↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジェノヴァの瞳 ランシィと女神の剣  作者: 河東ちか
第四章 剣士ランシィの章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
103/104

30.道をつくり星となりて<6/8>

 坂道を下ると、唐突に視界が緑色に染まる。四方を山に囲まれた中、青々とした草原が美しい湖のように波打って広がっている。その真ん中を通る白い石畳の道は、海の上を渡る橋のようだ。 

 その白い橋の上を、二騎の馬が駆けていく。橋の先には、緑の海の中に浮かぶ小島のように、建物が身を寄せ合っている。

 駆けている間も、荷馬車、徒歩の者とすれ違い、あるいは追い抜いた。切り出した木材を乗せた荷馬車、それを支え、自分の荷物や作業道具を手に続く人足達が、騎上の二人に気づいて手を振る。応えると、周りのものも嬉しそうに笑い、行ってくるぞと手に持った仕事道具を振り上げる。

 今この道を利用するものは、市民も兵士も、土木作業に関わるものたちばかりだ。

 建物群の外れには、村で一番大きな二階建ての建物がある。その裏手の扉から、二人の男が荷馬車に平たい木箱をいくつもを運び出し、積み込んでいる。

 馬が近づいてくるのに気づいて、背の小さい男が大きく手を振った。ランシィは馬を下り、手綱を引いて近づいた。

「ユーゴ、これから配達?」

「積み終えて一服したらね。温かいうちに持って行きたいのに、早めに着くと監督に怒られるんだよ、『お前たちが来ると人足達がそわそわして仕事にならなく』なるって」

「焼いたばかりの柔らかいパンが食べられるんだもんね、ほかの作業場じゃなかなかないよ」

「あんな大きな窯を作ってもらえたもんな。おかげで人も雇わなきゃいけないし、大変だよ」

「でも、楽しそうだよ」

「そりゃあなぁ、食い物屋で商売できたらいいなって、ずっと思ってたからな」

「頼れる女将さんもいるからね」

 モイセも笑う。声を聞きつけて、建物の扉から大柄の女が顔を出した。エプロン姿のキアラである。

「来たね、ランシィ、ギリェル」

 乗ってきた馬を、馬留の柵につないでいたギリェルが無言で頷く。

「ちょうどいいところに来たね、昼用のスープができてるから、パンと一緒におあがり」

「今日はキアラさんがこっちにいる日なんだね」

「昨日着いたばかりだよ、市場に行ったら、蕃茄(トマト)が山ほど入ったから酒と一緒に持って行けって、無理矢理積み込まれちまってさ、仕方ないから急いできたよ。日持ちしないものは脚の速い荷馬車に渡してくれって言ってあるのに」

 と、キアラはユーゴとモイセが引いて行くであろう馬車で、パンの木箱と一緒に乗った蕃茄 のかごを示した。

「生野菜は助かるよね、トマトなら水分もあるし喜ばれるよ」

「なに言ってんだ、水なら売るほどあるだろ、川の上で作業してんだ」

 と、最後は豪快に笑う。

 三人がここで開いているのは、大きな窯を持ったパン工房だ。

 夜は宿屋になるこの建物で、彼らは山中で作業する者達の食事を用意する傍ら、簡単な食事を旅人に提供している。当初の想定よりも利用者が多く、店先でスープとパンを渡す程度だが、軒先で雨や日差しがしのげて食事も取れるのはありがたいと好評だ。国からの援助があるので、人も資金も今のところ不安はない。

 宿がいっぱいの時は、この軒先に雑魚寝しているものもあるのだという。治安が心配になるが、キアラとその仲間達も目を光らせていて、問題事はあっという間におさまるそうだ。

「そういえば、オルノ村のカーロスさんって人から、役場に連絡があったらしいよ。仕事があるなら、家族で戻ってきたいって言ってるそうなんだ。ランシィ、覚えてるかい?」

「最後の秋に出ていった人じゃないかな、親戚がオルノ村にいるって言ってたと思う」

「住んでた記録が残ってるようだから、素行に問題がなければ認められそうだ。素性がはっきした入植者は大歓迎だよ」

「じきに麦の収穫もあるものね」

「そうそう、手伝いもたくさん来るけどさ、やっぱり住んでもり立ててくれるのが何よりだよ」

 アルテヤとサルツニア、双方の合意で、新しい街道をつくる工事が始まって、もうすぐ三年になる。

 ランシィがサルツニア王に「提案」した、サルツニアとアルテヤを結ぶ新しい街道の開通工事は、既に目に見えた形になって来ていた。

 ツハトの村から更に北に向かう小道。オルネストとタリニオールが、グレイスが越えてきた道。オルフェシアとランシィが、サルツニアに向けてたどった道だ。

 前々から、通れることは判っていたが、国境にあたる山地は特に険しく、冬場は雪に閉ざされる。だがこの道は、整備されれば、サルツニアとアルテヤを結ぶ最短の街道になるのだ。実際、ランシィとオルフェシアは、西の街道を使ったバルテロメ派の間者よりも早くたどり着いた。

 アルテヤ側では、近年、馬の生産に力を入れはじめていた。ツハトの村へ至る道すがら、牧場が作られ、馬を育てるための環境が整っていたのをランシィは見た。馬は軍事にも輸送にも重要な存在だ。この道が国境を越える街道として整備されれば、サルツニアも有力な取引相手になる。

 アルテヤとサルツニア、双方からの検証で、とても実用的で現実的な提案だというのが再確認された。ツハトの村から、イーノスの住む山地の集落付近を経由してサルツニア王都へ続く街道を整備する計画が本格化した。

 人が通れば経済が回り始める。行き止まりだったツハトの村は、山越えのための重要な宿場町になるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。