28.道をつくり星となりて<4/8>
「あなたの言葉の真意、しかと心得ました。もう下がりなさい」
「ありがとうございます」
頭髪のない神官は顔を上げた。人形のように整った顔立ちだったが、年齢はよくわからなかった。剣の宝玉のように紅い双眸がオルフェシアを一瞬映すと、そのまま彼は立ち上がり、当然のようにその場を離れていった。呆然と見送る神官達に、オルフェシアは彼を知っているか問うたが、皆『覚えのない顔だ』という。
「そうでしょうね」
と言うだけで話を終えると、オルフェシアは宝剣ルベロクロスを神官達に託すのではなく、自ら携えたまま王城に帰還した。美しい台座は、美しい箱ごと、そのまま祭壇に戻された。
「嬢ちゃんの目を戻した代わりに、剣から神の力がなくなった?」
イーノスは目を瞬かせた。
「宝剣ルベロクロスの宝玉は、女神ジェノヴァの左目ってことになってたんだろ? 嬢ちゃんの左目には、剣に宿っていた女神ジェノヴァの力が移ったってことになるのか?」
「目に力を戻すことで、残っていた神の力を使い切ってしまったと言うことではないのかな」
オルネストが顎を撫でる。
「レマイナの神官が癒やしの力を使ったからと言って、癒やされたものに神の力が移ったとはいわないだろう」
「まぁそうなんだが、褒美に自身の左目を与えたとか……」
「裁定の瞳とは、人が裁きの力を預けられたことの象徴であって……」
二人の会話を聞きながら、ランシィは雪の日に現れた、灰色の人の言葉を思い起こした。
「ならば強くなるがいい。
ふさわしい強さと、ふさわしい心を持つがいい、時の選びし者よ。ふさわしい力を持つ者に、ジェノヴァは剣を託すだろう」
言葉の流れから、「強くなれば目を見えるようにしてもらえる」という解釈をしたが、それに「女神に剣を託される」ことがどう関わってくるかは判らないままだった。それでもランシィは鍛錬を続け、実力を身につけてきた。それが今回おおいに役に立った。
公正を尊ぶ女神は、ランシィの「目の力を取り戻す」ことで、それまでの努力と働きにふさわしい報いを授けた。と解釈しても、よいのかも知れない。
「……どういう形になるかは判らないが、王も、剣から神威が失われて誰にでも持てるようになったことは、広く公にするつもりのようだ」
タリニオールが、二人の議論に割って入る。へぇ、とイーノスが眉を上げた。
「そうなると、ルベロクロスが持ち主を選ぶっていう伝説自体が嘘だった、って疑われることもあるわけだよな? いや、実は王女も本物は持てなくて、途中から偽物にすり替えたとか……」
「まぁ、そういう噂も今後は出てくるかも知れない」
イーノスの忌憚ない指摘に、タリニオールは肩をすくめて応えた。
「だが、もう誰にでも持てると公になれば、『ランシィが今後、貴族達の権力争いに巻き込まれる危険は大幅に減る』だろう」
「……そういうことか」
限られた者にしか手にすることのできない女神の剣。それを使って、ランシィはバルテロメを退けた。
この話が英雄譚のように広まり、剣を持てる者が一人増えたということになったら、『女神の剣を与えられ、後に国を興した青年シャール』の伝説になぞらえて、ランシィを利用しようと考える者が現れてもおかしくはない。
だが、剣そのものにもう神性が宿っていないという話であれば、微妙に話は違ってくる。
「ランシィに関しては、『女神は、自身の選びし者の子孫を護った剣士に、ふさわしく報いた』ってことで説明できるからな」
女神の導きによって、サルツニア王家は危機を救われた。女神は『王女を救うため』『バルテロメを退けるため』に、片目のない少女を導き、少女は功を成した。地上に残った神の力をもってして、その少女の功に報いた。すべては『サルツニア王家のため』の女神の采配であった。
表向き、王国サルツニアに都合のいい話に見えるだろう。
だがこの解釈を押し通し、ランシィを特別扱いしないことで、サルツニアの王権自体がランシィの『隠れ蓑』になるのである。
「もちろん、女神の公正さに倣って、『サルツニア王家を助けるために』協力してくれた者達には、相応の賞賛と報酬が与えられるだろう。殿下がイーノス殿らと交わしたという約束も、最大限考慮されるだろう。そのために、そちらの指揮官殿は頑張っているのだし」
「後は任せた、って言ったからな、俺は」
イーノスが悪びれもせず頷く。




