枯れ葉の森と、小さな影
ルクと別れたティモは、教えてもらった通り、足を速めて道を進みました。
やがて小川のせせらぎの音が少しずつ遠のき、目の前には、見上げるほど大きな木々が隙間なく立ち並ぶ『枯れ葉の森』の入り口が広がっていました。
先ほどまでの明るい日差しは太い枝や重なり合う葉に遮られ、森の中には薄緑色の静かな影が落ちています。
「ここが、枯れ葉の森……」
ティモは生唾をゴクリと飲み込み、背中の赤いリュックの肩紐をぎゅっと握りしめました。
見上げる木々の幹はどれも太く、ゴツゴツとした皮に覆われていて、まるで森の番人が立ち塞がっているかのようです。
足元には、何年分も積み重なった深い落ち葉の絨毯が広がっており、一歩踏み出すたびに「フカッ、ズズ……」と足が沈み込みます。
それでもティモは勇気を振り絞り、枯れ葉の森の中へと進み出しました。
森の中はとても静かでした。
時折、頭上で風が枝を揺らす「ザザザ……」という低い音が聞こえるだけで、鳥のさえずりも聞こえません。
足元が深く沈むため、いつもの倍以上の力を使って歩かなければならず、ティモの小さなおでこにはじんわりと汗が滲んできました。
「はぁ、はぁ……足が重いな……」
息を乱しながらも歩き続けていると、ふと、背後で落ち葉がかすかに擦れ合う音が聞こえました。
『カサ……』
ティモはピタリと足を止め、大きな丸い耳をピンと立てて振り返りました。
けれど、そこには重なり合った茶色い落ち葉と、静かに佇む大木が見えるだけです。
「気のせい……かしら?」
首をかしげ、再び前を向いて歩き出します。
『カサッ、カサッ……』
しかし、ティモが歩く速度に合わせて、後ろから小さな足音がついてくるのです。
ティモが立ち止まると、その音もピタリと止まります。
ティモの胸は「トクン、トクン」と激しく鼓動を打ち始めました。
旅立つ前に、お兄ちゃんから聞いた話を思い出します。
『深い森には、旅人を驚かす怪しい影や恐ろしい動物がいることもある』という言葉が、頭の中を駆け巡りました。
「ど、誰かいるの……?」
ティモは声を震わせながら、もう一度後ろを振り返りました。
大きな木の陰をじっと見つめていると、そこからひょっこりと、黒くて丸い二つの瞳が覗いたのです。
「ヒッ……!」
ティモが思わず小さく悲鳴を上げると、木の陰の主も「うわぁっ!」と驚いたような声を上げて、ポテッと尻餅をつきました。
落ち葉の上に転がったのは、ティモと同じくらいの小さなお友達でした。
薄茶色の美しい毛並みに、背中には鋭いけれど可愛らしい針をたくさん生やした、小さなハリネズミの男の子です。
その手には、大きなカエデの葉っぱが大事そうに握られていました。
「あ、痛たた……驚かせてごめんなさい、小さなネズミさん」
ハリネズミの男の子は、短い足で頭を掻きながら、申し訳なさそうに起き上がりました。
「あなたは……ハリネズミさん? どうして私の後ろをついてきていたの?」
ティモがホッと胸を撫でおろしながら尋ねると、ハリネズミの男の子はぽっと頬を赤く染めて、小さくうつむきました。
「僕はピコットっていうんだ。君が大きなリュックを背負って、一人で不安そうに森に入っていくのが見えて……僕、この森の道に詳しいから、もし困っていたら手伝おうか迷っていたんだよ。怪しいものじゃないんだ!」
ピコットの優しく嘘のない瞳を見て、ティモの緊張はすっかり溶けていきました。
「そうだったのですね。疑ってしまってごめんなさい。私はティモといいます。東の街へ向かって旅をしているんです」
「えっ! 東の街へ!? 一人でこんな深い森を抜けるなんて、すごいなぁ……!」
ピコットは丸い目をキラキラと輝かせました。
静かでちょっぴり怖かった枯れ葉の森に、あたたかな出会いの光が灯った瞬間でした。




