10.時流れ、人紡がれ<1/6>
「俺たちは、山で採れたり作ったものを町に売ることで、山では手に入らないものを手に入れてくる。サルツニアに住んでるのに税金を納めてないのは恐縮だが、代わりに国から一切の保護も受けてないから目をつむって欲しいところだ」
三人の食事が終わり、食後の茶が供されると、イーノスは自分たちの事情を話し始めた。
「アルテヤとの戦争が終わってからしばらくの間は、食いっぱぐれた傭兵なんかが住み着いちまって、更にその一部が盗賊まがいのことをしてたこともあった。そのせいで一時は討伐隊がうろうろしてたが、それも五年くらい前までのことだ。討伐隊が素行の悪い奴らをごっそり追い払ってくれたのはよかったが、そいつらと一緒に捕まった仲間がいたんだよ。自分からつきあってた奴らは自業自得だから仕方ないが、中には全然関係がないのに、盗賊の隠れ家のそばに住んでたってだけで捕まった奴もいて、どうしたもんかと思案していた。そこに、バルテロメの使いって奴がやってきた」
捕まえた者から、イーノスが山中に住む人間達をとりまとめていたと知ったのだろう。バルテロメの名前以外は、具体的には出てこなかったが、ある程度以上の力を持つ貴族が複数、バルテロメについているらしいのは察しがついた。
「そいつは、自分たちの計画に協力できる人間を紹介してくれれば、捕まった仲間を解放してやると、取引を持ちかけてきたんだ。バルテロメの悪い評判は知ってたし、相手にしたくはなかったんだが、使いの奴は勝手にべらべら喋っておいて、協力しなければこの近辺を山狩りして『不法占拠』してる住人達を一掃する、なんて言い出しやがった。
どうしてもやりあおうってなら、俺たちもそれなりの手は打つつもりだった。でも、たまたま居合わせたアルジェスが、面白そうだからやってもいいって名乗り出てくれたんだ。
もちろん俺たちだって、なにからなにまでバルテロメ側のいいなりになる気はなかった。要は、アルジェスが協力してる間に、その後に想定されることに対して手を打つためにも、時間を稼ぐ必要があった。結果的にバルテロメの計画が失敗しようが成功しようが、奴が俺たちをそのままにしておく気はないのは予測がついたからな。どうやってバルテロメの足下をすくうか、あれこれ考えては準備してはいたんだが、どうにも決定的な案がなくてな」
対応をひとつ間違えば、この山地の人達も大変なことになっていたかも知れないのだ。
「それが、お嬢さんのおかげで、バルテロメに引導を渡すのに、俺たちが重要になりそうな気配になってきた。まったく、面白いことになってきた」
イーノスはにやりと笑うと、後は任せたとばかりにヴィエリに目を向けた。ヴィエリが話を引き継ぐ。
「山地の住人の中には、元は傭兵だった奴らも多い。バルテロメが約束を破って襲ってきたときのために、普段から役割を決めて自警団を組織してきたから、声を掛ければ使える頭数はすぐ揃う。
……徒歩の者が大半だから、ここからジェノヴァ神殿の場所まで、集団での移動は三日、早くて二日半ってところかな。あそこらへんの地図はあるが、神殿に関しては外観しか判らない。殿下、神殿内部の見取り図は書けるか? 内部構造は把握してるのか?」
「書けます。元が権力者の利用していた建物のようなので、神殿内部からの脱出路も数カ所あります。中の者達が危険を察することができれば、外部の敵に接触せず退避するのは可能なのですが……」
問題は、味方のふりをしたバルテロメ側の兵士に門を開けてしまった時である。なんの心構えもなく、正面から大人数で押し込まれたら、少人数の僧兵では対処できないだろう。
「先手を打って内部に知らせを出せるなら、それが一番いいが……。果たして、その時間があるかだな。町にも仲間はいるからもちろん声はかけるが、知らせが間に合ったところで、俺たちの言うことを信じてもらえるかも判らない」
イーノスの言葉に、ヴィエリも黙ったまま頷いている。話を聞きながら、既になにがしかを考えているのだろう。ヴィエリはペンを走らせて今の話を書き付けながら、思案するように顎をなでた。
「……相手の数を把握してからでないとなんともいえないが、今の状況じゃ、正面から押し込まれる前に横から奇襲を掛けて相手を混乱させて、その隙にあんた達が中に入るのを手助けするので精一杯だろう。なにしろ相手は武装した本物の軍隊だからな、相当運がよくて互角にやり合えたとしても、あんたたたちが宝剣を回収して逃げ出す時間を稼いだ上で、速やかに撤収だ。援軍が見込めないのなら、奴らを追い払うまでの期待はしないでくれ」
「そのことなんですが」
硬い表情のオルフェシアの横で、ランシィが顔を上げた。
「ひょっとしたら、味方の数を増やすことができるかも知れません」
「なんだって?」
イーノスが間の抜けた声を上げる。オルフェシアも、ヴィエリも、なにを言い出すのだとばかりにランシィに目を向けた。
ランシィは動じた様子もなく、ただ淡々と続ける。
「今狙われてるのは、ジェノヴァ神殿であり、神剣ルベロクロスです。相手の目的は、宝物の略奪です。ジェノヴァ神殿は、サルツニアの保護の元で独立して運営はされているけれど、建前上はカーシャム教会と変わらないと聞きました。つまり、サルツニアの政そのものとは関わりのない施設を、盗賊が襲おうとしているのと同じです。そこに住んでいる、戦う力のないひと達を助けるために、動いてくれる人達がいるかも知れません」
「どういうことだ?」




