↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジェノヴァの瞳 ランシィと女神の剣  作者: 河東ちか
第四章 剣士ランシィの章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/92

10.駆け引き、差し引き<6/6>

「わたしは……」

 イーノスが、建前だけの答えを問うているのではないことは、ランシィにも判った。

 ランシィは少し考え、椅子の横に立てかけていた騎士剣の柄を指し示した。そこには、傾いた天秤と剣をかたどった紋章が埋め込まれている。

「……この傾いた天秤は、女神ジェノヴァの裁きの目を現してるものなんだって、教えられました」

「……ほう?」

「左の皿には女神の『大いなる慈悲』が乗ってるから、こうやって傾いてる。だから、右の皿に人の罪をのせても、簡単には釣り合わない。この慈悲の重さを超えるほど悪いことをした人には、ジェノヴァの剣による裁きが下される。そういう意味のある紋章だって」

 言葉を選び、ゆっくり続けるランシィの声を、イーノスはせかすでもなく耳を傾けている。

「……だから、悪いことをした人を、その悪いことだけで判断しちゃいけないんじゃないかな。悪いことをした理由とか聞いて上げることも大事だし、叱られた後は、その人がどれだけ反省して、それを挽回できるように努力できるか見てあげることも、大事なんじゃないかなって思うんです」

 ランシィの答えの真意が測りきれなかったらしく、イーノスもヴィェリも中途半端な顔でランシィを見返している。

「アルジェスと、ギリェル、モイセ、ユーゴのしたことは悪いことです。でも、バルテロメの依頼を引き受けないと困る人がいるから、嫌だけど引き受けたって聞きました。計画が失敗したって悟った後は、わたしたちが町を出て一刻も早くここにたどり着けるように、アルジェスは賊達を引きつけて助けてくれました。今もきっと、パルディナやキアラさんと一緒になって、タリニオールに……わたしの父とサルツニアの駐留軍に、協力していると思います」

「……」

「あとは、ジェノヴァ神殿にいるひとたちと、神剣を守って、バルテロメの計画を完全に失敗させることができれば、悪いことをしたこと自体は全部帳消しにはならないとしても、殿下も、サルツニアの王様も、アルジェス達に『寛大な処置』を計らってくれると思います」

「……なんてこった」

 イーノスはやっと合点がいった様子で、自分の額を押さえて苦笑いを浮かべた。

「お嬢さん、あんたは、サルツニアのためだけじゃなく、アルジェス達を助けるために動いてるっていうのか?」

 さすがにヴィエリも驚いた様子で、イーノスとランシィを見比べている。ランシィは表情を変えない。

「ユーゴは、『アルジェスは普段はこんな仕事はしない、でも今回は、引き受けないと困る人達がいるから仕方がなかった』って言ってました。ヴィエリさんは、さっきのおじさん達に、『アルジェスはお前達の恩人だ』って言いました。アルジェス達がバルテロメの依頼を引き受けたのは、あなたたちの事情があるからではないですか」

 イーノスはここでギリェルとヴィエリに目を向けた。余計なことを話していないか問うたようだが、ギリェルはそっけなく首を振り、ヴィエリは苦笑いで首をすくめている。

「わたしには、みなさんへの報酬とか、武器や食料を集めるためにかかる費用のことは、はっきりと約束できません。それに、『ここに住んでる人たちには、サルツニアの王族や街に住んでる人達がどうなろうが関係ない』って言われたら、なんとも言えないです。でもまずは、アルジェス達の受ける罰を少しでも軽くするためにも、協力してもらえませんか。人を集めることでかかったお金は、タリニオールやディゼルトに相談すれば、きちんとしてもらえると思います」

「……なるほどな」

 イーノスは苦笑いのまま、ギリェルに目を向けた。

「アルジェスやお前達の命の恩人だなんて言われても、正直どんなもんかと思ってたんだが、なるほどな。このお嬢さんは、ただの正義感や情だけで動いてるわけじゃなさそうだ。見えるものを見る目は一つだが、見えないものを見る目がその分備わってるようだ」

 どういうことだろう? ランシィは言葉の真意を掴みかねて思わず首を傾げた。ギリェルは軽く頷いたようだったが、特に何も言わなかった。

 イーノスは苦笑いを収めると、ランシィとオルフェシアを交互にみやった。

「女神ジェノヴァは、型どおりの正義だけで人を測らないってことだな」

「はい」

「俺たちも似たようなもんだ。俺たちは報酬のいい悪いだけで、外からの仕事を引き受けるわけじゃない。やりたくないことはやらない。害のない仕事だとしても、相手に報酬を払える力があるか、なにより払う気があるかってのも大事だ。相手を見定める目がなきゃ、こんな山の暮らしで、町の人間と取引なんかできない」

 話がよく判っていなそうなランシィと、まじめな顔で聞いているオルフェシアを見やり、イーノスはにやりと笑った。

「協力しよう。言っておくが、サルツニアにじゃないぞ。この状況でも情に訴えないで現実的な提案のできる殿下と、正義を振りかざさずに俺たちの立場でものを見ることができるこのお嬢さんに、だ」

 それまで硬い表情だったオルフェシアに、安堵の表情がさした。オルフェシアは、イーノスがさしのべた手を握ると、ランシィに向かって微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。