14.時流れ、人紡がれ<5/6>
「皆さん、私の従兄弟の愚行で、長い間肩身の狭い思いをさせてしまい、申し訳ありません」
銀色の髪を陽光にきらめかせ、オルフェシアは握った手を胸元に寄せる。
「この集落の事情は伺いました。アルジェスが、皆様のためにあえて危険を冒していたことも聞いています。この度の計画で、多くの力なき神官を助け、バルテロメを正すことができれば、皆様の状況も大きく改善できるでしょう。私の全力をもって、皆様の働きには必ず報います、どうぞ、お力をお貸しください」
アルジェスの名前が出たことで、オルフェシアを見上げる観衆の真剣さが増した。ヴィエリは満足そうに頷くと、すうっと息を吸い、声を張り上げる。
「聞いたとおりだ、義はおれたちにある! あのいけ好かないバロテロメに、おれたちで泣きっ面かかせてやろうぜ!」
ヴィエリが拳を振り上げると、集落を埋め尽くす観衆から歓声が上がった。
オルフェシアがランシィを振り返り、笑顔を見せる。ランシィはほっと息をつくと、自分たちの後ろに控えるギリェルに目を向けた。ギリェルは相変わらず感情の読みづらい顔で、静かに頷いた。
集落にいた馬の多くは、先に出ていったイーノスと、一緒に行った数人が乗っていった。
残された馬のうち、数頭が、武器や糧食、皮を張った木の盾や毛布などを積んだ荷車を引き、その前後を武装した徒歩の男達が歩く。この時点ではまだ、五〇名にも満たないほどだった。
ひんやりと冷たい朝の空気の中、息を白く曇らせ、一行が歩を進める。その途中、細い道が合流する辻道から、あるいは川沿いの細い獣道から、あるいは道があったのも気づかないような木立の合間から、ぽつぽつと人が現れた。
彼らの多くは、普段は山での作業に使っているような手斧や大鉈をそれぞれ背負い、短刀を腰に差し、手袋代わりの布を手の甲に、なめした皮を手首やすねに巻いている。皆、山中の生活を続けながら、できる限り『その日』に向かって備えてきていたのだ。
合流してきた者達には、小分けにした糧食が与えられ、同時にヴィエリとギリェルが班分けをしていく。
「人数に応じて班を分ける。思ってた以上に集まりそうだから、山地を出るまでに三小隊くらいは作れるかもしれない」
「一小隊五〇人程度の計算でよいでしょうか?」
「そんなもんかな、三・四〇人前後で四小隊でもいいが、状況次第だな。ギリェルの隊は、分隊でも十分動ける奴らで組んで、あんたにつける。陽動でも遊撃でもなんでもできる部隊にする」
「ヴィエリさんは、どこかで兵法の心得を学んできたのですか?」
「それはどうかなぁ」
ヴィエリはつかみ所のない笑顔を見せた。ランシィは思わずギリェルを伺ったが、ギリェルは知らん顔をしている。
様々な身の上の人が、この山間部には住んでいるといっていた。元傭兵、元兵士、事情で家や郷里から逃げてきた者、あまり大きな声で言えない過去を持つ者。イーノスとその周りのものは、普段から、住人個々の性格や特性、人間関係も把握しているのだろう。
「最終的な打ち合わせは、山を下りた集合場所になる。前々から法螺貝や幟とかの合図の仕方は決めてあったから、その最終確認もする。途中で馬が増えたら、殿下とお嬢さんは馬に乗って体力の温存だ。あんた達が要だからな」
「はい、心得ております」
ここで「自分たちだけ楽をするなど、他の人に申し訳ない」と言わないのも、王族としての教育を受けた者らしい。彼らは皆、将棋の駒のように、それぞれの役割を心得ている。
もし上空から山地を見下ろせる者がいたら、細い道を歩く人の列は川の流れのように見えただろう。そして支流から合流するように人が増えていくたびに、だんだんと川の太さが増していくように見えたろう。
その川の流れに先行し、数人の供を連れて山を下りていたイーノスは、その日の夕刻に、一つの建物の前にたどり着いた。




