いかもわからねぇんだよ」



………ん?



「俺は最初からゼロと呼ばれてて、犯罪者として軍に追われてて、悪魔のティナ持ちだった」



ゼロさんの言葉を聞いて、わたしはその意味を考える。


最初から、ゼロと呼ばれてて。犯罪者で、悪魔のティナ持ち。


生まれたときから犯罪者なんてことあるわけない。ティナもそうだ。


そして、名前が無いんじゃなくて、『知らない』



「…ゼロさん、もしかして…」


「正解」



静かな波の音。


ゼロさんの目は遠く、まるで昔を思い出しているようだった。



「俺には、記憶がない」



ゼロさんはただ一言そう言った。





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