サクサク通りのリスさんと、甘いクルミ
陽だまりのクヌギの木を後にして、ティモはさらに小川に沿って歩みを進めていました。
このあたりの道は、色鮮やかな落ち葉が一面に敷き詰められていて、歩くたびに「サクサク、パリパリ」と愉快な音が響きます。
ティモはその軽やかな音に合わせて、小さな足をリズミカルに動かしました。
「サクサク、パリパリ。東の街はどこかな~」
小さな声で歌を口ずさみながら歩いていると、頭上の大きなエノキの枝から、パラパラと小さな木の皮や葉っぱが落ちてきました。
「きゃっ!」
ティモが立ち止まって見上げると、そこには大きなふさふさの尻尾を持った、一匹のシマリスがちょこんと座っていました。
シマリスは両手で大きなクルミをしっかりと抱え、小さな前歯でカリカリと一生懸命に削っています。
「あ、ごめんなさいね、小さなネズミさん! なにかを落としちゃったかい?」
シマリスはくりっとした丸い目を輝かせながら、スルスルと木を降りてティモの目の前の丸太に飛び移りました。
「いいえ、大丈夫です! 驚いただけですから。こんにちは、私はティモといいます」
ティモが丁寧に頭を下げると、シマリスもふさふさの尻尾をパタパタと揺らしながら挨拶を返してくれました。
「僕はルク! このあたりの木の実を集めているんだ。君、大きなリュックを背負って、どこへ行く途中だい?」
「私は、東の大きな街へ行くところなんです。絵の修業に出かけた、大好きな兄を探しに行きたくて」
ティモが胸の紅葉の便りをそっと触れながら答えると、ルクは目を丸くして驚きました。
「東の街だって!? こんなに小さな君が、一人でかい? 東の街へ行くには、この先の深い『枯れ葉の森』を抜けて、険しい山を越えていかなきゃならないんだよ。すごく遠くて大変な道のりなんだから!」
ルクの言葉に、ティモは一瞬ぎゅっと胸が締めつけられるような感覚を覚えました。
分かってはいたものの、実際に言葉にして教えられると、道のりの果てしなさに足がすくみそうになります。
けれど、ティモは背中の赤いリュックをギュッと抱え直し、しっかりとルクの目を見つめ返しました。
「はい。遠くても、大変でも、私は行きます。お兄ちゃんにどうしても会いたいんです」
その瞳のまっすぐな強い光を見て、ルクは感心したように「ふーん」と息を漏らしました。
そして、両手に抱えていた大きなクルミをコンコンと合わせると、手際よくパカリと二つに割ってみせました。
「かっこいいな、ティモちゃん! よし、これをあげるよ。僕が今朝採った中で、一番熟した甘いクルミさ!」
ルクは割ったクルミの片方を、ティモの小さな手の上にぽんと乗せてくれました。
香ばしい木の香りと、濃厚な実の匂いがふわりと鼻をくすぐります。
「えっ、こんな大切なものを頂いてもいいんですか?」
「もちろんだよ! これからの長旅は体力が勝負だからね。それに、強い気持ちを持っている子を応援するのは、森の仲間のマナーなんだ!」
ルクがニッと白い歯を見せて笑うと、ティモの胸の奥にあった不安が、すーっと温かいものに溶けていくようでした。
「ありがとうございます、ルクさん!」
ティモは一口、クルミの実をパクリとかじりました。
カリッとした心地よい歯ごたえの後に、濃厚で甘い油分が口いっぱいに広がります。
今までに食べたどんな木の実よりも、ずっと甘くて力強い味がしました。
「すごく美味しい……! 元気が湧いてきます」
「だろ? 枯れ葉の森に入るなら、日が高いうちに進んだ方がいいよ。森の中は木々が鬱蒼としていて、夕方になるとすぐに暗くなっちゃうからね」
「はい! 教えてくれてありがとうございます。行ってきます、ルクさん!」
「気をつけてね、ティモちゃん! お兄さんに絶対に会えるって、僕が保証するよ!」
手を元気に振りながら見送ってくれるルクの姿が見えなくなるまで、ティモも何度も振り返りながら手を振り返しました。
見知らぬ森で出会った親切な友達と、手に残る香ばしいクルミの味。
小さなハツカネズミの心に、またひとつ、新しい温かな思い出と勇気が灯ったのでした。




