27.道をつくり星となりて<3/8>
その後、反乱軍が制圧されてから到着することになったタリニオールは、正規軍の援軍部隊と合流し、保護されたオルフェシアとランシィの無事を確認した。その後は、ランシィはオルネストのさしむけた部隊に預けられ、タリニオール自身は知らせを受けて駆けつけてきた国王軍や騎士とともに、オルフェシアをサルツニア王城に送り届けることになった。
タリニオールが出立してからのアルテヤの状況は、ディゼルトの使いから知らされた。
思わせぶりにアルテヤとの国境付近をうろついていたルトネア軍は、高級住宅街が開放されて、全体の状況が変わったとみるや、潮が引くように去って行ったという。
ディゼルトは、アルジェスの協力を得て、アルテヤ王リュゴーとともに、高級住宅地を占拠していた賊との内通者達を特定し検挙を続けている。賊が足止めした支援部隊が、結果的に賊と協力者達を追い込んでいるのだから、皮肉なものであった。
そして皮肉と言えば、
「そういえば、バルテロメは今どうしてるんだ?」
イーノスが率直な質問の声を上げ、全員がタリニオールに視線を向ける。タリニオールは返答に詰まったものの、ランシィが若干不安そうに眉を寄せたのに気づき、姿勢を正した。
自身が宝剣ルベロクロスを持てないのであれば、オルフェシアの「手」を切り落として、握らせて持ち出せばいい。そう言ったバルテロメ自身の腕が、ルベロクロスによって切り落とされてしまった。
祭壇の間で倒れていたバルテロメは、命こそ取り留めたものの、抜け殻のようになって、誰の言葉にも応えないのだという。命の危険はもうないので、今は王城の一角で治療を受けつつの幽閉状態だが、その後の処遇が決まるまでにはもう少し時間が必要だろう。もちろん、腕は元には戻らなかった。
「ランシィの責任ではない。ランシィの手を借りて、『神の剣がバルテロメを裁いた』のだと、オルフェシア殿下が言っておられた。私もそうなのだろうと思う」
選ばれた者にしか持つことができない神の剣。それ以外のものは持ち上げることもできないのに、ふたりを護るためのあの一瞬、剣はランシィに『託された』のだ。
「……いや待てよ、神剣ルベロクロスに選ばれたってことは、嬢ちゃんも王様になる権利があるってことになるんじゃないのか?」
イーノスが、はっとしたようで声を上げる。
サルツニアの王位継承権に、神剣ルベロクロスが関わっているのは有名な話だ。実際、それを持てなかったことで、王兄も、王兄の息子バルテロメも、正当な血族でありながら継承権を得ることができなかった。それが今回の騒ぎの、大本の火種になったのだ。
そうだとすると、ランシィは新しい問題に巻き込まれることになる。エリディアが不安げにタリニオールとランシィに目を向ける。
「いや、実はそれが……」
タリニオールは困ったような、苦笑いに似た笑みを浮かべた。ランシィも、どうだろうというように肩をすくめる。
「神剣ルベロクロスは、もう、『誰にでも持てる』剣になったんだよ」
それを指摘したのは、事態の前に神殿から脱出し、カーシャムの神官らに保護されていたジェノヴァ神殿の神官のひとりだった。
オルフェシアを護衛する王の騎士達、そして司祭、神官らが見守る中、祭壇の間から運び出されてきた豪華な箱の中の台座に、オルフェシアが剣を納めようとしたとき、
「恐れながらそれは、本当に宝剣であるのですか」
と神官達の中から問うた者があったのだ。
オルフェシアには思いも寄らない問いだった。頭髪のない神官が一人、一歩前に出て膝をつき、頭を垂れている。オルフェシアは問いを返した。
「どうしてそう思うのです」
「神の威厳が、失われているように感じたのでこざいます。まことに宝剣であるとするなら、神の力はもう宿ってはいないのかも知れませぬ」
司祭も戸惑い、他の神官達もざわめいている。言った当の神官は頭を垂れたままだ。オルフェシアは少し考えると、護衛についていた王の騎士の一人に声をかけ、台座の前に横たえた剣を示した。
「持ってご覧なさい」
「ええ? そのような恐れ多い……」
「王の騎士なのですから、叙任の際にこれに触れる許しを得ているはずです。試してご覧なさい」
「は、はぁ……」
騎士はおそるおそる柄を握った。握っただけで、その手の動きに応えて剣が動く。
「あのときは、びくともしなかったのに……?」
訝しげな声とともに、剣は軽々と持ち上がった。神官達と、見守る騎士の間に驚愕のざわめきが広がる。
二人、三人、結果は同じだった。最初驚いていたオルフェシアは、だんだんと合点がいった様子で、最後には楽しんでいるような笑顔さえ浮かべていた。
「なるほど、女神ジェノヴァは、『剣に宿した力をもって、功に報いた』のですね」
どよめきの中、オルフェシアは周りに聞こえるようにそう呟き、頭を垂れたままの神官に向き直った。




