25.道をつくり星となりて<1/8>
後代まで継がれる歌がある。
サルツニアとアルテヤ、二つの国を救った、銀の髪の王女と、隻眼の剣士の冒険の歌がある。ほぼサルツニア正史と変わらないあらすじの中、まるでその場にいたものが見たかのような光景が歌われている。
『ランシエールの手に託された神剣ルベルクロスが斬ったのは、悪鬼と化したバアルテロメの魂であった。ルベルクロスの宝玉は、宿す女神の力をもってランシエールに光を与えた。閉ざされていたランシエールの瞳に再び命が宿った』
貴族達の援軍が続々と集まる、その一方で、王女のために時間を稼いでいた『烏合の衆』達は、速やかに撤収し、その後散開していった。
『自分たちに相応の報酬を与える』という王女の約束は、まだ正規軍には伝えられていない状況だ。女神の旗印を示す朱い布を巻いていたとはいえ、盗賊などと誤解される危険もあったし、そもそも彼らは基本的に、貴族というものを根っからは信用していなかった。山の民のその注意深さと警戒心があってこそ、今回の起兵は成功したのだから。
ランシィとオルフェシアは、抜け道の出口を守っていたギリェルの隊、そしてカーシャムの神官らと合流した。その頃には、正面門に向けて援軍が続々と到着し、反乱軍部隊は制圧された。神殿内で拘束されていたレイナルド伯と、指揮していたオルゴー卿は生きたまま捕縛され、その供述はザーラント公をはじめとした、バルテロメを担ぐ貴族達の特定に一役買った。
オルフェシア王女帰還、そしてバルテロメ確保の報を受け、反乱軍に与していた者達は続々と降伏していった。
もちろん、反乱軍、山間の民からなる有志軍、双方無傷では済まなかった。前線でぶつかり合った者達の中には、死者も出たし、負傷者も多くあった。死者は全体の一割にも満たないようだが、死傷者の正確な数が出るのは、もう少し後になるだろうとのことだった。
馬車を先導した騎馬が門を抜ける。
先導された先に、馬留の柵と小さな厩舎があった。待っていた使用人に自分の馬を預けている間に、近くに停めた馬車の扉を御者が開いている。乗っていた者が降りるのに貸した手をとったまま、タリニオールは石畳の小径を歩いた。
小さいながら、領地を賜ったオルネストが暮らす城である。
城とは呼ぶが、形は地方領主の住まいらしい「ちょっと立派な邸宅」である。歴代の領主が築いた塁壁の中に、少し小高い場所に立つ古い塔と、比較的新しい立派な建物があり、敷地の中では使用人とその家族も暮らしている。
最後にここを訪れたのは、アルテヤ行きの報告をした時だった。オルネストは慎ましく暮らしていたから、その後も大規模な増築などはないものの、そこかしこに実直な手入れがなされている。
細い石畳の小径を抜けると、邸宅の裏手に出た。近くの山から引き込んだ小川が流れ、使用人が洗い物、馬の世話や植物の水やりなどに使うのだ。
その小川の側に作られた馬用の洗い場で、使用人の子供達が数頭の仔馬の世話をしていた。
柵につながれた仔馬の毛並みを櫛で整え、水を汲み、飼い葉を与える。幼い子供はそのまま水遊びを始めたようだが、咎める者はない。大きな子供は幼い子供の面相を見ながら、仔馬にも気を配っている。日差しの中で、楽しげな笑い声と、水をはじく音が響いている。
あまりうるさくすると馬が驚くのではないかと心配になるが、その仔馬に寄り添って、首を撫でてなだめている者があり、馬は素直に子供達のするに任せていた。
タリニオールは、ランシィに助けられて、レマイナ教会の孤児院で目覚めた朝の風景を思い出した。
懐かしさと同時に、自分の失態も思い起こされそうになり、慌てて首を振っていると、仔馬に寄り添っていたランシィが気づいてこちらに目を向けた。右と同じように開かれた左のまぶたの下で、命を取り戻した左の瞳が右の瞳と同じ動きでタリニオールを映す。
その両の目が、一拍おいて驚きで見開かれた。
「……エリディア!」
口にしてから、しまったというように口元を押さえる。ごめんねと馬の首をなでてから、ランシィは小走りにこちらに駆け寄ってきた。
タリニオールに引かれていた手を離し、エリディアは飛びついてきたランシィを抱きしめた。
「心配をかけました」
エリディアはランシィの髪に頬を寄せている。仔馬も子供達も、何事かと動きを止め、三人の再会を見守っている。




